Oli Silk / In Real Life (2023年)

ピアノの鍵盤
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現在コンテンポラリー・ジャズ系のアーティストとして、もっとも世界から注目を集める存在──キーボーディストのオリ・シルクの7枚目のリーダー作『イン・リアル・ライフ』

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Album : Oli Silk / In Real Life (2023)

Today’s Tune : Dare To Dream

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初期のサウンドはアシッド・ジャズのムーヴメントを汲むもの

 

 久々にスムース・ジャズ作品を採り上げる。イギリスのキーボーディストで、コンポーザー、アレンジャー、プロデューサーとしても活躍するオリ・シルクの7枚目のリーダー作『イン・リアル・ライフ』(2023年)である。日本ではすっかり人気が衰えたスムース・ジャズだけれど、専門のラジオ・ステーションがあるアメリカにおいては、その勢いはまだまだ弱まることを知らないようだ。ただコンテンポラリー・ジャズ系のミュージシャンの世代交代が進むなか、往年のフュージョン・ブームを巻き起こしたアーティストたちのように、独特の個性と確固たる実力とをもち合わせた新鋭に、昨今なかなかお目にかかれないというのも事実である。聴き心地がいいだけの音楽を発信しているプレイヤーは、すぐに飽きられてしまうのだ。

 

 そんななかオリ・シルクは、ジャズ、ファンク、ソウル、リズム・アンド・ブルースといった複数の音楽のエレメントを融合させたソングライティングと、ダイナミックでエナジェティックなキーボード・ワークとで、強固なオリジナリティに溢れた音楽性を打ち出している数少ないスムース・ジャズ系のミュージシャンだ。彼がクリエイトするグルーヴには、ロンドンに活動の拠点を置くだけあって、1980年代のはじめにクラブ・シーンにおいて生まれた、ジャズに合わせて踊るというポップカルチャーに直結するものがある。むろん彼のコンポジションはメロディアスで聴き心地のよさも兼ね備えているけれど、それよりも洗練されたグルーヴを強調したリズム・アンサンブルのほうがアトラクティヴに映る。

 

 英国ロンドン発といえば、ぼくはすぐにシャカタクレヴェル42といったフュージョン・バンドや、インコグニートあるいはその前身ともいうべきライト・オブ・ザ・ワールドといった、いわゆるブリット・ジャズ・ファンク・バンドをすぐに思い浮かべてしまう。ただシルクの音楽は、そういった1970年代末葉から1980年代にかけてブリティッシュ・ジャズ・ファンク・シーンを盛り上げたグループから、なにがしかの影響を受けているように思われるのだ。むろんシルクはピアノをはじめ各種のキーボードでジャジーな即興演奏を展開するのだけれど、その背景には常にダンサブルでファンキーでグルーヴィーといった、ニュー・ジェネレーションの価値観を反映するような音楽性が堅実に押し広められているのである。

黒いシンセサイザーとロンドンの風景

 ときは2000年、このころのスムース・ジャズ・シーンにおいては、アーティストにしても作品にしても百花繚乱だった。ニューカマーのフレッシュなアルバムも然ることながら、往年のフュージョン・ブームを牽引した大御所アーティストたちによるラジオ・ステーションのフォーマットが意識された作品も、数多くリリースされていた時期に当たる。たとえば、1970年代前半からアメリカ東海岸におけるクロスオーヴァー・シーンの一翼を担っていたキーボーディスト、ボブ・ジェームスでさえ、それまでセルフ・プロデュースが当たりまえだった彼がはじめて全面的に他人に下駄を預けるという、実にスムース・ジャズらしい作品『ジョイ・ライド』(1999年)を発表したほど。そんなとき、どこからともなく登場したのがオリ・シルクだった。

 

 実はシルクの経歴は、よくわからない。おおやけになっているのは、1979年3月7日にロンドンで生まれたこと、11歳からピアノを弾きはじめたことくらいのもの。ぼくがひょんなことから手に入れたCD『ファクト・オア・フリクション?』(2000年)は、シルクと彼の大学の友人でベーシストのダニー・シュガーとがチームを組み、シュガー&シルク名義で発表したものだった。当時シルクはまだ21歳だったし、ぼく自身それ以前の音楽作品でそのクレジットを見かけることは一度もなかったので、おそらくこのアルバムが彼にとって初レコーディングだったのだろう。しかもこのCD、ヘヴン・セントというまったく未知のレーベルからリリースされているので、自主制作盤なのかもしれない。

 

 そんなマイナーな作品でも、すでに廃業しているが当時はロンドンに拠点を構え、ジャズ、ダンス、ソウル、ファンクなどのインディーズを取り扱っていたディストリビューター、タイムワープによって、英国全土のショップではもちろんのこと海外の大手チェーンストアでも販売されたのである。ありがたいことに、ぼくもこのかなりニッチなアルバムを入手することができた。ただこのCD、ぼくは単に未知のものに対する好奇心から手にとっただけで、実際に再生するまではありふれたスムース・ジャズ作品と勝手に思い込んでいた。ところがフタを開けてみると、どちらかというと1980年代にイギリスのクラブ・シーンから派生した、いわゆるアシッド・ジャズのムーヴメントを汲むもののように感じられたのである。

 

 このシュガー&シルクは、ざっくりと云い表せばロンドン発のジャズ・ファンク・デュオといった印象を与えた。サウンド的には、ちょうど1980年代の後半から頭角を現していた、イギリスのDJ、スチュアート・ウェイド率いるグループ、ダウン・トゥ・ザ・ボーンが図っていた、踊れるジャズ・ファンクといった有用性と通じ合うものがあった。さきに明かしてしまうけれど、実はシルクはのちに、このダウン・トゥ・ザ・ボーンのレコーディングに参加することになる。彼らの9枚目のアルバム『ザ・メイン・イングリーディエンツ』(2011年)に収録されている3曲において、シルクはキーボーディストに止まらずウェイドとともにソングライターも務めている。これにはぼくも、大いに得心がいった。

 

 いまから思うと、シルクにとってデビュー作となった『ファクト・オア・フリクション?』は、ぼくにとってまさに棚からぼた餅だった。このアルバムのコンテンツは、シルクのキーボード・プレイが主軸となったインストゥルメンタルでありながら、アメリカ西海岸のラジオ・ステーションよりも、どちらかというとイギリスのクラブ、バー、それにパブを賑わすようなグルーヴ感が横溢するものばかり。むしろ当時のぼくには、そんなところが新鮮に感じられたのだ。アルバム制作は予算的には少額だったと想像されるが、その点は類まれなシルクのクリエティヴィティによって見事にカヴァーされている。ここに収録されているすべてのトラックは、彼がプロデュースを手がけたものだ。

 

ソロ活動に入ってからはスムース・ジャズにアプローチ

 

 レコーディング・メンバーはいたってシンプルで、オリ・シルクがキーボードとプログラミングとを、ダニー・シュガーがベース・ギターを、それぞれ担当。サポーターとしてクリス・ロビンソンというギタリストがクレジットされているけれど、もちろんアメリカのロック・バンド、ブラック・クロウズのヴォーカリストとは別人。また1曲のみだが、ロンドンを拠点にシンガーソングライター、ラッパー、そして女優として活動するマーテイことメローネ・マッケンジーによる、ソウルフルでソフィスティケーテッドなヴォーカルがフィーチュアされる。さらにドラム・ループ素材として、日本のドラマー、屋敷豪太のサンプリング・アルバム『グルーヴ・アクティヴェイター』(2015年)が使用されている。

 

 なお屋敷さんといえば、もともと日本で活動していたミュージシャンだけれど、1988年に渡英して以来あちらのドラマー、音楽プロデューサーとして活躍している。いっときはマンチェスター出身のロック・バンド、シンプリー・レッドの正式メンバーだったこともある。そんなイギリスの音楽業界でも一目置かれる屋敷さん、実は前述のダウン・トゥ・ザ・ボーンのレコーディングにも参加したことがあるのだ。グループにとって4枚目のアルバム『クレイジー・ヴァイブス・アンド・シングス』(2002年)に、1曲のみだが屋敷さんのクレジットを見出すことができる。むろんそれは偶然の出来事だろうけれど、グループのリーダーであるウェイドとシルクとが、おなじグルーヴを求めていたということを裏づけているようにも思われる。

 

 この『ファクト・オア・フリクション?』のジャケットの裏側をよく観ると、シュガー&シルクによる「影響力のある大物たちに敬意を表する」という記述とともに、彼らがリスペクトするミュージシャンの名前が書き連ねられている。キーボーディストだけ挙げてみると、ジェフ・ローバージョージ・デュークジョー・サンプルビル・ウルファーチック・コリアドナルド・フェイゲンモンティ・アレキサンダーハービー・ハンコックロッド・テンパートンボブ・ジェームススティーヴィー・ワンダーといった具合で、シルクが1970年代から1980年代にかけて隆盛を極めたジャズ、フュージョン、ソウル、リズム・アンド・ブルースといった音楽から影響を受けたアーティストであることがわかる。

白いシンセサイザーとロンドンの風景

 またそれらのビッグネームに交じって、1980年代の前半に活躍したアメリカ、オハイオ出身のポスト・ディスコ・ファンク・バンド、デイトン、さらに1970年代の中ごろから2000年代まで活動が継続された、ニューヨークのリズム・アンド・ブルース系ファンク・バンド、キャメオ、そして前述したイギリスのアシッド・ジャズ・ムーヴメントを牽引したジャズ・ファンク・バンド、インコグニートの名前が挙げられているのが、なんとも興味深い。そのことからもシュガー&シルクは、ジャズ・ファンク・デュオという呼称が相応しいとぼくは思うのだけれど、いずれにしても彼らの音楽が、1980年代後半のアシッド・ジャズやレア・グルーヴのブームに感化されたものであることは間違いない。

 

 ところでシルクは、シュガー&シルク名義でもう1枚アルバムをリリースする。イギリスのジャズ系レーベル、パッション・ジャズからリリースされた『デュアリティ』(2002年)がそれで、前作と比較するとかなり地に足のついた作品に仕上がっている。もちろんフロアを盛り上げるようなエレクトロニックなダンス・ミュージックも収録されているが、アダルト・コンテンポラリー風のメロウなナンバーも顔をのぞかせる。ことにイギリスのR&Bシンガー、ポーラ・クロフォード、スコットランドのハウス・ミュージック・プロジェクト、ナイトクローラーズのリーダーで、DJ兼ヴォーカリストのジョン・リード、そしてスコットランドのシンガー、ジェーン・ハミルトンらによるヴォーカル・ナンバーは、とびきりスウィートだ。

 

 そんなポップなセンスが横溢するソウル・ファンク系のサウンドも然ることながら『デュアリティ』では、ロンドンに活動の拠点を置くマルチ・インストゥルメンタリスト、マット・パーク(本作ではギターをプレイ)、イギリスのギタリスト、イアン・クラブトリー、スペインのイビサ島出身のサクソフォニスト、ジェームズ・ヴァルガスらのサポートによって、トータル・サウンドに厚みがつけられている。なおヴァルガスは、のちにシルクをプロデューサー、ソングライター、キーボーディストに迎え、デビュー・アルバム『ジェームズ・ヴァルガス』(2004年)をリリース。ダニー・シュガーマット・パークも参加した、ヴァルガスならではのスパニッシュなナンバーも含む上質のスムース・ジャズ作品である。

 

 とにもかくにも、オリ・シルクのオリジナリティに溢れた音楽性のルーツを知る上で、シュガー&シルク名義の2枚のアルバムは欠くべからざるもの。実際この2作品はヨーロッパで高い評価を得た。それらがトリッピン・アンド・リズム・レコードの目にとまり、シルクは同社と専属アーティストとして契約を結ぶことになった。トリッピン・アンド・リズムは、1996年にイギリスのエレクトロニック・ダンス・ミュージックのエンジニア、レス・カットモアによって設立されたスムース・ジャズ系レーベル。このレーベルの面白いところは、主にイギリスで音楽作品を制作していながら、そのマーケティングのターゲットがアメリカであるということ。音盤の生産および発売は、アメリカで行われている。

 

 これはやはり、アメリカのラジオ・ステーションが意識されてのことだろう。トリッピン・アンド・リズムが発信するのは、スムースなテクスチュアをもった複数のジャンルがブレンドされたスタイルの音楽。それは広義に捉えると、コンテンポラリー・ジャズにカテゴライズされるもの。そういうサウンドをもっとも歓迎するのは、イギリスのホットなダンスフロアではなく、アメリカのスムース・ジャズ専門のラジオ・ステーションなのだろう。そんな現象は、前述のシャカタクの日本での人気が、本国のイギリスにおけるそれをはるかに上回るということと、相似するように思われる。いずれにしてもシルクはこのレーベルにおいて、ジャズ・ファンクのグルーヴ感を残しながらも、スムース・ジャズにアプローチしたサウンドをクリエイトしていく。

 

 トリッピン・アンド・リズムから最初にリリースされたシルクのアルバム『ソー・メニー・ウェイズ』(2006年)では、従来どおりプログラミングがベースとされたリズム・パートも散見されるが、マーク・パークのギター、ジュリアン・クランプトンのベース、デイモン・ソーヤーのドラムスといった、ロンドンの練達の士たちのリアルなプレイによって、サウンドに奥行きが与えられている点に注目したい。またワシントン D. C.を活動の拠点に置くサクソフォニスト、ジャレッドの参加が、アルバムをより色彩豊かなものにしている。彼は全米スムース・ジャズ協会によって、2002年度の最優秀新人賞にノミネートされたことから一躍脚光を浴びたが、当時はもっとも注目されるアーティストのひとりだった。

 

どれほど楽しんでも飽きることがない充実したアルバム

 

 ジャレッドは、その後トリッピン・アンド・リズムから彼にとっては3枚目のリーダー作にあたる『アディクション』(2008年)という、まさしくこれぞという傑作を発表している。実はこのアルバムを全面的にプロデュースしたのが、シルクだった。さらにつけ加えるとシルクは、オーストラリア出身のサクソフォニストでフルートも吹く、ゲイリー・オナーのダイナミックなスムース・ジャズ・アルバム『ヘッズ・アンド・テイルズ』(2012年)や、アメリカのサクソフォニスト兼シンガーソングライター、マイケル J. トーマスのサード・アルバム『ドリヴン』(2017年)においても、プロデューサー、ソングライター、キーボーディストとしてその卓越した才能を遺憾なく発揮している。

 

 なお『ドリヴン』に収録されているシルクによるシンセサイザーもフィーチュアされたインストゥルメンタル「ベイビー・コーヒー」は、ビルボード誌のスムース・ジャズ・チャートで堂々の1位を獲得した。なぜかシルクはサックス・プレイヤーの作品ばかり手がけているけれど、マイルドな味わいをもつメロディアスな楽曲が理想とされるスムース・ジャズにおいて、やはりサックスはいちばんの花形楽器ということなのだろう。ただここに挙げた3枚は、それぞれ異なる強烈なインプレッションを与える作品に仕上がっており、少しもマンネリズムに陥っていないという点が、シルクがプロデュースやアレンジにおいて、なみなみならぬ手腕の持ち主であることを物語っているように思われる。

 

 そのいっぽでシルクは、それらのプロデュース作品の合間を縫うように、前述のダウン・トゥ・ザ・ボーンの『ザ・メイン・イングリーディエンツ』に参加したわけだが、実を云うとそれにつづくこのグループの10枚目のアルバム『ディグ・イット』(2014年)のレコーディングにおいても、ふたたび出馬した。しかも今度は4曲において、彼のソングライティングとキーボード・プレイがフィーチュアされている。グループのレギュラー・メンバーには、ラテン・タッチのジャズ・ピアノを得意とする優れたキーボーディスト、ニール・アンジリーがいるけれど、シルクのキーボード・ワークにはそれとはひと味もふた味も違う、聴き手を突き抜けた気分にさせるような小気味よさが観られるのだ。

ショルダーキーボードとロンドンの風景

 むろんシルクがクリエイトするサウンドの醍醐味をこころいくまで味わうことができるのは、そのリーダー作において。彼は前述の『ソー・メニー・ウェイズ』を2006年に発表したあと、これまでに『ザ・リミッツ・ザ・スカイ』(2008年)『オール・ウィ・ニード』(2010年)『レザー・シャープ・ブリット』(2013年)『ウェア・アイ・レフト・オフ』(2016年)『シックス』(2020年)、そして今回ご紹介する最新作『イン・リアル・ライフ』と、決して速いペースとは云えないが順調にアルバムを制作してきた。しかもどれもアルバム・コンセプトがよく練られており、作品を重ねるごとにそのクオリティが高くなっているように思われる。ちなみに『シックス』に収録されている3曲が、ビルボード誌のチャートにおいて1位を獲得している。

 

 具体的には、2020年にヴィンセント・インガラのテナーがフィーチュアされた「ニュー・バウンス」が、2021年にシンプリー・レッドのメンバーだったマーク・ハイメスのギターとゲイリー・オナーのフルートが彩りを添える「ハリー・アップ・アンド・ウェイト」が、そして2022年にフェンダー・ローズの音色が心地いいダウンテンポ「アウト・トゥ・ランチ」が、それぞれ1位を記録。3年連続で首位の座に踊り出るという、快挙が成し遂げられた。この件でシルクは、ビルボード史に残る偉業を達成した数少ないスムース・ジャズ・アーティストのひとりとなったのである。だからというわけではないけれど、ぼくもこの『シックス』を暫定的にではあるが、シルクの最高傑作と観ている。

 

 またシルクはライヴ活動においても積極的で、モザンビークからオーストラリア、スペインからドバイ、リトアニアからロサンゼルスまで、世界各地をツアーでまわっている。思えば過去にアメリカン・スムース・ジャズ・アワードにおいて、2010年度のインターナショナル・アーティスト・オブ・ザ・イヤーにノミネートされたこともあるシルクだが、現在ではコンテンポラリー・ジャズ系のアーティストとして、もっとも世界から注目を集める存在と云えるのではなかろうか。ときにかつてのシルクのパートナーだったダニー・シュガーは、いまはグラフィックデザイナーに転身しており、シルクのアルバムにおいてもジャケットのアートワークを手がけている。では最後に、シルクの3年ぶりの新作『イン・リアル・ライフ』について触れておこう。

 

 今作においても従来どおり、シルク自身がプロデュースとアレンジを手がけている。10曲すべて、彼のオリジナル。2曲のヴォーカル・ナンバーでは、各々のシンガーが作詞を担当している。基本的なリズム・セクションは、オリ・シルク(key)、マーク・ハイメス(g)、オレフォ・オラクウェ(b)、ウェストリー・ジョゼフ(ds)、カーティス・マッケイン(perc)で、ベースとドラムスは一部曲によって交替する。オープニングを飾る「デア・トゥ・ドリーム」では、軽快なビートに乗ってシルクのピアノがダイナミックかつエレガントにフロウする。初っ端からハートをつかまれる。つづく「ウェイト…ホワット?」は、ハンド・クラッピングやスラップ・ベースが効果的なファンキー・チューン。シルクのピアノも、歯切れよくバウンスする。

 

 3曲目の「ニュー・ホライズンズ」は、スペーシーなダウンテンポ。イリヤ・セロフのミュート・トランペットがフィーチュアされている。後半ではフォー・オン・ザ・フロアで盛り上がりを見せる。つづく「ルッキング・グラス」は、メロウなテクスチュアとポップなリズムが交錯するヴォーカル・ナンバー。レベッカ・ジェイドのほどよくソウルフルな歌いまわしが、洗練された魅力を放つ。5曲目の「グラスフェッド・ファンク」は、1980年代のエレクトロ・ファンクを彷彿させるブギー・ナンバー。マーカス・アンダーソンのアルトが、情熱的な楽句を繰り出す。前曲からクールダウンするような「ウェスト・ビーチ」は、爽やかなチルアウト・ナンバー。ハイメスとシルクのソロも、清涼感を湛える。

 

 7曲目の「アクチュアリー・アクチュアリー」は、ユニークなビート感が心地いいアンビエント・チューン。キム・スコットのフルートが、リラックスしたムードを高めている。つづく「イン・リアル・ライフ」は、シャノン・サンギンディーヴァ・ピアソンのヴォーカルがフィーチュアされた、ゆったりとした広がりのあるアーバン・ソウル。シルクのローズがソロにおいて、ブルージーなフレーズを綴る。9曲目の「スリム・シティ」は、ストレートなジャズ・ファンク。ゲイリー・オナーもフルートで参加している。ラストを飾る「ア・リル・ピック・ミー・アップ」は、ダンサブルなディスコ・ファンク。カール・コックスのテナーもグルーヴィー。おもい切り踊れる曲で締めくくるところは、さすがシルク。彼は従来以上に、そのたくさんの引き出しをもち出しているけれど、本作はどれほど楽しんでも飽きることがない充実したアルバムに仕上がっている。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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