大野雄二 = Yuji Ohno, You & Explosion Band / Made In Y.O. (2005年)

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追悼 大野雄二──日本が生んだミュージック・シーンの至宝による珠玉の名曲の数々が本人の手によって新録音されたアルバム『Made In Y.O.』

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大野雄二 = Yuji Ohno, You & Explosion Band / Made In Y.O. (2005)

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ジャズ・ピアニストとしてプロの道を歩み出すが、ほどなく作曲家へ転身

 

 音楽家、大野雄二がこの世を去った。ついにこのときが来てしまったのか──。突然の訃報は去る5月13日、大野さんの公式Xなどを通じて伝えられた。発表によると、大野さんは2026年5月4日午前6時8分、老衰のため東京都の自宅で永眠された。直前まで普段と変わることなく過ごされていて、就寝中に苦しむことなく安らかに旅立たれたとのこと。享年84歳だった。葬儀および告別式は近親者で行われ、喪主はお姉さんの栗田和子さんが務められたが、後日、お別れの会が開かれるという。さらに同月14日、大野さんの公式Xが更新され、その内容が反響を呼んでいる。そこには「では又、バイビー」と綴られ、笑顔でカメラに向かって手を振る大野さんの写真が掲載されている。気さくな大野さんらしいメッセージだが、なぜかぼくのこころは和むことはなかった。いまはただ、謹んで哀悼の意を表するばかりである。

 

 大野さんは間違いなく、ぼくがもっとも影響を受けた日本の音楽家だ。このブログでも大野さんの作品を何度となく採り上げさせていただいた。云うまでもなく大野さんは、ジャズ・ピアニストとしてキャリアをスタートさせ、その後、映画『犬神家の一族』(1976年)やテレビアニメ『ルパン三世』第2シリーズ(1977年 – 1980年)の音楽を手がけ、作曲家として広く知られるようになった音楽家。1941年5月30日、スタジオジブリのアニメ映画『おもひでぽろぽろ』(1991年)の舞台となったローマ風呂で知られる、静岡県熱海市のホテル大野屋の次男坊として生まれた大野さんは、中学時代にジャズに目覚め、高校時代にはバンド演奏を開始。さらに慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサイェティーで活躍し、鈴木宏昌佐藤允彦とともに“慶應三羽烏”として勇名を馳せた。

 

 大学卒業後はクラリネット奏者、藤家虹二のクインテットに加入、プロ・ミュージシャンとしての道を歩み出す。しかしながら、モダン・ジャズのみに集中することを決意した大野さんは、1年ほどでこのスウィング系バンドを脱退。しばらくフリーのプレイヤーとして活動したのち1965年、今度は白木秀雄クインテットに加入。同バンドにおいて大野さんはプレイヤーにとどまらず、すでにアレンジャーとしても活躍した。その後、大野雄二トリオ日野皓正クァルテット富樫雅彦=鈴木弘クインテットなどで演奏するとともに、マーサ三宅笠井紀美子弘田三枝子らのアカンパニストを務め、ジャズ・ミュージシャンとしての地位を確立。1971年には池田芳夫(b)、岡山和義(ds)をサイドに据えたトリオでレコーディングを行ったが、その音源こそ大野雄二の初リーダー作『ミスター・ハピゴン』(1973年)である。

グランドピアノとユリの花束

 奇しくもこのアルバムの吹き込みが行われたころから、大野さんはジャズ・プレイヤーと作曲家との二足の草鞋を履くようになり、次第にジャズ・シーンから遠ざかっていく。氏は初リーダー作をものする以前に、すでにNHKのドキュメンタリー風ドラマ『ナタを追え~朝日新聞東京版“捜査員”より~』(1970年)の音楽を手がけていたが、広く知られる大野サウンドのはじまりは、なんといっても石立鉄男主演による、日本テレビ系列で1970年代に放映されたホームコメディドラマ・シリーズの第1作『おひかえあそばせ』(1971年)だろう。さらにそれは、日本テレビ系列の『火曜日の女』(1969年11月4日 – 1972年3月)、同系列の昼ドラ『愛のサスペンス劇場』(1975年3月31日 – 1977年3月4日)、NHKの『少年ドラマシリーズ』(1972年1月1日 – 1983年10月11日)といったドラマシリーズで、お茶の間に浸透した。

 

 大野さんが圧倒的な存在感を放ったのは、1970年代の後半のこと。大ブームとなった角川映画の第1作『犬神家の一族』および第2作『人間の証明』(1977年)、そしてテレビアニメ『ルパン三世』の音楽を手がけたことにより一躍脚光を浴びた。ことに1978年は、スゴいことになっている。サウンドトラック・アルバムだけでも『ルパン三世 オリジナル・サウンドトラック』『大追跡』『24時間テレビ 愛は地球を救う』『野性の証明』と立てつづけにリリースされていき、クリスマスまえには早くも『ルパン三世・2』が発売された。しかもその間隙を縫って、大野さんにとってはじめての本格的フュージョン・スタイルのリーダー作『スペース・キッド』が制作され、氏とは長年コンビを組んだブラジル、サンパウロ出身のシンガー、ソニア・ローザの4thアルバム『サンバ・アモール』のレコーディングも行われている。

 

 サウンドトラック・アルバムこそリリースされなかったものの、テレビや映画を賑わせた大野さんの音楽はまだまだある。1978年はほんとうに、大野雄二一色の年だった。ご当人は寝食を忘れるほど仕事に没頭していたのだろう、どれもクオリティの高い作品ばかりだ。テレビドラマだと、日本テレビ系列では「土曜グランド劇場」の1本『貝がらの街』(2月18日〜4月22日)、「金曜劇場」の1本、西村寿行原作『犬笛 – 娘よ、生命の笛を吹け -』(7月7日〜8月25日)、またNHK「銀河テレビ小説」の1本、森村誠一原作『凶水系』(3月13日〜3月24日)、そしてTBS系列で放送された3時間ドラマ、松浦行真原作の『風が燃えた』(8月29日)などがある。なおこれらのテレビドラマのうち『貝がらの街』と『犬笛 – 娘よ、生命の笛を吹け -』は、主題曲のシングル・レコードが発売された。

 

 個人的には1978年を“ニッポン大野雄二年”と定めたい。補筆すると映画では、松田優作主演、村川透監督による“遊戯”シリーズのうち『最も危険な遊戯』(4月8日)と『殺人遊戯』(12月2日)が公開されている。ともに小林旭主演、鈴木則文監督による『多羅尾伴内』舘ひろし主演、長谷部安春監督による『皮ジャン反抗族』が併映された、東映セントラルフィルム製作のいわゆるプログラムピクチャー。“遊戯”シリーズは3000万円の予算枠で製作された作品ではあったが、思いのほか高評価を得た。当然のごとく公開当時にはサウンドトラック・アルバムなどは発売されなかったけれど、即興演奏が活かされたりオケの代わりにソリーナ・ストリング・アンサンブルが上手く使われたりしたハードボイルドなサウンドは、各方面から称賛された。そして音源は結局、1993年にCD化された。

 

 以上は飽くまで、大野ワークスの一部である。際限がないので、これ以上はその作品を枚挙することは控えさせていただくが、当時、大野雄二という音楽家がいかにときのひとだったかはおわかりいただけたであろう。かく云うぼくも、おそらく盆と正月が一緒に来たような状況にあったであろう大野さんに、あらためて「おつかれさまでした」と云いたい気分になってくる。ここではテレビドラマと映画音楽にしか触れなかったが、大野さんは、明治乳業「レディーボーデン」や明治製菓の「きのこの山」をはじめとするCM音楽を星の数ほど作曲しているし、シティ・ポップや歌謡曲、ゲーム音楽、ユニークな例としてはプロレスや競輪のテーマ曲なども手がけている。この場でそれらを列挙することは不可能だが、大野さんは間違いなく日本を代表するオールラウンドな音楽家と云える。

 

2000年代に入ってから本格的にジャズ・プレイヤーとして復帰する

 

 1970年代から長らくサウンド・クリエイターとして大いに腕を振るった大野さんだが、ときおりクラブに姿を現しジャズ・スタンダーズを弾いたりもしていた。1990年代のことだが、ぼくは銀座にあったサテンドールという小規模なクラブで、ピアノ・トリオで出演していた大野さんと、おハナシする時間をいただいたことがある。タオルを首からさげたポロシャツ姿の大野さんは、セットの合間にトマトジュースやオレンジジュースを飲みながら、さばさばした感じで音楽のハナシをされていた。そのざっくばらんな語り口も然ることながら、音楽に対する博覧強記ぶりに驚かされた。自然体で接していただいているのにもかかわらず、青二才のぼくは大野さんに一種、畏怖の念すら覚えたもの。ほんとうに、いい思い出である。

 

 それはさておき、大野さんは2000年代に入ってから本格的にジャズ・プレイヤーとして復帰する。そのキッカケとなったのは、1999年にスタートした“LUPIN THE THIRD「JAZZ」”と銘打たれたジャズ・アルバムのシリーズだった。どのアルバムもハード・バップ系のピアニスト、レッド・ガーランドへのリスペクトを感じさせる、大野雄二トリオが主幹をなす作品だった。このころの大野さんのピアノ・プレイには、ブロックコード奏法をはじめとする、まさにガーランドを彷彿させる展開が垣間見えるようになった。なによりもアドリブが、依然としてファンキーではあるものの、前述の『ミスター・ハピゴン』のそれと比べるとずいぶんシンプルになった。あたかも即興演奏の道理、ひいては音楽の真理みたいなものを見極めたかのごとく、ひとつひとつの音を丁寧に弾いていたのである。

 

 大野さんが、この“LUPIN THE THIRD「JAZZ」”のシリーズで自己の音楽性のルーツを辿っていったとき、次に行き着いたのはホレス・シルヴァーが統率していたころのザ・ジャズ・メッセンジャーズと思われる。むろん2006年に結成されたYuji Ohno & Lupintic Fiveの演奏では、ハード・バップのスタイルがそのまま再現されるのではなく、大野さんが影響を受けたあらゆる音楽の要素が盛り込まれた、新しい感覚のコンボ・スタイルが展開された。現にこのバンドのレパートリーには、4ビートのみならず、ジャズ・ロックやフュージョンが盛んに飛び出してくる。その点、現代のジャズ・シーンにおいて稀有なバンドと云える。このバンドは2016年、メンバーチェンジが行われるとともに、新たにハモンド・オルガン奏者が加えられ、Yuji Ohno & Lupintic Sixへと進化した。

グランドピアノとストップウォッチ

 結局このバンドは、Yuji Ohno & Lupintic Five時代も含めると18年と半年もの間、活動が継続された。ただその間、2022年3月に大野さんが体調不良により入院し、しばらく療養に専念することになり、バンドは活動休止状態となった。しかしながら、2024年5月30日(大野さんの誕生日)に活動を再開。大野さんのオンステージはないものの、バンドはLupintic Six with Fujikochans Produced by YUJI OHNOとして、港区赤坂のビルボードライヴ東京において2セットの公演を果たした。バンドは同年の10月14日、恵比寿ザ・ガーデンホールにて開催されたEBISU JAM 2024にも出演した。大野さんは、復帰後は演奏に参加せず、アレンジとプロデュースに専念していたが、氏の音楽を創造することへの並々ならぬ情熱が感じられた。

 

 ということで、大野さんの来歴を駆け足でお伝えしてきたが、まったく語り切れていない。その仕事量の多さから、このブログではどうコトバを尽くしても一部始終をお伝えすることは不可能と云える。もしこの拙文から、大野雄二という音楽家の奥深さや素晴らしさが伝わらなかったら、それはひとえに筆者であるぼくの責任である。大野さんは間違いなく、日本が生んだミュージック・シーンの至宝なのだから──。そんな思いもあって、今回は大野さんの珠玉の名曲の数々が、ご本人の手によって新録音されたアルバム『Made In Y.O.』(2005年)をご紹介させていただき、こころから氏へ哀悼の意を捧げたいと思う。むろんこれが大野サウンドのすべてではないけれど、一面の真実として極上の音楽であることは間違いない。

 

 このアルバムでは、大野さんの歴代の楽曲はもちろんのこと、書き下ろしの新曲も2曲収録されており、計20曲が10曲ずつに分けられた2枚組CDの豪華ボックス仕様となっている。CD盤とともにデータブックおよびフォトブックも同梱されており、往年の大野サウンドのファンだけでなく、はじめて大野さんの音楽に触れるかたでも手軽に楽しめる作りなので、ぜひ手にとっていただきたい。演奏はユー&エクスプロージョン・バンドとなっているが、このクレジット、大野さんがその全盛期に関わった諸々の音盤で散見されたので、懐かしく思う向きも多いだろう。このバンド名義はもともと、NTVM(日本テレビ音楽)の飯田則子(故人)がエグゼクティヴ・プロデューサーを務める作品にのみ使用されていたものなのだが、めでたく復活の運びとなった。

 

 レコーディングの正確な年月日は不明だが、大野さん自身が3か月レコーディングに没頭したと語っていること、アルバムの発売が2005年7月21日であることなどを勘案すると、アルバム制作は2005年の春から初夏にかけて行われたものと思われる。レコーディング・スタジオは『ルパン三世』第2シリーズのサウンドトラックなどの吹き込みでお馴染みの、港区麻布台のサウンド・シティ・スタジオ、千代田区四番町のサウンドインスタジオ。レコーディング・エンジニアを務めたのは、音楽制作プロダクション、ジェニュインの代表者である三浦克浩。三浦さんはもと日本コロムビアのミキサーで、大野さんの作品では、その昔『スペースコブラ オリジナル・サウンドトラック』(1982年)のレコーディングとミキシングを担当。2000年代以降、大野サウンドにおいてなくてはならない存在となった。

 

 レコーディングには数え切れないほどのミュージシャン(総勢100名を超えるとのこと)が参加しているが、一応、ゲストアーティストも含めて可能な限り列挙してみようと思う。抜けや漏れがあったら、お許しいただきたい。リズム・セクションは、大野雄二(key)、永田一郎(org)、吉田潔(synth)、梶原順(g, ukl)、杉本喜代志(g)、俵山昌之(b)、渡辺直樹(b)、市原康(ds)、則竹裕之(ds)、川瀬正人(perc)、仙道さおり(perc)、矢坂順一(perc)、大井貴司(vib)、西脇辰弥(hmc)、上妻宏光(shamisen)となっている。つづいてサクソフォーン以外のウッドウィンズは、旭孝(fl, Ocarina)、田部井雅世(fl)、木津芳夫(fl)、斎藤寛(fl)、篠原猛(fl)、中川昌三(fl, afl, bfl)、西沢幸彦(fl)、比護いずみ(fl, afl)、星野正(cl)である。

 

 サックス・セクションは、庄司知史(ob)、山口真文(ss, ts)、近藤和彦(as, ts)、ロバート・ザング(as)、山田穣(as)、平原まこと(as, ts, bs)、アンディ・ウルフ(ts)、近藤淳(ts)、吉田治(ts)、宮本剣一(ts)、つづらの敦司(bs)、原田忠幸(bs)、宮本大路(bs)。ブラス・セクションは、奥村晶(tp)、岸義和(tp)、数原晋(tp, flh)、寺島基文(tp)、横山均(tp, flh)萩原顕彰(hr)、藤田乙比古(hr)、片岡雄三(tb)、佐藤洋樹(tb)、鹿討奏(tb)、中川英二郎(tb)、野々下興一(tb)、パトリック・ハララン(tb)、広原正典(tb)、フレッド・シモンズ(tb)、ストリング・セクションは、小林陽一郎グループ篠崎正嗣グループが担当。さらに、朝川朋之(hp)、中谷勝昭(cond)が加わる。余談になるが、ハープは調律費や運搬費で高くつく楽器。つまり本作の吹き込みは、贅が尽くされているのだ。

 

大野さん自身の意向により、単なるベスト・アルバムにはなっていない

 

 またバック・コーラスは、伊集加代子斉藤妙子佐々木久美広谷順子が担当。そしてフィーチュアリング・ヴォーカリストとして、石井竜也サーカスタケカワユキヒデトミー・スナイダーDOUBLEが参加している。この錚々たる顔ぶれには、大御所から若き実力派まで、とにかく日本のトップアーティストが集結したという印象を受ける。プロデュースとアレンジは、すべて大野さんが手がけている。云うまでもなく、このCDに収録されている20曲はすべて氏のペンによるものである。アレンジの特色としては、比較的有名な曲では敢えてオリジナルとは異なるアプローチがなされていること、それに反して当時音盤ではなかなか聴くことができない楽曲はオリジナルに近いスタイルがとられていることが挙げられる。単なるベスト・アルバムにはしないという、大野さん自身の意向によるものだ。

 

 では簡単ではあるが、各曲について触れていこう。アルバムは、お馴染みのテレビアニメ『ルパン三世』オープニング・テーマ 「ルパン三世のテーマ ’80」(2005 version)からスタート。オリジナルは、アルバム『ルパン三世 オリジナル・サウンドトラック3』(1979年)に収録されているが、あの有名なテーマ曲のビッグ・バンド・ジャズ・ヴァージョンである。昔とった杵柄で、大野さんのフルバンドのアレンジは見事のひとこと。ここでは原曲のスウィング感がキープされながら、さらにシンセやストリングスが加えられ、よりダイナミックなサウンドが展開されている。オリジナル版の松石和宏によるマレット捌きも鮮やかだったが、ニュー・ヴァージョンにおける大井貴司のプレイもなかなかのものだ。

 

 角川映画第3弾『野性の証明』の主題歌「戦士の休息」(1978年)では、もとズー・ニー・ヴー町田義人が歌った、ロッキッシュかつリフレッシングなバラードを、ここではもと米米CLUB石井竜也が熱唱する。原曲よりいくぶんポップでゴージャスなアレンジが、石井さんのエモーショナルなヴォーカル・パフォーマンスによくマッチしている。オンワードのファッションブランド、ジェーンモアのCF曲 「ミスティ・トワイライト」は、シティ・ポップ・シンガー、麻倉未稀のデビュー曲でもある。オリジナルは、彼女のファースト・アルバム『SEXY ELEGANCE』(1981年)に収録されている。ここでは大野さんのピアノが主軸に据えられた、ボサノヴァ・インストゥルメンタルとなっている。メロディアスなピアノのアドリブが、実に軽妙である。

グランドピアノと大野雄二の肖像画

 アルバム『ルパン三世・2』に収録されている、サンディー&ザ・サンセッツサンドラ・ホーンが歌った「ラヴ・スコール」は、R&B系女性シンガー、DOUBLEがカヴァー。ゆったりしたテンポ、転調が活かされたソングストラクチュアによって、原曲よりビルドアップする。ソウルフルなヴォーカル・パフォーマンスが感動的だ。ユー&エクスプロージョン・バンドのオリジナル・アルバム『フル・コース』(1983年)からの「ROUTE 246」は、バウンシーなグルーヴは原曲どおりだが、ここではホーン・セクションが加えられている。ピアノとソプラノ・サックスとがジャジーなソロを展開する。なおこの曲、ブラジル出身のフュージョン・バンド、アジムスの「ディア・リマーツ」という曲からの影響が強い。興味のあるかたは、ぜひお試しあれ。

 

 角川映画『犬神家の一族』の主題曲「愛のバラード」は、原曲の骨格や雰囲気はそのまま活かされているが、上妻宏光の三味線によるテーマ部とソロが繰り広げられるダブル・タイムが、なんともユニーク。オリジナル版で印象的な打弦楽器ハンマード・ダルシマーは、ここでは使用されていない。シングル盤のみが発売された、日本テレビ系アニメ『海底超特急マリンエクスプレス』(1979年)の主題歌「THE MARINE EXPRESS」は、16ビートのディスコ・フュージョン。ここでは原曲のヴォーカリスト、トミー・スナイダー、そしてタケカワユキヒデといったゴダイゴのコンビによるデュエットが楽しい。映画『最も危険な遊戯』からの「メインテーマ」は、低予算故のコンボ・スタイルから、ここではメインのミュート・トランペットにホーンズ&ストリングスが加えられた、贅沢なアレンジのジャズ・ナンバーに様変わりしている。

 

 NHK連続テレビ小説『マー姉ちゃん』(1979年)の主題曲「マー姉ちゃん」は、巧みなコード進行と跳ねるようなリズムがバート・バカラックの曲を彷彿させる。口笛風のシンセ、ウクレレ、クラリネットなどが効果的に使われたハッピーなナンバー。嬉しいエクステンデッド・ヴァージョンである。書き下ろしの新曲「Made In Y.O.」は、3部構成の大野版シンフォニック・ジャズ。知的で陰影に富んだ雰囲気は、クラウス・オガーマンの「神々の出現そして不在」という曲を連想させる。そして以下は、2枚目のCDとなる。フジテレビ系アニメ『スペースコブラ』(1982 – 1983)のエンディング・テーマ「シークレット・デザイアー」では、前野曜子に替わってサーカスがヴォーカルをとっている。よりジャジーなアレンジ、秀逸なコーラス・ワークを楽しむことができる。

 

 日本テレビ系ドラマ『大追跡』(1978年)の主題曲「大追跡のテーマ」は、ブラスによるテーマとストリングスによるコーラスとのコントラストが映えるアップテンポの曲。キャッチーなサウンドの元ネタは、大野さんが敬愛するピアニスト、ラムゼイ・ルイスの「スリック」という曲。NHKアニメ『キャプテン・フューチャー』の主題歌「夢の舟乗り」は、オリジナルと同様にタケカワユキヒデが歌っている。フィリー・ソウル風のディスコ・チューンが、ここではヴォーカルも含めてよりソウルフルになっている。アルバム『スペース・キッド』からの「クリスタル・ラヴ」は、原曲どおりやはりフェンダー・ローズのルバート演奏が印象的。ピアノやストリングスによるシネマティックなメロディック・ラインがいかにも大野さんらしい、まさにマスターピースと呼ぶべき1曲だ。

 

 角川映画『人間の証明』の主題歌「人間の証明のテーマ」では、ジョー山中に替わってトミー・スナイダーがヴォーカリストを務めている。次曲の劇場アニメ『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)の主題歌「炎のたからもの」そしてそのあとのNHKの紀行番組『小さな旅』(1983年 – 放送中)の主題曲「小さな旅」とともに、もっとも原曲と異なるアレンジが施されている。まず「人間の証明のテーマ」はロック色が薄くなり、どちらかというとメロウ・ソウル調。西脇辰弥のハーモニカも新鮮だ。次の「炎のたからもの」はボビーのR&Bテイストのフロウが特徴的なヴォーカル・ナンバーからビッグ・バンド・ジャズのインストゥルメンタルに、さらに「小さな旅」はオーボエが主旋律を奏でるノスタルジックな曲からトロンボーンやアコースティック・ギターがフィーチュアされたボサノヴァ・チューンにアレンジされている。

 

 石立鉄男主演によるホームコメディドラマ・シリーズの第5作「水もれ甲介」(1974年 – 1975年)の主題歌でシングル盤も発売された「水もれ甲介」では、ほぼオリジナルのムードがキープされている。洗練されたポップスの作風は、バカラック・マナーを感じさせる。原曲を歌った、シンガーズ・スリー伊集加代子の参加が嬉しい。新曲のビッグ・バンド・スタイルのジャズ・バラード「Jiggy Beans」を挟んで、アルバム『24時間テレビ 愛は地球を救う』収録の「LOVE SAVES THE EARTH」が、アルバムを締めくくる。アレクサンダー・カレッジの「宇宙大作戦のテーマ」を彷彿させる、スペクタクルな曲調が爽快。ここではサンバ・エンヘード風にリアレンジされているが、ぼくはこのヴァージョンのほうが好き。ということでざっくりとお伝えしたが、本作は大野雄二という偉大なる音楽家の足跡を辿る上で格好のアルバムとなっている。ぜひ多くのかたに、手にとっていただきたいものである。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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