ボブ・ジェームスとアール・クルーとのコラボレーションが美しいアコースティック・サウンド・タペストリーを綾なす『ワン・オン・ワン』
Album : Bob James & Earl Klugh / One On One (1979)
Today’s Tune : The Afterglow
高級感が演出されたタッパン・ジー・レコードの作品群
秋になると聴きたくなる1枚が、ボブ・ジェームス&アール・クルーの『ワン・オン・ワン』(1979年)である。秋といえば、たとえば風やせせらぎなどの自然の音がひそやかに聞こえてくるようなイメージがある。それがなんとなくものの哀れを誘うように感じられて、思いのほかこころに染みたりする。このレコードをぼくがはじめて聴いたのは中学生のころだけれど、たとえ年端もいかない少年であっても、そこにある音楽に律の調べを重ね合わせてしみじみとした情趣を感じたりするのであった。それは、この『ワン・オン・ワン』というアルバムで繰り広げられているサウンドのテクスチュアに、一点の曇りもない秋空ような爽やかさとこころを暖めるような柔らかさが感じられるからだ。
日本ではCBS・ソニーレコード(現在のソニー・ミュージックレコーズ)が制作した高品質レコード、マスターサウンド・シリーズの1枚としてリリースされた『ワン・オン・ワン』のサウンド・クオリティは、従来のレコードよりもクリアに再現されているように感じられた。少なくとも米国のオリジナル盤よりは、音質の安定感が高いと思われる。だからぼくは、ボブ・ジェームスのアルバムに関しては、いつも国内盤が発売されるのを待ったものだ。それはさておき、この『ワン・オン・ワン』の国内盤のタスキには、こんなキャッチコピーが記されている。それは「ボブ・ジェームスとアール・クルーの競演で綾なすアコースティック・サウンド・タペストリー!」といった具合である。
このコピー、なかなか云い得て妙であると、ぼくは思う。当時のジェームスは、“ミスター・ニューヨーク”という異名をとるほどの、アメリカ東海岸のフュージョン・シーンを牽引するキーボーディストのひとり。かたやアール・クルーは、ミシガン州デトロイトを拠点に構えるギタリスト。エレクトリック・ギターの勢力が強いシーンにおいて、彼は一貫してナイロン弦ギターを主体とした独自のスタイルのフュージョン・サウンドを展開するユニークな存在だった。当時ふたりはすでに日本でもたいへんな人気を誇っていたが、コラボレーション・アルバムをリリースするのはともにこれがはじめて。そういう意味では、夢の共演と云える。そして、くだんのタスキにはさらに「秋風にフィット!」とも記されているのだった。

上記のコピーは、本盤が日本でリリースされる時節に合わせて案出されたものだろうけれど、ぼくには当時からアルバムのコンテンツにピッタリの表現であるように思われた。ときに『ワン・オン・ワン』は、ジェームスの自己レーベル、タッパン・ジー・レコードからリリースされた。クルーは当時、ユナイテッド・アーティスツ・レコードの専属アーティストだったので、このコラボレーション・アルバムは同レーベルの厚意によって実現したと云っていい。そんなわけで、本作のプロデュース、アレンジメント、コンダクティングは、ジェームスによって一手に担われている。とはいってもソングライティングやパフォーマンスに関しては、ふたりは同等の立場をとっている。
それはそうと、タッパン・ジー・レコードがリリースするレコードといえば、振り返ってみるとかなり高級感が演出されていたように思われる。このレーベルのアルバムは一部の例外はあるものの、そのほとんどのジャケットがゲートフォールド仕様だった。ジャケットを本のように開くことができる、俗にダブルジャケットとも呼ばれるものだが、それにはタッパン・ジーというか主宰者であるジェームスの音楽制作におけるある種のこだわりさえ感じられる。それすなわち、ジャケットは音楽の内容をイメージさせる作品の重要な一部であるという、彼の信条の顕れではなかろうか。タッパン・ジー作品のアートワークは、著名な女性グラフィックデザイナー、ポーラ・シェアによるものだが、どれにも胸をときめかせるものがある。
シェアがデザインしたタッパン・ジー作品のジャケットには、彼女の独特の意匠が凝らされている。ことにジェームスのアルバムのアートワークは、ちょっとした仕掛けが施されていて、見ているだけでこころが踊る。ジャケットには作品を象徴するオブジェの写真があしらわているのだが、それは同時にジェームスがリリースするアルバムの作品番号を示唆するものでもあるのだ。いささか余談になるが、いい機会なので例示してみよう。彼のタッパン・ジーにおける最初のリーダー作は『ヘッズ』だが、CTIレコードからリリースされた『はげ山の一夜』(1974年)から数えると、通算5枚目のアルバムということになる。そのジャケットには、5セント硬貨がクローズアップされている。すなわちそれは、第5作であることを示すものだ。
さらにジャケットに大写しとなっている被写体を順番に観ていくと『タッチダウン』(1978年)のアメフト・ボール(タッチダウンしたときの得点は6)『ラッキー・セヴン』(1979年)のナナホシテントウ(赤色の鞘翅に浮かぶ黒い紋の数は7)『H』(1980年)のホットドッグ(頭文字“H”のアルファベットにおける順序番号は8)『サイン・オブ・ザ・タイムス』(1981年)の疑問符の道路標識(“?”の起源は“q”、その変形は9)『ハンズ・ダウン』(1982年)の両手のシルエット(指の数は10)『フォクシー』(1983年)の女性の交差した足とそれに挟まれたジェームス自身の手(その形状が示す“XI”はつまり11)『トゥウエルヴ』(1984年)の巷に散在する“12”に囲まれたジェームス自身のフェイスフォト(云うまでもなく12)となっている。
ただ、上記のうち『ハンズ・ダウン』以降のアートワークは、シェアがデザインしたものではない。それらのデザインを手がけたのは、当時のコロムビア・レコードのアートディレクターで、アルバム・カヴァー・アートの巨匠とも云われるジョン・バーグ。ジェームスがテーマ曲を担当したテレビシリーズ『タクシー』(1978年 – 1983年)にちなんだスペシャル・アルバム『N. Y. メロウ』(1983年)もまた、彼の意匠である。いずれにしても、結果的にジェームスのリーダー作は、花も実もあるものとなった。だから彼の音楽に触れたことがないかたでも、上に挙げた作品のジャケットを見てなにかこころに響くものがあったなら、ぜひ中身のほうもお試しいただきたい。ジェームスの作品は、看板に偽りがないこと請け合いである。
後続のコラボレーション2作品とは、だいぶ印象を異にする
ところで肝心の『ワン・オン・ワン』だが、こちらのジャケットはポーラ・シェアがデザインしたものだ。いまではなかなか見かけないブックマッチのクローズアップ写真があしらわれている。紙マッチはあらかた千切られており、残っているのは2本のみ。このアートワークの成り立ちが、アルバム・タイトルに起因するものであることは、火を見るよりも明らかだ。つまり紙マッチは、いままさに“One On One”の状態にある。云うまでもなく、“One On One”は“1対1”という意味。残された2本のマッチは、ジェームスとクルーとが対峙するさまをイメージさせる。前述したように、本作のソングライティングとパフォーマンスにおいて、ふたりは同等の立場をとっているが、そのことが上手く表現されている。
結局のところ『ワン・オン・ワン』はスマッシュヒットとなり、1981年度のグラミー賞ベスト・ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞も受賞している。それ故か、その後ジェームスとクルーとはソロ活動の合間を縫って、さらに2枚のコラボレーション・アルバムを制作する。具体的には『トゥー・オブ・ア・カインド』(1982年)『クール』(1992年)といった作品になるが、前者はクルーの当時の所属レーベル、キャピトル・レコードからリリースされ、後者はジェームスが移籍したあと取締役も務めたワーナー・ブラザース・レコードから発売された。なお『クール』では、久々にシェアがジャケットのデザインを手がけている。青空に浮かぶ2本のキュウリといった絵面は、タッパン・ジー時代の意匠を彷彿させる。
上記の3枚のアルバムを比較すると、各々の印象はかなり異なる。これはボブ・ジェームスという音楽家が、たとえリユニオン・セッションであってもノスタルジックな方向に流れることはなく、前向きな方法でサウンドをクリエイトするひとだからだろう。強いて云えば、レコーディングのスタイルとメンバーにおいて『トゥー・オブ・ア・カインド』と『クール』とは通じ合うところがある。両者の吹き込みではともに、ボブ・ジェームス(key)、アール・クルー(g)、ゲイリー・キング(b)、ハーヴィー・メイソン(ds)、レナード “ドック” ギブス(perc)といったリズム隊が中心となっている。むろん楽曲によっては、サウンドに彩りを添えるアディショナル・ミュージシャンも何人か参加している。

この2作は楽曲においても、ジェームスとクルー以外のミュージシャンのペンによるものが含まれているという点で共通する。そのぶんメロディ、リズム、ハーモニーと、どの部分を採ってみても広がりを見せている。それに反して編成はコンパクトだが、それ故サウンドは気の合うもの同士のセッションといった印象を与える。音に厚みをつける役目はシンセサイザーやMIDI関連機器が担っているが、むしろそのシンプルさがプレイヤーたちのインプロヴィゼーションやコンピングを際立たせているようにも思われる。そういう意味で『トゥー・オブ・ア・カインド』『クール』は、平たく云うとジャジーなフュージョン作品と云える。その点で『ワン・オン・ワン』とは、だいぶ印象を異にする。
ぼくはジェームスとクルーとによる3枚のコラボ作のなかでは、その嚆矢である『ワン・オン・ワン』がいちばん好きだ。べつに後続の2作品がそれに劣るというわけではないし、躍動感溢れるビートや緊密度の高いアドリブという点では、むしろ1作目に勝ると思われる。しかしながら、出来したサウンドを包括的に観たとき、それがもっとも充実しているのは『ワン・オン・ワン』なのだ。さらに云えば本作は、単純に鑑賞音楽として向き合ったとき、至高とも云うべき奥行きと味わいの深さを感じさせてくれる。本作のレコーディングでは、電子工学的手法によって合成された楽音のミックスは一切採用されていないが、その極上のアコースティックなサウンドは、それこそ秋風にフィットしそうである。
振り返ってみると、ジェームスがオーケストレーションにシンセサイザーを本格的に導入しはじめたのは、1982年ごろのこと。アルバムでいうと『トゥー・オブ・ア・カインド』『ハンズ・ダウン』あたりから、それまで弦楽器や木管楽器によって演奏されていたパートに、シンセサイザー・サウンドが充てられるようになっていく。それはそれでいいのだけれど、どんなにエレクトロニクスにおけるテクノロジーの蓄積やコンセプトの洗練が進んでいっても、所詮そのサウンドはリアルなアンサンブルが奏でる響きとは別モノ。その点はジェームスほどの優れた音楽家であれば、重々承知のことだろう。現に彼が、決してオーケストラの代替えとしてではなく、革新的な音の追求からシンセサイザーを使用しているということは、一聴でわかる。
とはいえ『ワン・オン・ワン』での弦楽器と管楽器とが奏でるアコースティカルな趣きには、奥深く計り知れないものがある。デヴィッド・ナディアンをコンサートマスターとするストリング・セクションは、ヴァイオリン8名、ヴィオラ2名、チェロ2名と、ほどよいスケール感で高尚かつ優美な響きを奏でている。ナディアンは、当時ニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団を勇退し、ソリスト兼スタジオ・ミュージシャンとして活躍していたヴァイオリニスト。ジェームスのレコーディングでは常連だったが、むろんそのキャリアはそれに留まるものではなく、彼が関わった作品は膨大な数に上る。つまりナディアンは、ポピュラー・ミュージックの弦楽器の録音においては、ファーストコール・ミュージシャンだったわけである。
いっぽうホーン・セクションのほうは、従来ジェームスがオーガナイズするオーケストラと比較すると、稀に見るスモール・アンサンブルとなっている。金管楽器は、ジェームズ・バフィントンによるフレンチホルンのみ。木管楽器のほうは、ジョージ・マージ、フィル・ボドナー、ロメオ・ペンケ、ウォーリー・ケインといった4人の名うてのウッドウィンド・プレイヤーで構成されている。いずれもジェームスのレコーディングではおなじみのミュージシャンだが、特に彼のオーケストラにおいて頻繁に木管楽器のパートを司るマージは、BJサウンドのキーパーソンと云える。彼はサックスをはじめ、イングリッシュホルン、フルート、オーボエ、そしてリコーダーなど、なんでもこなすジェームスにとっては頼りになるサポーターだった。
たとえば、ジェームスはとき折リコーダーを採用することがあるのだけれど、前述のテレビシリーズ『タクシー』のテーマ曲で、彼のライヴでは定番となっている「アンジェラ」という曲のイントロとコーダで、あたかも小鳥の歌声のごときインプレッシヴなサウンドを奏でているのは、このエアリード式の縦笛なのである。この曲はジェームスのリーダー作では『タッチダウン』や『N. Y. メロウ』などで聴くことができるが、それらのレコーディングでアルト・リコーダーを愛らしい音色で吹奏しているのは、だれあろうマージだ。彼はスタジオ・ミュージシャンとしての活動をメインに据えていたが、1979年12月22日に行われたジェームスのカーネギー・ホールでのコンサートでは、フルーティストとして堂々たるライヴ・パフォーマンスを披露した。
この季節にピッタリの稀に見る芸術欲を満たすフュージョン作
その模様の一部はのちに2枚組のアルバム『ニューヨーク・ライヴ』(1981年)に収録されたので、興味のあるかたは手にとってみてはいかがだろう。このアルバムでは1曲のみだが、スペシャルゲストとしてコンサートに参加したクルーの演奏も聴くことができる。ジェームスとクルーにとっては当時の最新作だった『ワン・オン・ワン』の収録曲「カリ」が披露されている。また1993年に日本のビデオアーツ・ミュージックがリイシューした際にボーナス・トラックとして追加された「アイルランドの女」では、マージによるティン・ホイッスルの演奏を聴くこともできる。ジェームスのCTI時代のリーダー作『スリー』(1976年)の収録曲だが、美しいメロディック・ラインと幻想的なカリプソのリズムが詩情豊かな空気を作り出している。
これもまた余談になるけれど、この「アイルランドの女」はジェームスのオリジナル・ナンバーではなく、もともとアイルランドの作曲家、ショーン・オ・リアダが書いた曲。オ・リアダは20世紀のアイルランドの伝統音楽史上、もっとも重要な音楽家のひとり。彼は1960年代初頭からキョールトリ・クーランスというグループを率いていたが、そのメンバーだったティン・ホイッスル&イリアン・パイプス奏者のパディ・モローニによって新たに結成されたバンド、ザ・チーフタンズが「アイルランドの女」をレコーディングした。アイルランドの伝統音楽が現代的に解釈されたこの演奏は、アルバム『ザ・チーフタンズ4』(1973年)に収録されているが、スタンリー・キューブリック監督の歴史映画『バリー・リンドン』(1975年)で使用されたことで一躍注目された。
この曲にいち早く着目したアメリカのミュージシャンはジェームスだけれど、その研ぎ澄まされたアンテナと芸術的なセンスには、ただただ敬服するばかりだ。そして、そんなアーティスティックなクオリティをさらなる高みに押し上げることにウェートが置かれた典型的な作品が『ワン・オン・ワン』である。むろんアクティヴなアドリブ・プレイも展開されるが、トータル・サウンドには晦渋なところは微塵もなく、むしろある種のミドル・オブ・ザ・ロードとしてのリラクゼーションさえ感じられる。そういう味わいが『トゥー・オブ・ア・カインド』や『クール』のそれと一線を画すのだ。クルーの作品としても、過去のリーダー作と比較すると、もっともユニークかつフレッシュな印象を与える。

クルーの場合、ナイロン弦ギターによるチェット・アトキンスを彷彿させる奏法といい、メロウでポップなソングライティングといい、独創的である反面ワンパターンに陥る危うさを抱えていることは否めない。そういう問題点は、それまでデイヴ・グルーシン、ブッカー T. ジョーンズ、デヴィッド・マシューズらによる、オーケストレーションによって解消されてきた。そんな優れた3人以上にジェームスは、プロデュースとアレンジとにおける卓越した能力を発揮して、クルーの音楽に新風を吹き込んでいる。ジェームスは、過去に自己のリーダー作『タッチダウン』のレコーディングの際、3曲のオリジナル・ナンバーでクルーを起用しているが、ひょっとすると、それ以来その最高のパフォーマンスを引き出すための戦略を思い描いていたのかもしれない。
ということで、名作『ワン・オン・ワン』のレコーディングの詳細を観ていこう。ストリングスとウッドウィンズについてはすでに触れたが、リズム・セクションのメンバーを列記すると、ボブ・ジェームス(key)、アール・クルー(g)、エリック・ゲイル(g)、ゲイリー・キング(b)、ニール・ジェイソン(b)、ロン・カーター(b)、ハーヴィー・メイソン(ds)、ラルフ・マクドナルド(perc)となる。3人のベーシストは2曲ずつプレイしているが、キングはCTI時代から長きにわたりBJサウンドのボトムを支えたジェームスの盟友、ジェイソンは『ラッキー・セヴン』からの続投だがマルチ・インストゥルメンタリストとして知られるひと、カーターは云わずと知れた名ジャズ・ベーシスト、もちろん本作でもアップライト・ベースを弾いている。
レコーディングは1979年の6月から7月にかけて、ニューヨーク市のメディアサウンド、サウンド・パレス、サウンドミキサーズといったスタジオにおいて行われた。エンジニアはフィル・ラモーンの薫陶を受けたことで知られる、タッパン・ジー作品ではおなじみのジョー・ジョーゲンセンが務めた。オープニングを飾るクルーの「カリ」は、ほどよく緊張感が漂うイントロから清廉なテーマへと移行するカリプソ・ナンバー。途中マイナー・キーになってから、フェンダー・ローズがソロをとる。ストリングスが絡んできてからのドラマティックな展開、さらに一気に明るく澄んだ色彩がはじけるなかでのギター・ソロに胸がすく。ジェイソンの弾力感のあるベースも心地いい。
ジェームスの「ジ・アフターグロウ」では、アルト・リコーダーによるパストラールなイントロと、メイソンが打ち出すリラックスしたスロー・サンバの律動に気持ちが和む。ギターによる明るさのなかにも少し憂いを帯びたメロディック・ラインがこころに染みる。ストリングスとウッドウィンズとのオブリガートもなんとも清々しい。ローズとギターとのややブルージーなダイアローグもまた、メロウな時間を演出する。クルーの「ラヴ・リップス」は、メランコリックな曲調と歯切れのいいビートとのコントラストが際立った、ソフトなフュージョン・ナンバー。ギターとローズのソロ、アルト・フルートのカウンター・メロディなどが都会的なムードを醸し出す。
ジェームスの「マヨルカ」は、いかにも彼らしいアートオリエンテッドなナンバー。ジャジーな展開のなかに盛り込まれたクラシカル・テイストが、モダンかつエレガントな雰囲気を醸成する。ロマンティシズムが横溢するジェームスのピアノ、スパニッシュ・フレイヴァーが匂い立つギター、カーターのダイナミックなベースと、どれも鮮やかで美しい。クルーの「アイル・ネヴァー・シー・ユー・スマイル・アゲイン」は、アルバム中もっともポップな曲。ハートウォーミングでノスタルジックな曲調は、いかにもクルーらしい。ウェットなギター、フェイズを深くかけたローズ、たおやかなストリングス&ウッドウィンズなどの響きが、聴くものを優しい気持ちにさせる。
ラストを飾るジェームスの「ワインディング・リヴァー」は、ノーブルなタッチのBJ流ポスト・バップ。カーターのベース・ソロもフィーチュア。クァルテットによるエキサイティングなプレイをとくとご賞味あれ。なお1993年にビデオアーツ・ミュージックがリイシューしたCD盤には、ボーナス・トラックとして未発表音源の「ジャズ・ジャム」が追加収録されている。このソースは文字どおり、エンジニアがレコーディング・レヴェルを調整をするために行われた、ジャム・セッションが録音されたもの。アルバムのコンテンツとは異なり、思いのほかエナジェティックでジャジーな即興的パフォーマンスが展開されているのが興味深い。いずれにしても『ワン・オン・ワン』は、稀に見る芸術欲を満たすフュージョン作。この季節にピッタリの音楽である。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。







コメント