宇宙から愛をこめて、地球に住む宇宙人のあなたへ──大野雄二&ユー・アンド・エクスプロージョン・バンドによる『24時間テレビ「愛は地球を救う 」』のサウンドトラック・アルバム
Album : 大野雄二&ユー・アンド・エクスプロージョン・バンド / 24時間テレビ「愛は地球を救う 」(1978)
Today’s Tune : Love Saves The Earth (愛は地球を救う)
テレビ『24時間テレビ「愛は地球を救う」』と自分とのリレーション
来たる2025年8月30日(土)から8月31(日)にかけて、日本テレビ系列および沖縄テレビ放送で『24時間テレビ「愛は地球を救う」』が生放送される。みなさんもよくご存知のとおり、日本各地でチャリティ・キャンペーン活動が行われる、年1回の長時間特別番組である。どちらかというと、テレビ番組(特にバラエティ番組)に関心のないぼくとしては「まだやっていたのか」という感想をもつのみ。とはいってもかく云うぼくも、1978年にこの番組がスタートした当時はいわゆるテレビっ子だったから、その画期的な企画に興味をもったし、番組の一部のコンテンツにも魅力を感じたもの。特に日曜日の朝からはじまるアニメ・スペシャルのコーナーは、毎年楽しみにしていた。
というか、ちゃんと観ていたのはそのコーナーだけだったかもしれない。あとは観るともなく観ていたのだろう。もちろん24時間もテレビをつけているなんて、ナンセンスだ。だからマンガの神様である手塚治虫が率いる手塚プロダクションによって制作されたオリジナル・アニメが終了したときは、ぼくはあっさりとこの番組を観るのをやめてしまった。ちなみに手塚プロがこの番組から撤退した理由は、1989年2月9日、手塚さんが胃がんによって60歳という若さで亡くなられたこと。その年は手塚さんの自伝が盛り込まれた最終作『手塚治虫物語 ぼくは孫悟空』(1989年)が放送されたが、翌年のアニメ・スペシャルのコーナーでは『それいけ!アンパンマン』のスペシャル版が放送され、驚きと失望を禁じ得なかった。
そんなわけで、いまのぼくは『24時間テレビ「愛は地球を救う」』にまったく興味がないのだけれど、番組に問題が多いせいか批判的な世間の雑音があれやこれやと耳に入ってくる。特に日本テレビ系列の放送局の幹部社員が、寄付金を着服していたことは大きく採り上げられた。ほかにもヤラセ疑惑だとかセクハラ問題だとか、なにかとお騒がせな番組だ。そもそもチャリティ番組にもかかわらず出演タレントにギャラが支払われていること、募金の使い道に不透明な部分があることは、かなりまえから批判されていたように記憶する。まあ門外漢のぼくは番組を非難するつもりはないけれど、今年も恒例行事のようにブーイングされていると小耳にはさんだ。これには不謹慎ながら、ぼくもちょっと笑ってしまった。
まあこの件についてはあまり詳しくないのだけれど、今回の出演者のうち国民的男性アイドルとこれまた国民的女優とが、番組放送をまえにして熱愛を報じられた。にもかかわらず、いざ番宣ポスターが公開されてみると、そこに写るふたりが着用するチャリTシャツなるものが、はばかりなくペアルック(同色)になっていたのだという。これはあまりにも配慮がないと、またまた番組はほうぼうからそしりを受けているようだ。どうでもいいことのようにも思えるけれど、ファンのかたたちにとっては大問題なのだろう。ホント、お騒がせな番組である。それにしても、まさかこの件、視聴率を稼ぐために話題作りが図られ、作為的に仕組まれたことなのでは──なんて、ひねくれた観かたをするのは果たしてぼくだけだろうか。
いずれにしても、現代において、テレビ視聴以外のメディア利用の優位性がどんどん向上しているのは紛れもない事実だし、ユーザーにとって選択肢が増えるというのはいいことだと、ぼくは思う。それによって、相対的にテレビ視聴の頻度が低下するのは、ごく当たりまえの現象なのである。だからこそ、日本のみならず世界各国でテレビ離れの傾向がある昨今、テレビ番組制作に関わる人間は、手っ取り早く話題づくりに勤しむのではなく、真に価値のあるコンテンツをリリースしていかなければならないのではないだろうか。いささか辛らつな云いまわしになってしまったけれど、要はかく云うぼくだって面白いテレビ番組を観たいと思っているわけだ。今年も『24時間テレビ「愛は地球を救う」』を、観ることはないと思うけれど──。
そんな『24時間テレビ「愛は地球を救う」』のコンテンツについてぼくは、いまとなっては世間のウワサですら歯牙にもかけないほどになってしまっているのだけれど、自分とのリレーションがまったくないというわけではない。それゆえ、いまこの長時間特別番組について記述しているのである。実はこのショー・プログラムには、前述の手塚アニメも然りだが、それ以上にかつてこころを惹かれるものがあった。それはほかでもない、番組を彩る背景音楽だ。ではみなさんは『24時間テレビ「愛は地球を救う」』の音楽というと、どんな曲を思い浮かべるだろうか。おそらく多くのかたが、すぐにグランドフィナーレで大合唱される「サライ」という曲をアタマに浮かべるのではなかろうか──。
全国の視聴者から寄せられたメッセージをもとに作られた「サライ」は、番組のテーマ・ソングとして1992年から毎年使用されている。一般公募で集められた歌詞をひとつにまとめた、いわゆる代表作詞者はいまは亡きシンガーソングライターの谷村新司。作曲したのは、弾厚作こと俳優で歌手の加山雄三。番組のなかで谷村さんと加山さんとがメイン・ヴォーカルを務めるのが恒例だったこの曲は、シングルCD(8センチCD)として音盤化された。このシングルCDは過去にオリコンチャートで最高位20位を記録し、1992年11月のリリースから33年目を迎えた現在でも販売が継続されているという超人気盤だ。なお音盤においてアレンジを手がけたのは、“ハネケン”ことピアニストで作曲家の羽田健太郎(故人)である。
この「サライ」はいまも多くのひとたちから支持されているようだけれど、正直なところぼくのこころにはそれほど響かなかった。これは飽くまで、好みの問題だと思う。ではぼくの嗜好を満たす『24時間テレビ「愛は地球を救う」』の音楽とはなんであったかというと、まさに名曲の誉れ高い「サライ」がテーマ曲となる以前のもの。実はこの「サライ」が誕生した1992年(第15回の放送時)に、番組は大幅にリニューアルされた。ありていに云えば、視聴率の低迷に対するテコ入れだったのだろう。結果、番組はエンターテインメント色を強めるよう軌道修正されたのである。前述のとおりぼくは、1989年の手塚アニメの終了とともにこの番組への興味をすっかり失っていたのだが、このリニューアルはそれに拍車をかけるものだった。
リニューアルまえの『24時間テレビ「愛は地球を救う」』の音楽
若いひとたちはご存知ないと思うけれど、リニューアルまえのグランドフィナーレの定番曲といえば、ザ・バーズという音楽ユニットが歌う「Magic Feeling of Love(愛はマジック)」や「Our Beautiful Planet Forever(この星をあなたに)」だった。このザ・バーズというのは、日本テレビ音楽学院(現在の日テレ学院タレントコース)の生徒のなかから選抜されたメンバーで構成されている。1976年に発表された、全国高等学校サッカー選手権大会のイメージソング「ふり向くな君は美しい」は広く知られているが、この曲を歌っていたのがこのザ・バーズである。そのほかにも、東京少年少女合唱隊が歌う「Ever Green Love(エバー・グリーン・ラブ〜人間という名の大きな樹)」が、グランドフィナーレに花を添えていた。
以上の3曲は、番組リニューアルにともない一切使用されなくなった。率直に云うとチャリティ・キャンペーンで歌われる曲としては、ぼくは「サライ」よりもこちらの3曲のほうが相応しいと思うのだけれど、みなさんはいかが思われるだろうか。まあそれはともかく、このチャーミングな3曲を作曲したのはだれあろう、ジャズ・ピアニストで作曲家の大野雄二。大野さんはこれらの曲のライティングにとどまらず、1978年の番組スタート時から13年間『24時間テレビ「愛は地球を救う」』の音楽監督を務めた。だが1991年(第14回の放送時)をもって大野さんは、当時日本テレビのプロデューサーだった都築忠彦らとともに、番組を降板する。番組のコンテンツがマンネリ化し、視聴率も低迷したからだろう。
とはいっても、むしろリニューアル後のほうが番組の方向性にブレが生じたように、ぼくには思われてならない。平たく云えば、番組内容が面白くなくなったと感じられた。いずれにしても、当時ジャズ・シーンから飛び出してきた新進気鋭の作曲家として注目を集めていた大野雄二による洋楽顔負けの高品質の音楽には、ぼくも大いに胸をときめかせた。そして間違いなく、劇場作品に引けをとらないクオリティの高さを誇る手塚さんのアニメ・スペシャルもそうだけれど、当初『24時間テレビ「愛は地球を救う」』のコンテンツには、視聴者をワクワクさせるものがあったのである。さらには、番組がスタートする直前の1978年8月25日、オリジナル・サウンドトラック・アルバムがリリースされたが、これもまたセンセーショナルな出来事だった。
ショップの店頭でこのレコードを見つけたとき、ぼくはまだ『24時間テレビ「愛は地球を救う」』のことをなにも知らなかったけれど、そのジャケットのモダンなセンスが光るアートワークに胸を高鳴らせたもの。タイポグラフィ制作のオーソリティである浅葉克己によるアートディレクション、スーパーリアルイラストレーションの先駆者として知られる山口はるみが描くピンク・レディーのイラストは、いま観てもスタイリッシュだ。幸いなことに、大野さんの昔の作品を何枚かリイシューしているブリッジが、本盤もオリジナル・ジャケットを忠実に再現してCD化しているので、ぜひ手にとっていただきたい。そして、大野さんがノリに乗っていた1978年の贅沢なサウンドを、じっくり味わっていただければ幸いである。
大野さんがノリに乗っていたというのは、決して大げさな表現ではない。1978年の大野さんの仕事ぶりは、スゴいことになっているのだ。この年の大野ワークスといえば枚挙にいとまがないので、ここでそれを列挙するのは、代表的なアルバム以外は差し控えさせていただく。1978年にリリースされたアルバムといえば、なんといっても大野さんにとってライフワークとなった、アニメ『ルパン三世』シリーズの最初のLPレコード『ルパン三世 オリジナル・サウンドトラック』が挙げられる。テレビアニメのサントラ盤にもかかわらず、販売元の日本コロムビアはイギリスのサトリル・レコードのレーベルを使用。これは当時、サトリルと日本テレビ音楽(NTVM)が提携していたからである。その外観には、子ども向けの番組をイメージさせるところは微塵もない。
このアルバムひとつとっても、大野サウンドが洗練された華麗な様式美を極めるに至ったのは、やはり1978年だったとぼくは確信する。大野雄二という音楽家は、もともとジャズ・ピアニストでありながら、アメリカン・ポップ、フィリー・ソウル、ブラジリアン・ミュージックなどから影響を受け、ついには自己の音楽をおなじみのフュージョン・スタイルに昇華させたのである。そんな大野さんのクールな音楽は、この年にレコードとして矢継ぎ早に世に送り出された。サウンドトラック・アルバムだと『大追跡』『24時間テレビ「愛は地球を救う」』『野性の証明』とリリースされていき、クリスマスまえには早くも『ルパン三世・2』が発売された。なお『24時間テレビ「愛は地球を救う」』と『野性の証明』とは、同時進行で吹き込まれたという。
それらのサウンドトラック・アルバムのリリースの間隙を縫って、大野さんにとってはじめての本格的フュージョン・スタイルのリーダー作『スペース・キッド』が制作され、大野さんとは長年コンビを組んだブラジル、サンパウロ出身のシンガー、ソニア・ローザの4枚目のアルバム『サンバ・アモール』のレコーディングが行われた。ローザのアルバムで大野さんはプロデュース、作編曲、キーボードを担当。内容的には『スペース・キッド』の姉妹編とも受けとめられる。ローザは1969年から活動の拠点を日本に置いているが、大野さんと仕事をすることがきわめて多かった。本盤には大野さんが劇伴を手がけた、テレビ朝日系ドラマ『遥かな坂』(1979年)の主題歌「東京イン・ザ・ブルー」も収録されている。
このころの大野さんの音盤はどれもそうなのだけれど、この『24時間テレビ「愛は地球を救う」』もまたご多分に漏れず、サントラ盤とはいえどんなポピュラー・ミュージックにも引けをとらない鑑賞用作品に仕上がっている。アルバムのプロデュースは、大野さん自身とMTVMの飯田則子(故人)とが手がけている。演奏はユー&エクスプロージョン・バンドとなっているが、当時からそのクレジットは大野さんが関わった諸々の音盤で散見された。実はこのバンド名義、飯田さんがエグゼクティヴ・プロデューサーを務める作品にのみ使用されていたもの。もしかするとバンド名を考案したのも、彼女なのかもしれない。なおこのバンドは1983年に、唯一のオリジナル・アルバム『フル・コース』をリリースした。だが飯田さんは、奇しくもこの年に日本テレビ音楽を退社している。
気になるのはユー&エクスプロージョン・バンドの顔ぶれだが、実際のところ大野さん以外は固定メンバーがひとりもいない。なぜならそのメンバーとしてクレジットされている面々は、みな各々のレコーディングにおいて起用されたプレイヤーだから。しかもその誰もが、高度な演奏スキルをもつ日本を代表するスタジオ・ミュージシャンである。そして、アルバム『24時間テレビ「愛は地球を救う」』のジャケットの裏面に記載されている、ユー&エクスプロージョン・バンドは以下のとおり──。大野雄二(key)、松木恒秀(g)、岡沢章(b)、市原康(ds)、渡嘉敷祐一(ds)、ラリー寿永(perc)、ジェイク H. コンセプション(as)の7名(松木さん、寿永さん、コンセプションさんはすでに他界している)。クレジットはないが、レコーディングには上記のリズム・セクションにホーンズ&ストリングスが加えられている。
高品質を誇る演奏と録音──大野サウンドが満載の贅沢な1枚
メンバーはみな大野さんの寵愛を受けたファーストコール・ミュージシャン、延いては日本のトッププレイヤーと云えるが、そのうち松木さん、岡沢さん、市原さん、渡嘉敷さんは、鈴木宏昌(故人)率いるコルゲン・バンドのメンバーである。具体的には初期のドラマーが市原さんで、1977年の後半からその後任に渡嘉敷さんが就いた。バンドのリーダーである鈴木さんは、大野さんにとって慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサイェティー時代の先輩にあたるジャズ・ピアニストだ。このコルゲン・バンドは1979年にザ・プレイヤーズと改名され、さらなる飛躍を遂げる。単刀直入に云うが、1980年代の日本のフュージョン・シーンにおいて、そのミュージカリティとパフォーマンスには他のバンドのそれとは一線を画すものがあった。
ザ・プレイヤーズはさながら、ウェザー・リポートのような飛び抜けて新しい趣向と、スタッフのような地に足のついた演奏技術とをもち合わせたバンド。かいつまんで云えば、なにを演っても上手い音楽隊だった。そのことを念頭に置けば、ユー&エクスプロージョン・バンドの演奏が高品質を誇るのも自明のことと、おのずと得心がいくというもの。高品質といえば、レコーディング・エンジニアを大野さんの作品ではおなじみの伊豫部富治が務めているが、毎度のごとくクオリティの高いサウンドステージを作り上げている。伊豫部さんはひとつの楽器を際立たせるようなことはあまりなく、各々の楽器をバランスよく配置する。それでもトータル・サウンドは、いいところがちゃんと聴こえてくるという、すこぶる耳に優しいものである。
ときにリーダーの大野さんは、このレコーディングにおいて多種多様のキーボードを演奏している。これもまた、このころの大野サウンドの特徴と云えるかもしれない。使用楽器は以下のとおり──。フェンダー・ローズ 88、ヤマハ・エレクトリック・グランド CP-70、ヤマハ・ポリフォニック・シンセサイザー CS-80、アープ・オデッセイ、コルグ・ヴォコーダー VC-10、コルグ・ポリフォニック・シンセサイザー PS-3300。ここで特に注目したいのはヤマハやコルグのシンセサイザーで、それらは当時開発されて間もないものばかり。時代の先端テクノロジーを自己の音楽に逡巡することなく導入していくところは、いかにも大野さんらしいが、結果的にはサウンドにかつてないほどの彩りが添えられた。
収録曲は1曲を除いて、すべて大野さんの曲である。アルバムのオープニングを飾る「Love Saves The Earth(愛は地球を救う)」は、番組全体のテーマ曲。これほどまでゴージャズ&ラグジュアリアスな大野サウンドは、かつてなかった。オーケストラにデジタル・シーケンサーが絡むイントロから、迫力満点。有名なアレクサンダー・カレッジの「Theme From Star Trek(宇宙大作戦のテーマ)」を彷彿させるスペクタクルな曲調が爽快だ。9小節目からのメロディック・ラインにジョージ・ガーシュウィンの「パリのアメリカ人」を想起させられたりもするが、ここにあるサウンドはコンテンポラリーなシンフォニック・ジャズとでも名状したくなるもの。ホルンのオブリガートやストリングスの高速デタシェなど、意匠の凝らされたアレンジが素晴らしい。
のちに大野さんはこの曲を自己のリーダー作『Made In Y.O.』(2005年)において、サンバ・スタイルにリアレンジしている。2曲目の「Birds At The Break Of Dawn(鳥たちの朝)」は、ドキュメンタリー『世界の福祉・日本の福祉』のテーマ曲。鳥のさえずりをイメージした女性コーラスと口笛のようなアープ・オデッセイとが、柔らかく爽やかな空気を作り出す。アルトのソロも清々しいが、途中からリズムが疾走感溢れるボサノヴァになるところがなんとも心地いい。3曲目の「The Lost World(ロスト・ワールド)」は、アニメスペシャル『100万年地球の旅 バンダーブック』からの1曲。ハーモニカやトランペットによるメロディック・ライン、スネアのロール、鐘や鞭のサウンド・エフェクトなどには、エンニオ・モリコーネのマカロニ・ウェスタン作品からの影響が感じられる。
4曲目の「Pinky Rosy Princess(ピンキー・ロージー・プリンセス)」もまた『100万年地球の旅 バンダーブック』からのトラック。オーボエによるメランコリックなテーマと、ストリングスのオクターヴ上がるコーラスが叙情的な美しいバラードだ。5曲目の「Flying Through Time(時間旅行)」は、サイエンス番組『2001年・未来の旅』のテーマ曲。ヴォコーダーやエレクトロニック・ドラムなどが使用されたコズミック・サウンドが炸裂。8分の6拍子のロック・ビートとギターのエフェクトも刺激的だ。6曲目の「Radio Universe Calling(2001年愛の詩)」は、ピンク・レディーが歌うポップ・ナンバー。阿久悠(故人)の作詞、都倉俊一の作編曲による、2分の2拍子のリズムが独特の曲。このトラックには、大野さんは関わっていない。
レコードではここからがB面となる。アニメスペシャル『100万年地球の旅 バンダーブック』の劇伴が3曲つづく。ブラスが活かされた躍動感溢れるディスコ・ブギー「Go! Space Cruiser(宇宙の曳航)」スペーシーでロッキッシュな「Space Omen(スペース・オーメン)」クラシカルな5拍子の舞曲「S’Il Vous Plait(優しい関係)」と、大野さんのキャパシティの広さを感じさせる。つづく「Our Beautiful Planet Forever(この星をあなたに)」では、フォーク・グループ、伝書鳩の山口ますひろのヴォーカルがフィーチュアされている。山川啓介(故人)による愛と生命の尊さを綴った歌詞を、山口さんがソフトな声色で歌い上げたスケールの大きなラヴ・ソング。ここでの大野さんのアレンジはきわめてシンプルだが、それがヒューメインなテクスチュアを生み出している。
そして「Cosmic Cocktail – A Tom Collins With A Shot Of Nitroglicerin(コズミック・カクテル)」は『ギャグマシーン・タモリ博士の宇宙的な愛情』のテーマ曲。歯切れのいい16ビートに乗って、ブラスのアンサンブルと女性コーラスとが交錯する、典型的な大野サウンドが展開される。アルバムのラストを飾るのはやはり「Magic Feeling Of Love(愛はマジック)」で、奈良橋陽子による英語詞(一部日本語詞)をザ・バーズが歌う。ピースフルでノスタルジック、でもモダンなところがバート・バカラックの楽曲を想わせる。いずれにせよ『24時間テレビ「愛は地球を救う」』は、贅沢なアルバムである。ぜひとも、多くのかたに手にとっていただきたい。なお前述の「Ever Green Love(エバー・グリーン・ラブ〜人間という名の大きな樹)」は、1982年から使用された曲なので本盤には収録されていない。
やはり山川啓介が作詞した「Ever Green Love(エバー・グリーン・ラブ〜人間という名の大きな樹)」は、アニメスペシャル『アンドロメダ・ストーリーズ』(1982年)の主題歌でステファニーが歌った「永遠の一秒」とカップリングされ、シングル盤としてリリースされた。またバンダイ・ミュージックエンターテインメントから『手塚治虫ワールドBest of Best 24時間テレビ〜愛は地球を救う&ユニコ オリジナル・サウンドトラック』(1999年)というCDがリリースされているが、大野さんが音楽を手がけた『100万年地球の旅 バンダーブック』(1978年)『海底超特急マリンエクスプレス』(1979年)『フウムーン』(1980年)などのスコアが収録されている。さらにはCD『ルパン三世 1978ミュージックファイル』(2003年)などに収録されている、1978年8月3日録音のトラックは、実は『100万年地球の旅 バンダーブック』のスコアである。興味のあるかたは、どうぞ──。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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