フランスが生んだ音楽スタイルの境界を撤廃しようとする理想主義者の作曲家、ミシェル・コロンビエが音楽を手がけたオリジナル・サウンドトラック・アルバム『相続人』
Michel Colombier / L’Héritier (1973)
Today’s Tune : L’Héritier (Thème)
サウンドトラックでありながらオリジナル・アルバムといった風情
いまぼくの手元に『相続人』(1973年)という古いLPレコードがあるのだけれど、これは1973年に公開されたフランスとイタリアとが合作したサスペンス映画のサウンドトラック・アルバムだ。監督はフィリップ・ラブロ、主演はフランスを代表する人気俳優、ジャン=ポール・ベルモンド。この映画、日本でもフランスとおなじ年に公開され、6年後の1979年には日本テレビ系列の映画番組『水曜ロードショー』において日本語吹替版がテレビ放送されるという、なかなかの人気作品である。シリアスなドラマからアクションやコメディまでこなすベルモンドにとっても、代表作のひとつと云ってもいいだろう。なによりもサントラ盤が日本でもしっかりリリースされるくらいだから、当初からそれなりの人気を集めていたと想像される。
ぼくの所持するレコードはキングレコードが発売した国内盤で、そのタスキには「ロードショー誌 第1回推薦サントラ盤」という記載がある。ということは映画にしても音盤にしても、その時代を生きたひとたちからはそれなりに支持されていたのかもしれない。ぼくは中学生のころにこのレコードを手に入れたのだけれど、映画のほうは『水曜ロードショー』ではじめて観たクチ。とはいっても、映画が気に入ったからサントラ盤を購入したというわけではない。この映画において、ぼくにとってもっとも注目される出来事といえば、実はこの音楽を手がけているのがミシェル・コロンビエであるということなのである。コロンビエは映画音楽の作曲家であると同時に、ジャズ、フュージョン、ロック、ポップス、クラシック、それに現代音楽など、幅広いジャンルで活躍するミュージシャンだった。
ミシェル・コロンビエ(1939年5月23日 – 2004年11月14日)は、当時のぼくにとって“第三の男”だった。むろんキャロル・リード監督によるあの不朽の名作映画とは、なんの関係もない。ミュージック・シーンにおいて、コンポーザー、アレンジャー、キーボーディスト、そしてプロデューサーといった具合に、総合的に活動する音楽家は数多存在するけれど、ぼくがもっとも敬愛するのはボブ・ジェームスとデイヴ・グルーシンのふたり。そしてそれに次ぐアーティストといえば、コロンビエしかいないのである。いちばんの理由は、そのミュージカリティの幅の広さ。前述のようにコロンビエは様々なジャンルの音楽に対応したミュージシャンで、通常のスタジオ・ワークのほか映像作品や舞台舞踊にも、たくさんのスコアを提供した。

そんなコロンビエのヴァーサティリティに富んだ音楽性が、ボブ・ジェームスやデイヴ・グルーシンのそれとよく似ているのだ。ことにジェームスの『BJ4』(1977年)、グルーシンの『ジェントル・サウンド』(1978年)、そしてコロンビエの『スーパー・フュージョン!』(1979年)といったアルバムは、当時なんとなく音楽家になりたいと思っていたぼくにとって(結局ならなかったけれど)、バイブルのようなもの。幼いころからピアノの個人レッスンは受けていたものの、作曲やアレンジに関して正統な音楽教育を受けなかったぼくには大いに役立った作品だ。いまになってみるとこの3枚、自分でも呆れるほど何度も聴き込んだレコードだった。そんなわけで、サウンドトラック・アルバム『相続人』は、ぼくにとっては手にとるべくして手にとったレコードなのである。
ところでこの『相続人』というアルバム、A面には「相続人のテーマ」「回想」「工場にて」「ホテル・ルテティア」「誘拐」「相続人 (パート2)」といった6曲、B面には「カード占い」「魔法」「カード占い (パート2)」「ブレークダウン」「カード占い (フィナーレ)」といった5曲が収録されている。実はこのアルバムの収録曲のうち、映画『相続人』のサウンドトラックはA面の6曲のみ。ではB面の5曲はなにかというと、ホセ・マリア・フォルケ監督によるスペイン、フランス合作のスリラー映画『タロット』(1973年)のサウンドトラックなのである。ローリング・ストーンズやピーター・フランプトンとの共演で知られるカナダ出身の女性R&Bシンガー、ナネット・ワークマンによるハスキーな歌声とパワフルな歌唱が、強烈な印象を与える。
このレコード、ハーブ・アルパートとジェリー・モスが設立した、A&Mレコードからリリースされている。それこそピーター・フランプトンをはじめ、セルジオ・メンデス、クインシー・ジョーンズ、バート・バカラック、カーペンターズ、ポリスなどのヒット・アルバムを世に送り出した、歴史ある名門音楽レーベルだ。その点を鑑みると、この『相続人』というレコードは、サウンドトラック・レコーディングという仕様でありながら、ミシェル・コロンビエのオリジナル・アルバムという風情を感じさせる。リズム・セクションが、ミシェル・コロンビエ(key)、クロード・エンジェル(g)、ヤニック・トップ(b)、ジャン・シュルタイス(ds, perc)といった、フランスの名だたる面々で構成されていることからも、そう思えてしまうのだ。
しかもこのレコード、長年埋もれていた貴重な未発表音源の発掘や、入手困難なレアなレコード、サウンドトラック・アルバム、ライブラリー・ミュージックなどのリイシューで知られるフランスのレーベル、トランスヴェルサル・ディスクによって2025年にリマスター・アナログ盤として復刻された。ということは、よほどの人気盤なのだろう。なおあとになったが、このサウンドトラックの吹き込みは、フランスの著名なレコーディング・エンジニア、クロード・エルメリンの手によって、彼が設立および運営に関わったパリの伝説的レコーディング・スタジオ、スタジオ・ダヴーにて行われた。アルバム・プロデュース、そして作曲とアレンジは、コロンビエ自身が一手に担っている。また「カード占い」をはじめとするヴォーカル曲の歌詞は、ワークマンのペンによるものだ。
ときに、ぼくがコロンビエの名前にはじめて注目したのは、人気フュージョン・ギタリスト、リー・リトナーの『キャプテン・フィンガーズ』(1977年)というアルバムでのこと。リトナーのオリジナル曲「ドルフィン・ドリームス」において、ストリングスのアレンジャー&コンダクターとしてコロンビエのクレジットを発見した。同アルバムには、さきに挙げたデイヴ・グルーシンもアレンジャーとして参加しているが、コロンビエのスコアはグルーシンのそれよりもずっとシンフォニックで、楽曲の印象を壮大なものにしていた。それはともかく、同作のクレジットにおいてコロンビエはA&Mレコードの所属と表記されていた。そのことを記憶に留めて彼のレコードを探し求めていたぼくは、ちょうどそのころリイシューされたコロンビエのセカンド・アルバム『ウィングス』(1971年)をショップで発見した。
サウンドトラックだが既成の枠にとらわれない実験的かつ革新的な作品
ベルギーの芸術家、ジャン・ミシェル・フォロンのイラストがジャケットにあしらわれた『ウィングス』を手にしたとき、ぼくは狂喜乱舞したもの。中学生になったばかりのころのことである。ちなみに『ウィングス』のファースト・イシューのジャケットは、悲しくなるくらい味気ない仕様だったりする。まあそれは置いておいて、そのコンテンツといえば、ハーブ・アルパートのプロデュースのもと、アルパートの奥さまのラニ・ホール、ライチャス・ブラザーズのビル・メドレー、シンガーソングライターのポール・ウィリアムズ、シスターズ・ラヴのヴァーメッタ・ロイスターなどのシンガーがフィーチュアされながらも、オーケストラルなサウンドが際立つ一大組曲となっている。敢えてカテゴライズすれば、プログレッシヴ・ロック。とはいっても、既成の枠にとらわれない実験的であり革新的な作品だ。
そういう経緯を踏まえると余計に、この『相続人』というレコードが、ちゃんとサウンドトラック・アルバムという体裁を保っているのにもかかわらず、あたかもコロンビエのオリジナル・アルバムであるかのように、ぼくには思えてくるのだ。ひょっとすると、A&Mレコードもそういう売りかたを企図したのかもしれない。いずれにせよ『相続人』は、コロンビエの代表作のひとつと云っていい。その証拠というわけでもないけれど、シンコーミュージック・エンタテイメントが2013年に出版した『ディスク・コレクション サウンドトラック』という書籍のなかで、このアルバムが紹介されている。銀幕に数多くのスコアを提供したコロンビエであるが、同書で採り上げられたサントラ盤はこれ1枚に止めを刺す。そのことからも本作は、映画音楽におけるコロンビエのマスターピースと云えるのかもしれない。
また、この書籍に掲載されているアイテムはオリジナルのLPレコードではなく、エマーシー・レコードが2003年にCDでリリースしたフランス盤。オリジナル盤のA面6曲に加え、イタリア出身のシンガー、ドゥルピがフィーチュアされたシングル盤のみの発売となっていた『潮騒』(1974年)、そしてやはり映画公開当初はシングル盤のみがリリースされた『危険を買う男』(1976年)といった、コロンビエが音楽を手がけたサウンドトラックの(初商品化も含む)音源が収録されている。いまのところ『相続人』のスコアを気軽に楽しむことができるのは、このコンピレーション・アルバムくらいのものだ。ちなみに『潮騒』はその後、2017年にフランスのインディペンデント・レーベル、ミュージック・ボックス・レコードによって、単体でCD化された。

映画『潮騒』と『危険を買う男』はともに、『相続人』と同様にフィリップ・ラブロの監督作品。『潮騒』はイヴ・モンタン、キャサリン・ロス主演による社会派サスペンス。ロスがヒロイン役を体当たりで演じ話題になった。いっぽう『危険を買う男』は『相続人』とおなじくジャン=ポール・ベルモンドが主演を務めたアクション映画。こちらは、ベルモンドが自身で危険なスタントに挑んだことが注目を集めた。結局のところ、エマーシーのコンピレーショ・アルバムは、コロンビエの作品集であると同時にラブロ監督の作品集でもあるのだ。コロンビエによるエレクトロニックでグルーヴィーなスコアは、都会的で洗練されたイメージを与えるが、ラブロ監督のスタイリッシュな映像美と非常に相性がよく、作品の魅力を大きく引き立てている。
それ故このCDには、オリジナルのレコード『相続人』のB面を占めていた『タロット』の5曲は収録されていない。なお『タロット』のスコアは未発表音源も含めて、2014年、前述のミュージック・ボックス・レコードによって、やはりコロンビエが音楽を手がけたエリック・リップマン監督によるフランスの官能映画『甘い戯れ』(1975年)のアンダースコアとともにコンパイルされ、CDアルバムとして発売された。なんだかややこしくなってきたが、結局のところA&Mレコードが1973年に発売したアルバム『相続人』の全曲をCDで聴くためには、2枚のコンピレーション・アルバムを入手しなければならないのである。もしコロンビエのサウンドトラックをはじめて手にとるのなら、ぼくは断然エマーシー盤『相続人/危険を買う男』(2003年)のほうをお薦めする。
ぼくはコロンビエのオリジナル・アルバム『ウィングス』を、既成の枠にとらわれない実験的であり革新的な作品と云ったけれど、その独特のサウンドとおなじベクトルをもつのが、エマーシー盤に収録されている3作品のスコアなのである。ことにオリジナル盤『相続人』に収録されていた6曲のスコアは、秀逸な出来栄え。シンセサイザー、ギター、ベース、パーカッションを主体としたアンサンブルが打ち出す、ロッキッシュな力強いバックビートとジャズ特有の複雑なリズム・アプローチとが交錯するサウンドは、鮮明な印象として残る。本作におけるコロンビエのスコアは、余分な音がなく輪郭がはっきりとしていて、終始シャープでアーバンなムードを醸し出しているが、映画のハードボイルドなタッチによくマッチしている。
ではこのあたりでコロンビエについて、もう少し詳しくお伝えしておこう。1939年5月23日、フランスの南東部に位置する都市リヨンに生まれたミシェル・コロンビエは、6歳から本格的な音楽教育を受けはじめた。音楽家の父親からピアノ演奏、和声法、対位法、そして指揮法を学んだ。11歳で即興演奏をはじめ、14歳でジャズに出会い、スモール・コンボやビッグ・バンドで演奏。それらのバンドではプレイヤーとしてだけではなくアレンジャーとしても活躍し、大胆なスコアを提供していたという。そのいっぽうで当時のコロンビエは、父親の指導のもと教会オルガンやグレゴリオ聖歌についても学んでいた。その後フランス軍での兵役期間中においても、彼はチェンバー・オーケストラからジャズ・バンドに至るまで、きわめて幅広いジャンルの音楽の作曲、編曲、そして演奏をつづけた。
コロンビエは22歳のとき、フランスの前衛作曲家で数多くの映画音楽を手がけたミシェル・マーニュのもとで1年ほど働いたあと、フランスのバークレー・レコードの音楽監督に就任した。同レーベルにおいてシャルル・アズナヴールやシャルル・トレネなどのレコーディングを手がけた。コロンビエの最初期の仕事を確認できる音盤は、おそらくフランスのジャズ・シンガー、サッシャ・ディステルのライヴ・アルバム『サッシャ・ディステル・ア・ロランピア』(1963年)あたりだろう。こちらはRCA ビクターからリリースされたレコードだが、このアルバムに収録されている12曲のうち5曲において、コロンビエがアレンジを手がけている。その後、ジャンヌ・モロー、セルジュ・ゲンスブールらの楽曲で、コロンビエがオーケストレーションを手がけたことは、比較的よく知られている。
不世出のサウンド・クリエイターが手がけた映画音楽における代表作
コロンビエのことを語るとき、絶対に外せないのがマルセイユ生まれのバレエ振付家、モーリス・ベジャールの作品『現代のためのミサ』(1967年)の音楽を手がけたこと。パリ生まれの現代音楽の作曲家、ピエール・アンリとのコラボレーション作品である。アンリはミュジーク・コンクレートの先駆者として広く知られているが、この作品ではコロンビエとともに、実に斬新な電子音楽ジャークを繰り広げている。ジャークというのは、1960年代に流行したロック風の軽快なダンス・ステップのこと。アンリによる多彩な電子音や金属音と、コロンビエによる歯切れのいいロック・ビートとが見事に融合している。シンセサイザー全盛期以前において、エレクトロニクスがバレエの附随音楽のなかに大胆に導入されたケースは、ほかにあまり例を見ない。
なおこの刺激的なサウンドは『現代のためのミサ/ピエール・アンリ・コレクション』(1968年)というアルバムで聴くことができるが、特に「サイケ・ロック」「ジェリコ・ジャーク」といった曲は非常に人気が高い。現に『現代のためのミサ』の楽曲は、ずっとあとに英国のダンス・ミュージック・プロデューサー、ウィリアム・オービットや、ロンドンのトップクラスのDJ、ファットボーイ・スリムなどによってリミックスされた。それらのトラックはアルバム『メタモルフォーゼ』(1997年)としてまとめられ日本でも発売された。このアルバム、発表された当時は存外大きな話題になったのだが、コロンビエのファンだったぼくは欣喜雀躍したものである。まあそれはともかく、この実験的かつ革新的な音楽を機にコロンビエはバレエの世界に深く関わるようになる。その点でも、重要な作品だ。
コロンビエはこのころからすでに、ヴァーサティリティに富んだ音楽性を発揮していた。上記の『現代のためのミサ/ピエール・アンリ・コレクション』が発売されたすぐあとに、彼は初リーダ・アルバムを発表している。ヌイイ=シュル=セーヌ生まれのシンガーソングライター、ユーグ・オフレが創設したレーベル、ラ・コンパニーからリリースされたコロンビエのファースト・アルバム『カポ・ポアンチュ』(1969年)は、いわゆるヴァリエテ・フランセーズ(日本でいうところのフレンチ・ポップ)が特色となった作品。このアルバムと『現代のためのミサ/ピエール・アンリ・コレクション』とは、ほぼ同時期に制作されたわけだが、本来まったく異なる音楽にカテゴライズされるもの。そして、このふたつをつなぐミッシングリンクこそ、コロンビエの音楽性なのである。

まあ、コロンビエ本人が自分自身のことを「音楽スタイルの境界を撤廃しようとする、理想主義者の作曲家」と述べているくらいだから、そもそも彼の創造するサウンドをなにかひとつの音楽に結びつけて考えようとすること自体、ナンセンスなのだ。そういった意味では、コロンビエの音楽は純粋なフュージョン・ミュージックと云えるのかもしれない。たとえ既成概念ではぶつかり合うような複数の音楽でも、彼の手にかかってしまうと、説得力のある感動的なミクスチュアとなるのだから、舌を巻くばかりである。それはともかくコロンビエは、1968年からイギリス出身でフランスでも活躍していた女性シンガー、ペトゥラ・クラークの音楽監督を務めていたのだが、彼女とともに渡米。クラークの所属レーベル、A&Mレコードの専属アーティストとなるのであった。
前述のように、コロンビエはA&Mにおいてハーブ・アルパートとのコラボレーションによりアルバム『ウィングス』を制作。人気ポップ・シンガー、実力派のロック・ミュージシャン、そして歴史あるパリ国立歌劇場管弦楽団らを、コロンビエが見事にオーガナイズしてクリエイトしたサウンドは、画期的なポップ・シンフォニー、先駆的なロック・オラトリオと、各界から称賛された。コロンビエ自身もこれを機に国際的なメディアから、ジョージ・ガーシュウィンやレナード・バーンスタインと肩を並べる存在と云われるほど、高評価を得るようになった。その後の彼は、バレエ音楽、歌曲、室内楽曲、交響曲、協奏曲、ビデオ・オペラなどを作曲するかたわら、映画音楽、ジャズ、ポップ・ミュージックの仕事を精力的に手がけるようになる。
そんななかコロンビエは1979年、サード・アルバム『スーパー・フュージョン!』を発表。どのような経緯だったのか定かではないが、本作はニュー・ウェイヴやパンクも含めた英国のロック系のレーベル、クリサリス・レコードからリリースされた。このフュージョン・ミュージックの傑作が生み出されるキッカケのひとつは、ブラジル出身の女性シンガー、フローラ・プリンのアルバム『エヴリデイ・エヴリナイト』(1978年)の成功にあると、容易に想像される。このプリンのアルバムは実質的に、彼女とコロンビエとのコラボレーション・アルバムと云っても過言ではない。全11曲中8曲をコロンビエが作曲しているし、オーケストレーションもすべて彼が手がけているからだ。この2枚はさきにも触れたが、ぼくにとって座右に置く作品となっている。
なお、ハービー・ハンコック(key)、マイケル・ボディッカー(synth)、リー・リトナー(g)、ジャコ・パストリアス(b)、アイルト・モレイラ(perc)、そしてロンドン交響楽団といった、錚々たる顔ぶれがどちらのアルバムにも参加している。確かに『スーパー・フュージョン!』のトータル・サウンドには、ジャズ、フュージョンのテクスチュアが感じられるけれど、ひとつのジャンルには収まり切らない音楽のファクターがたくさんミックスされている。コロンビエほど様々な音楽を熟知し、それらをフレキシブルに採り入れて新しいものに昇華させることができるサウンド・クリエイターを、ぼくはほかに知らない。そしてさらに彼は、2枚組LPのフォース・アルバム『ふぁんたじい』(1983年)で、その音楽世界を拡大。前述のフォロンによるイラストとドローイングも増強される。
この『ふぁんたじい』は『ウィングス』と『スーパー・フュージョン!』とのハイブリッド的な一大作品で、本作以降、コロンビエはさらなる飛躍を予感させたのだが、オリジナル作品では『曼荼羅』(1998年)『カタパルト』(2000年)といったバレエ音楽のアルバムをリリースしたのち、がんを患い2004年11月14日に65歳で鬼籍に入った。ほんとうに惜しまれてならない。そんな不世出のサウンド・クリエイター、ミシェル・コロンビエが手がけた数多くの映画音楽のなかで代表作とされる『相続人』のスコアは、これまで述べてきた彼のオリジナル・アルバムに引けを取らないユニークさをもっている。最後に簡単ではあるが、その楽曲についてメモしておく。重厚なオーケストラとロッキッシュなリズム・セクションが絡み合う「相続人のテーマ」は、アルバム『ウィングス』の楽曲に通じるものがある。
さらには、テーマ曲のヴァリエーションである「回想」における、オーケストラにエレクトロニクスが効果的にミックスされた静謐で幻想的なサウンドには、コロンビエのアレンジャーとしての繊細さが感じられる。つづく「工場にて」もやはりテーマ曲がアレンジされたものだが、リズミカルなバンド演奏とブラスのアンサンブルとがシンプルに展開されながらも、どこか厳かで気高い印象を与える。テーマの導入部とおなじモティーフによる「ホテル・ルテティア」では、穏やかさのなかにも陰影をつけるような色彩感がなんとも美しい。短尺ながら緊迫したアクションと一瞬の不穏さが詰め込まれた「誘拐」では、躍動感に富んだジャズ・ファンクが展開される。ラストの「相続人 (パート2)」では、リズム隊、エレクトロニクス、ストリングスが溶け合って、重厚感を漂わせた余韻を残す。コンパクトではあるが、コロンビエのファンなら一聴の価値ありである。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。






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