ジョシュア・レッドマン・クァルテットへの参加直前、当時24歳のピアニスト、アーロン・ゴールドバーグの優れた才知と技能がふんだんに盛り込まれたデビュー・アルバム『ターニング・ポイント』
Album : Aaron Goldberg / Turning Point (1999)
Today’s Tune : Turning Point
デビュー・アルバムのレコーディングとOAM トリオの結成
ジャズ・プレイヤーのデビュー・アルバムといえば、おおむねフレッシュな魅力に溢れていて、ぼくの場合、食指を動かされることが多い。むろん最初のリーダー作だから、なかなか最高の出来というわけにはいかない。でも逆に、もしそれが結果的に最高傑作となったら、そのミュージシャンのその後が、あたかも不毛なもののように感じられてしまうだろう。ただデビュー作だからこそ、プレイヤーが全身全霊でレコーディングに臨むということもある。そしてそこで展開される音楽には、そのひとの優れた才知と技能がふんだんに盛り込まれることがしばしばあるのだ。だからぼくは、ひとりのミュージシャンを追いかけるとき、対象者がそれ以降、数々の雄編をものしていったとしても、必ずやそのデビュー・アルバムに対して特別な愛着をもってしまうのである。
1990年代の中ごろアメリカ東海岸のジャズ・シーンにおいて頭角を現したピアニスト、アーロン・ゴールドバーグについてもおなじことが云える。ゴールドバーグの初レコーディングといえば、おそらくアルゼンチン出身のジャズ・ピアニストで作曲家のギジェルモ・クレインのビッグ・バンド作品『ビッグ・ヴァン』(1994年)あたりと思われる。このアルバムには、スペイン出身のドラマーでヴィブラフォニストでもあるマーク・ミラルタや、オハイオ州フェアボーン生まれのテナー奏者マーク・ターナーといった、のちにゴールドバーグにとって重要な僚友となるミュージシャンも参加している。さらに彼のクレジットは、テナー奏者のジミー・グリーンのデビュー・アルバム『イントロデューシング・ジミー・グリーン』(1997年)にも見受けられる。
また、当時の日本でもインパルス! レコードの新星として注目を集めたテナー奏者、グレゴリー・ターディのメジャー・デビュー作『セレンディピティ』(1998年)において、ストレート・アヘッドなジャズ・ピアニスト、マルグリュー・ミラーと交替でピアノを弾いていたのは、だれあろうゴールドバーグである。ああ、あのピアニストが彼なのかと思う向きも多いと思われる。なにせこのころのゴールドバーグは、わが国ではもちろんのこと、アメリカでもまったくの無名だったのだから──。とにもかくにもこのアルバムがリリースされたあと、ゴールドバーグは記念すべき初リーダー作『ターニング・ポイント』(1999年)を発表する。吹き込みは1998年8月19日と25日に、ニューヨーク市のノーラ・レコーディング・スタジオで行われた。

ぼくは風評に踊らされて購入したターディのアルバムで、たまたまゴールドバーグのことを知ったクチなのだけれど、ここでの彼のピアノ・プレイに即座に好感を抱いてしまった。もちろん先輩格のミラーによる達人の域に達した意気軒昂な演奏も嫌いではないけれど、どちらかというとぼくは、ゴールドバーグの明快な楽句をきめ細やかに紡ぎ出していくような演奏に、自然とこころが引き寄せられた。これは好みの問題になるのだけれど、どうやらぼくの場合、ジャズに限らずピアノ演奏については、勢いに任せたダイナミックなパフォーマンスよりも、さじ加減が考慮されたセンシティヴなエクスプレッションにより強く惹かれるようなのである。ゴールドバーグの第一印象といえば、まさにぼく好みの、丁寧にピアノを弾くひとといったものだった。
そんなわけでぼくは、ゴールドバーグの初リーダー作をモザイク銀座阪急の4階にあったHMV数寄屋橋店で発見したときは、躊躇うことなくレジカウンターにもっていったもの。そういえばHMV数寄屋橋店にしてもモザイク銀座阪急にしても、いまはもう存在しないのだった(前者は2009年9月6日に、後者は2012年年8月31日に閉店)。あのころは、ちょうどADSLによるインターネットへの接続サービスが開始されたことや、携帯電話によるウェブページの閲覧が可能になったことなどから、すでにオンラインショッピングが普及しはじめていたけれど、ぼくは相変わらず実店舗に足を運んでいた。というか、そうするのが好きだった。というのも当時のHMVのリアル店舗といえば、いまとは比べものにならないくらい品揃えが豊富だったからだ。
ゴールドバーグの初リーダー作『ターニング・ポイント』は、いまの云いかたをすれば、まさしくニッチな1枚。そんなCDを堂々と面陳列してくれるのだから、何度となくぼくの足は自ずとHMV数寄屋橋店に赴いてしまうのだった。それはさておきこのアルバムをリリースしたのは、J カーブ・レコードという知るひとぞ知るレーベルである。当時オハイオ州シンシナティ市に拠点を構えていたジャズ専門のインディペンデント・レーベルだが、主にその地域のアーティストにスポットライトを当てていた。また本レーベルは、現在ではオハイオのヴィンテージ・ギター専門の販売店、DHRギター・エクスペリエンスの経営者として知られるデイル・ラビナーによって、1997年に設立された。
そのカタログには、グレゴリー・ターディの『ザ・ヒドゥン・ライト』(2000年)や、カナダ出身のトランペッター、ダレン・バレットの『ファースト・ワン・アップ』(1999年)『ディーリングス』(2001年)といった、気になるアイテムが散見される。バレットは1997年にセロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペティションで優勝しているが、彼がJ カーブにおいて発表した上記のデビュー作およびセカンド・アルバムには、ゴールドバーグが参加している。そしてゴールドバーグ自身もトリオ編成で吹き込んだセカンド・アルバム『アンフォールディング』(2001年)を、このレーベルからリリースしている。残念ながらJ カーブはすでに活動を休止しているので、もしどこかでその作品を見かけたら、ぜひ手にとっていただきたい。
ときにゴールドバーグはアルバム・デビューを果たしたあと、すぐに新たなグループを結成している。イスラエル出身のベーシスト、オメル・アヴィタル、そして前述のドラマー、マーク・ミラルタと組んだOAM トリオである。ちなみにグループ名に掲げられた“OAM”とは、“Omer(アヴィタル) Aaron(ゴールドバーグ) Marc(ミラルタ)”の略で、云うまでもなく3人のファーストネームの頭文字が繋がれたものだ。このトリオは、スペインのフレッシュサウンド・レコードの傍系レーベル、ニュー・タレントからファースト・アルバム『トリリンガル』(1999年)をリリース。アルバム・タイトルにもあるように、イスラエル、アメリカ、スペインといった3か国のプレイヤーによる、トライパータイトなインタープレイが妙味を感じさせる。
ジョシュア・レッドマン・クァルテットへの参加
このOAM トリオは『トリリンガル』のあとにも『フロウ』(2002年)『ライヴ・イン・セヴィリア』(2002年)『ナウ・アンド・ヒア』(2009年)といったアルバムをリリースしたが、後半の2枚ではトリオにテナー奏者のマーク・ターナーが加わっている。それはともかく『トリリンガル』のレコーディングは、1999年5月21日と22日に、ニュージャージー州パラマスのテデスコ・スタジオで行われた。そしてちょうどおなじころ、実はゴールドバーグは別のレコーディングにも参加していた。そのアルバムが発表されると同時に、それまで『ターニング・ポイント』をHMV数寄屋橋店で手に入れて以来、あまり知られていないであろうゴールドバーグのプレイを聴いてひとり悦に入るというぼくの自己満足は、あっけなく終わるのだった。
1999年5月、ゴールドバーグが参加したニューヨーク市マンハッタンのアヴァター・スタジオでのレコーディングとは、当時のジャズ・シーンにおいて飛ぶ鳥を落とす勢いだった、テナー奏者、ジョシュア・レッドマンのアルバム『ビヨンド』(2000年)を制作するものだった。実はゴールドバーグはすでに、ベーシストのリューベン・ロジャース、ドラマーのグレッグ・ハッチンソンとともに、レッドマンのニュー・クァルテットのメンバーに選ばれていたのである(実はレッドマンは『ターニング・ポイント』に参加している)。それまでのレッドマンのクァルテットは、ピアノをブラッド・メルドー、ベースをクリスチャン・マクブライド、ドラムスをブライアン・ブレイドと、若き巧者で固められ日本でも絶大な人気を誇っていたが、ぼくはどちらかというと新しいクァルテットのほうが好きだったりする。
なるほど、確かに1999年の1月にレッドマンは自己のクァルテットで来日公演を行なったが、そのステージでピアノを弾いたのがゴールドバーグだったとは、迂闊にもぼくはまったく気づいていなかった。のちに『ビヨンド』がリリースされたときにその事実を知って、ずいぶんと悔しい思いをした覚えがある。しかもレッドマンの弁によると、このクァルテットは実のところ1998年の秋ごろにすでに結成されていたとのことだから、ゴールドバーグは初リーダー作である『ターニング・ポイント』を吹き込んだあと、あまりスパンを置かずにレッドマンのグループに加入したことになる。レッドマンの情報感度の高さや、腕の立つプレイヤーを見極めるその慧眼も然ることながら、ゴールドバーグの精力的な活動ぶりには目を見張るものがある。

いずれにしてもゴールドバーグが日本でも広く知られるようになったのは、この『ビヨンド』が発表されてからのことだろう。しかもこのアルバム、レッドマンの作品のなかでも飛び抜けて素晴らしい。ぼくはアルバムのオープナーである「カーレッジ(不均衡なアリア)」という曲がすごく好きなのだけれど、タイトルどおりアシンメトリックなグルーヴ感が際立ったユニークなナンバーだ。13拍子のなかを一気に駆け抜けるレッドマンのテナーは、まるで静かで激しい感情の奔流のようである。そのインプロヴィゼーションは、高いインテリジェンスすら感じさせる。ゴールドバーグのピアノも、端正で躍動感のあるフレーズを次々に繰り出していく。その内なる力が徐々に高まっていくようなプレイは、いつになくスリリングだ。
このアルバムでは、拍子というものに真っ向から取り組まれている。当然のごとく捨て曲などひとつもないのだが、個人的には5拍子で演奏される「ア・ライフ」という曲がお気に入り。なんとも軽やかで美しい曲なのだが、ゴールドバーグのリリカルな一面も窺える。メンバーの各々は、互いに触発されながらシンプルなメロディック・ラインとそれにインスパイアされたインプロヴィゼーションを展開する。ノスタルジックなバラード・ナンバーだが、その心地よさの一端は明らかに5拍子のグルーヴ感が担っていると思われる。なお本作では、5拍子、6拍子、9拍子、10拍子、13拍子といった複合拍子や変拍子の曲が満載。ここで繰り広げられている音楽は革新性を求めて創出されたものではあるけれど、そのわりには聴きやすいので、ぜひ手にとっていただきたい。
レッドマンは2000年の6月に、このクァルテットでもう1枚のアルバムを吹き込んでいる。8つのオリジナル曲が繋ぎ合わされたジャズ・スウィート作『パッセージ・オブ・タイム』(2001年)である。本作におけるレッドマンの狙いは、彼自身が奏でるテナーがメインキャラクターとなり、音楽による感動的な物語を主観的に綴るというもので、結果的にアルバムはポストバップ・スタイルの実験的作品といった印象を与えた。ただ、個々の演奏は相変わらず素晴らしいのだけれど、首尾一貫した思慮深いパフォーマンスを間断なく聴きつづけるのは、正直云ってちょっとしんどい。この試行の成否はさておき、レッドマンは本作をもってクァルテットを解散(2019年発表の『カム・ホワット・メイ』で一時復活)。彼の関心は、ヤヤ・キューブドやエラスティック・バンドに見られるファンク・サウンドに移る。
アーロン・ゴールドバーグは、1974年4月30日、マサチューセッツ州ボストン市に生まれた。現在51歳の現役バリバリのポストバップ系ピアニスト。彼はセンスにしてもテクニックにしても理想的というか模範的というか、とにかくいかなるセッションにおいても揺るぎないピアノ・プレイをするひとだ。その演奏における格別な技巧や能力、あるいは深みのある音楽性や楽曲に対する卓越した解釈などから、てっきりゴールドバーグは音楽家の家庭で育ったのかと思いきや、実際は生化学者の父親と血液学者の母親との間に生まれたのだった。それでも彼は7歳からピアノのレッスンを受け、14歳からジャズ・ピアノを弾きはじめる。地元からすぐ近くのミルトン・アカデミーに進学したゴールドバーグは、同校のジャズ・プログラムにおいて即興演奏を学ぶ。
ゴールドバーグは17歳のときにニューヨーク市に移り住み、マンハッタンにあるニュースクール大学ジャズ&コンテンポラリー・ミュージック科に通うようになる。空き時間はすべて、ピアノの練習とジャズ・クラブでの演奏とに費やされた。ところがその1年後、彼は両親の希望でボストンに戻り名門ハーヴァード大学に入学。哲学、心理学、科学史などを学び、優秀な成績を収め卒業した。とはいってもゴールドバーグは、大学在学中にも音楽に打ち込んでおり、18歳のときには超絶技巧のスキャットで知られるシンガー、ベニー・カーターのジャズ・ミュージシャン育成プログラム「ジャズ・アヘッド」に参加したり、毎週末ボストンのクラブ、ウォーリーズ・カフェにおいて地元のレジェンドたちとギグを行ったりしていた。
レギュラー・トリオと異彩を放つゲスト・プレイヤー
ゴールドバーグは学生時代にも、夏休みはマンハッタンで過ごすようにしていた。彼は現地のミュージシャンたちと演奏活動を行うことによって、ニューヨークのジャズ・シーンとの繋がりを維持していたのだ。そんなゴールドバーグも大学卒業後はふたたびニューヨークに戻り、前述のグレゴリー・ターディをはじめ、トランペッターのニコラス・ペイトン、ヴィブラフォニストのステフォン・ハリスといった同世代の新進気鋭から、トランペッターのフレディ・ハバード、ドラマーのアル・フォスター、トランペッターのトム・ハレルなどの練達の士まで、その演奏活動においてクロスジェネレーショナルな共演を果たした。そして1997年後半には、ベーシストのリューベン・ロジャース、ドラマーのエリック・ハーランドとともに最初のトリオを結成したのである。
ゴールドバーグのキャリアはおよそ30年に及ぶが、そのわりにリーダー作はそれほど多くはない。彼は前述のJ カーブ・レコードの2作を発表したあと、ジャズをはじめ、ブルース、クラシック、ワールド・ミュージックなど、カタログに幅広いジャンルの音楽を網羅するニューヨークのレーベル、サニーサイド・レコードに移籍する。このレーベルにおいてゴールドバーグは、これまでに『ワールズ』(2006年)『ホーム』(2010年)『ザ・ナウ』(2014年)『アット・ジ・エッジ・オブ・ザ・ワールド』(2018年)といった、4枚の自己名義のリーダー作を発表。加えてギジェルモ・クレインとのコラボレーション・アルバム『ビエネスタン』(2011年)もリリースした。本作でゴールドバーグはアコースティック・ピアノを、クレインはフェンダー・ローズを弾いている。
ゴールドバーグはさきにお伝えしたOAM トリオのあとに新たなトリオを結成し、自己名義のトリオでの活動と並行してライヴ・パフォーマンスやアルバム制作に取り組んだ。OAM トリオのベーシスト、オメル・アヴィタル、ミシガン州デトロイト出身のドラマー、アリ・ジャクソンと組んだイェス! トリオがそれである。OAM トリオにはとき折エキゾティックなムードを醸成するようなユニークな面があったのに対し、イェス! トリオにはひたすらトラディショナルなジャズをソフィスティケーテッドなサウンドで聴かせるような風情がある。ジャクソンは、マックス・ローチとエルヴィン・ジョーンズに師事した、ソウルフルでダイナミックなプレイが光る正統派のジャズ・ドラマーだ。ある意味で、非常に安心感がある。

メンバーはみな1970年代生まれだが、トリオはストレート・アヘッドなプレイを展開しても新鮮で瑞々しい印象を与える。3人の出会いは1990年代のはじめごろだが、イェス! トリオの最初のレコーディングといえば、2009年12月29日、ニューヨーク市ブルックリンの由緒あるシステムズ・トゥー・レコーディング・スタジオでのこと。音源はゴールドバーグが所属するサニーサイド・レコードから、アルバム『イェス!』(2011年)としてリリースされた。その後イェス! トリオは、フランスのパリ市に拠点を構えるレーベル、ジャズ&ピープルに移籍し『グルーヴ・デュ・ジュール』(2019年)『スプリング・シングス』(2024年)といった2枚のアルバムを発表。現在ではこのトリオが、ゴールドバーグの活動のメインとなっているのかも──。
ということで1999年から2024年までの25年間に、自己名義のリーダー作6枚、クレインとのコラボレーション作1枚、OAM トリオの4枚、イェス! トリオの3枚と、ぼくの知る限り都合14枚のアルバムをリリースしてきたゴールドバーグだが、どれもコンテンツの密度が高い良質の作品ばかりだ。そんななかでも初リーダー作の『ターニング・ポイント』は、やはりもっともフレッシュな魅力に溢れている。ジャズ・ピアニストのデビュー作としてはご多分に漏れず、本作の場合も当時24歳のゴールドバーグの優れた才知と技能がふんだんに盛り込まれるているわけだが、それらが極めて明快に示されていて、実に聴きやすい作品に仕上がっているところに、ぼくは好感を抱くのである。
レコーディング・メンバーは、アーロン・ゴールドバーグ(acp, elp)、リューベン・ロジャース(b)、エリック・ハーランド(ds)といったレギュラー・トリオに、マーク・ターナー(ts)、ジョシュア・レッドマン(ts)、カーシュ・カーレイ(tablas)、カーラ・クック(vo)らが加わる。トリオのメンバーはおよそ20年間不動で、ゴールドバーグ、ロジャースと同様に、ハーランドもまたSF ジャズ・コレクティヴやジェームス・ファームといったグループのメンバーということで、レッドマンと関係が深い。なおクックはリズム・アンド・ブルースからクラシックまでジャンルを超越した作品や、巧みなヴォーカリーズで知られる女性ジャズ・シンガー、カーレイは北インドの太鼓、タブラー・バーヤの演奏とエレクトロニカとを融合させるユニークなミュージシャンだ。
アルバムのオープニングを飾るのは、ハード・バップの名ピアニスト、シダー・ウォルトンの「ファンタジー・イン D」で、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの演奏で有名な「ウゲツ」と同名曲。もともとモダンでアップビートな曲だが、ここでの曲調もほぼオリジナルどおり。ゴールドバーグの水を得た魚のような爽快なフロウに胸がすく。ターナーのアンニュイなソロとのコントラストが鮮やか。クックのヴォーカリーズが曲に洗練されたフィーリングを加味している。ゴールドバーグのオリジナル「ターニング・ポイント」は、ワルツとアフロビートがクロスするコンテンポラリーなナンバー。インプレッショニズムを感じさせるゴールドバーグのフレージングが淀みなく流れていく。後半のクァルテットによる熱いインタープレイもいい。
ゴールドバーグの自作曲「ターキッシュ・ムーンライズ」は、寒色系のバラード。ゴールドバーグの叙情的なルバート演奏と頻波を打つようなアドリブが美しい。ターナーの寛いだプレイも、理知的で都会的なムードを高めている。やはりゴールドバーグのオリジナル「ジャクソンズ・アクションズ」は、タブラーが活躍するニュージャズ風ナンバー。ターナーの流線を描くようなソロも素晴らしいが、ここはジャムアウトしまくるハーランドが第一等だ。ジョニー・マンデルの「シャドウ・オブ・ユア・スマイル」は、バロック調のテーマ部から4ビートのアドリブ・パートへの移行というアレンジが面白い。レッドマンとゴールドバーグとによるクールかつエキサイティングなパフォーマンスをとくとご堪能あれ。
ディジー・ガレスピーの「コン・アルマ」は、唯一トリオで演奏されるポリメトリックなワルツ。ゴールドバーグのスムースでエレガントなインプロヴィゼーションが全開する。このなだらかで麗しいフレージングを聴けば、いかに彼が卓越したピアノ・テクニックの持ち主かがわかる。さらにゴールドバーグの自作曲「ヘッド・トリップ」では、そのピアノが疾風のようにアブストラクトな展開を見せる。ターナーも雄弁にブロウする。アルバムを締めくくる「マムズ・チューン」は、やはりゴールドバーグのオリジナル。リラクシングかつリフレッシングなミッドテンポ。ゴールドバーグはフェンダー・ローズをプレイ。クックとターナーとのかけ合いが、アーバンなムードを演出する。そんな本作は、瑞々しさばかりでなく口当たりのよさまで際立つ、ゴールドバーグのデビュー・アルバム。何度でも聴きたくなる。 ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

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