ルイス・ボンファとエウミール・デオダートとのコラボレーションが生んだ珠玉のブラジル音楽集──映画『ザ・ジェントル・レイン』のサウンドトラック・アルバム
Album : Luiz Bonfa & Eumir Deodato / The Gentle Rain (1965)
Today’s Tune : The Gentle Rain (Major Key)
映画本編よりも音楽のほうが奇跡的な『黒いオルフェ』
初夏の風を心地よく感じるような、それでいて日中は少し動くとすぐに汗ばむような時季だからだろう、自分でも気がつかぬうちに、ついつい涼感を誘う音楽を求めてしまう今日このごろである。前回も涼味満点のアントニオ・カルロス・ジョビンの不朽の名作『波』(1967年)をご紹介した。その際チラッとだけれど、ジョビンが音楽を手がけた映画『黒いオルフェ』(1959年)に触れた。映画はジョビン同様ボサノヴァのオリジネーターである、ヴィニシウス・ジ・モライスが執筆した1956年の前衛的な舞台劇『オルフェウ・ダ・コンセイサゥン』を映画化したもの。映画はフランス、ブラジル、イタリアの合作だが、カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを、アカデミー賞では外国語映画賞を受賞している。
ただ映画を観た原作者のモライスは「これは自分の作品ではない」と、否定的な感想を率直に述べている。映画の出来不出来はともかく、この映画のサウンドトラック・アルバムは実に素晴らしい。ジョビンはブラジルの伝統的なフォルクローレを織り交ぜながら、ヴィヴィッドなサンバ・ジ・エンヘードをクリエイトしている。そこはかとなく哀愁を帯びた「フレヴォ」や、郷愁を誘うような「カルナヴァルのサンバ」は名曲だ。またジョビンは、モライスが作詞した「フェリシダージ」(邦題は「悲しみよさようなら」)という、ボサノヴァ・ソングの流れを汲むサウダージ感覚に溢れた美しい曲も書いている。彼はこの曲を、自身のセカンド・アルバム『ワンダフル・ワールド』(1965年)において、セルフ・カヴァーしている。
有名なギリシャ神話であるオルフェウス伝説を、物語の舞台を1950年代後半のブラジル、リオデジャネイロに置き換えて描くという、モライスの大胆な着想によって創出された戯曲は、いかにもヌーヴェルヴァーグの鬼才、マルセル・カミュ監督が飛びつきそうな題材だ。カーニヴァルを翌日に控えるリオデジャネイロにおいて、市電の運転士オルフェ(ブレノ・メロ)は田舎から出て来た少女ユリディス(マルペッサ・ドーン)と出会う。オルフェにはすでに婚約者がいるのだが、彼とユリディスとはともにカーニヴァルの練習に取り組むうちに恋に落ちてしまう──。この物語の主な舞台となるのはリオデジャネイロ市内のファヴェーラ(スラム街)だが、撮影は1958年のリオのカーニヴァルを中心にオールロケで行われた。
この映画にぼくはそれほど思い入れがあるわけではないけれど、ギリシャ神話をベースにしたストーリーラインとカーニヴァルの熱気と狂騒とのマッチングがすこぶるいいのには、ちょっと驚かされた。サウンドトラック・アルバムには、リオデジャネイロの街とそこに生きるひとびとの活気、そしてこのオハナシが醸し出す甘美なまでに形而上学的な雰囲気が、そっくり詰め込まれている。そういう意味では、映画本編よりも音楽のほうが奇跡的である。なおこのサウンドトラックには、こんな逸話がある。オルフェ役のメロのプレイバックシンガーに、当初ボサノヴァの神さま、ジョアン・ジルベルトが名乗りを上げていた。ところが声色がアフリカ系ブラジル人らしくないということから、彼が採用されることはなかった。
結局、メロの吹き替え歌手は、サンパウロ出身のシンガーソングライター、アゴスチーニョ・ドス・サントスが務めた。サントスは1962年11月21日、ニューヨークのカーネギー・ホールで開催された、伝説のボサノヴァ・コンサートにも出演したひと。いっぽう不採用となったジルベルトは、まるで一矢報いるかのごとく『黒いオルフェ』の劇中歌のレコーディングに臨んだ。具体的には「フェリシダージ」「オルフェの歌」「カルナヴァルのサンバ」「フレヴォ」といった4曲だが、吹き込みはオデオン・レコードによって1枚のシングル・レコードとしてリリースされた。ジルベルトのソフトなウィスパーヴォイスはなんとも味わい深いのだが、オルフェの歌声としてアテるにはいくらなんでも軽すぎる。
ただ純然たる音楽として楽しむのなら、ジルベルトのカヴァーはサウダージ感覚に溢れた極上のヴァージョンと云える。このEP盤は非常に貴重で入手が困難だったが、2010年に英国のチェリー・レッド・レコードがジルベルトのファースト・アルバム『想いあふれて』(1959年)をCD化する際に、ボーナス・トラックとして「フレヴォ」を除く3曲をアルバムに追加収録した。ぼくの場合もいまとなっては、原曲よりもジルベルトのヴァージョンを聴く機会のほうがすっかり多くなっている。むろん一部に愁いを帯びたソフィスティケーテッドな楽曲を含むものの、総じてブラジル音楽がもつ野性的で素朴なサウンドがダイナミックに展開される映画『黒いオルフェ』のサウンドトラック・アルバムは、いまも非凡な輝きを放っている。
この映画の音楽のほとんどはジョビンのペンによるものだが、アゴスチーニョ・ドス・サントス、エリゼッチ・カルドーゾの歌唱、あるいはアコースティック・ギターのソロ演奏などで、劇中繰り返し登場する「オルフェの歌」は彼の曲ではない。この曲を映画の主題歌と観ても差し支えないと思われるのだが、実際「オルフェの歌」は「カーニバルの朝」や「黒いオルフェ」という別タイトルでも親しまれ、映画の楽曲のなかではもっとも広く知られたナンバーとなっている。なおユリディス役のドーンのプレイバックシンガーを務めたカルドーゾは、俗に“ボサノヴァ第1号”とされるジョビンとモライスとの共作「想いあふれて」をはじめてレコーディングしたシンガーとして知られる女性である。
この「オルフェの歌」は、作詞をアントニオ・マリア、作曲をルイス・ボンファが手がけた。ふたりはこの映画に陽気で躍動的な「オルフェのサンバ」という曲も提供している。ブラジル北東部の大都市レシフェ出身のマリアは、多くのポップ・ミュージックの作詞を手がけながら、ラジオのスポーツ番組でコメンテーターとしても活躍したという変わり種。かたやリオデジャネイロ出身のボンファは、ジャズやボサノヴァをプレイするギタリストで、そのリーダー作は50枚以上にも上る。特にボンファは技巧派のポリフォニック・スタイルのソロイストとして知られるが、メロディック・ラインをハーモナイズさせたりリードとリズムの両パートを同時に弾いたりするのが得意な、レジェンダリーなギタリストだった。
ルイス・ボンファとは?映画『ザ・ジェントル・レイン』とは?
実はボンファは、前述のカーネギー・ホールのボサノヴァ・コンサートにも出演している。彼は1958年に活動の拠点をニューヨークに移し、その後ギタリストとして成功を収めるのだけれど、そのキャリアを世界的なものにした出来事といえば、やはり『黒いオルフェ』のサウンドトラックへの参加だろう。1962年のカーネギー・ホールでのコンサートにおいても、彼が演奏した「オルフェの歌」がハイライトとなった。なおコンサートに同行したサントスも、オスカー・カストロ・ネヴィス・クァルテットをバックにその美声をもってして「オルフェの歌」と「フェリシダージ」を披露した。その模様は、オーディオ・フィデリティ盤『ボサノヴァ・アット・カーネギー・ホール』(1963年)において聴くことができる。
いっぽうボンファのリーダー作といえば、クラブ・シーンにおいては欧米諸国、ブラジル、それに日本のアーティストたちによって、ヘヴィー・ローテーションのアイテム、あるいはサンプリングのネタとして重宝されているようだけれど、一般的な人気はいまひとつのように思われる。彼はリーダー作を1950年代半ばから1990年代初頭まで吹き込んでいるけれど、内容的には実にヴァラエティに富んでいる。なかには『マンハッタン・ストラット』(1997年)という、ニューヨークのファースト・コール・ミュージシャンたちと吹き込んだ、バリバリのフュージョン作品もある。1974年にレコーディングされていながらお蔵入りとなり、20余年のときを経て日の目を見た、都会的な雰囲気と爽快感のある佳作だ。
ボンファの音楽活動は、故郷のリオデジャネイロにおいて、がんにより78歳でこの世を去るまで、とどまるところを知らなかった。おそらく“次世代のエリゼッチ・カルドーゾ”の異名を取るブラジルの実力派女性シンガー、イタマーラ・コーラックスのブラジリアン・ミュージックからジャズ・スタンダーズまで採り上げたアルバム『ラヴ・ダンス』(2003年)あたりが、最晩年のレコーディングだろう。もともとサンバ・カンサォン・スタイルのギタリストだったボンファは、ボサノヴァはもちろんのこと、クラシック、ジャズ、フュージョン、ソウル、ポップスなど、生涯にわたって様々なジャンルの音楽をプレイしたが、彼の奏でる音楽からはおしなべてブラジル音楽の風味が香る。そこがいい。
ただ『黒いオルフェ』の音楽でボンファが残した功績があまりにも偉大過ぎて、彼のことを語るときそればかりが取り沙汰されるものだから、ちょっとお気の毒にも思われる。あまり知られてはいないかもしれないが、実際ボンファは『黒いオルフェ』以外にも20本以上の映画の音楽を手がけているのだ。そこで今回、そのなかから選りすぐりの1枚をご紹介しようと思う。もちろんボンファが作曲と演奏を務めたサウンドトラック・アルバムだから、内容的にはブラジル音楽がベースとなっている。しかしながらこの映画のためにクリエイトされたサウンドは、リオデジャネイロのカルナヴァルをストレートにイメージさせる『黒いオルフェ』のそれとは一線を画すものである。そしてそれは、いま聴きたい涼感を誘う音楽でもある。
この『ザ・ジェントル・レイン』(1965年)は、1966年に公開されたアメリカとブラジルとの合作映画のサウンドトラック・アルバムだ。映画は『殺人会社』(1960年)『機関銃を捨てろ』(1961年)などのギャング映画で知られる、バート・バラバン監督の作品。バラバンにとっては、遺作にあたる。彼はこの映画が公開される3か月まえに、がんでこの世を去った。主演はクリストファー・ジョージとリンダ・デイで、ふたりは本作ではじめて共演したのだけれど、1970年に結婚している。映画は主にブラジルで撮影されたようだが、リオデジャネイロで出会ったアメリカ人の若い男女の恋が静かな語り口で描かれている。自動車事故で恋人を失ったことがショックで緘黙症となった建築家(ジョージ)と、人生への情熱を見つけるために異国の地を踏んだ女(デイ)との恋の行方が切なく綴られる。
利いた風な口をきいてしまったが、実はぼくはこの映画を観たことがない。それもそのはずで、本作は日本ではいまだに未公開のままなのだ。おそらく海の向こうで、すでに失敗作のレッテルを貼られてしまったからだろう。本作はフロリダ州のフォートローダーデールで行われたワールドプレミアでの評判があまり芳しくなく、アメリカでも一部の劇場で限定公開されるのみにとどまった。バラバン監督は、その演出において思慮深く理知的であると評価されるいっぽうで、作品には独自の視点がなく新鮮味がないという批判を浴びた。確かにシノプシスを読んだ限りでは、使い古された表現が頻繁に使われたメロドラマのようにも思われる。しかしながら、首尾一貫、美しさと口当たりのよさが継続するという見解もあるようだ。
本編は未見だが、このサウンドトラック・アルバムを聴いていると、たとえストーリーは陳腐であってもこの映画、少なくとも醸し出す雰囲気はスタイリッシュなのではないか──と、ぼくは想像をめぐらしてしまう。それだけアルバム『ザ・ジェントル・レイン』は、素晴らしい出来なのである。正直に告白すると、エヴァーグリーンな名盤とはいえフォルクローレの色彩が強いせいか、ぼくは『黒いオルフェ』を差し置いて、ややもするとソフィスティケーテッドな印象を与える『ザ・ジェントル・レイン』のほうをターンテーブルにのせてしまう。さらに云うと、ボンファのコンポジションにおいても、名曲「オルフェの歌」よりもアクの抜けた感じの「ザ・ジェントル・レイン」(ポルトガル語のタイトルは「シュヴァ・デリカダ」)のほうが好みだ。
いやいや、ボンファの作曲家としての手腕が発揮されたという点では、むしろこの『ザ・ジェントル・レイン』のほうが格段に優れているように思われる。その証拠に、このアルバムに収録されている「ザ・ジェントル・レイン」「ノンストップ・トゥ・ブラジル」「オ・ガンソ」は、“ボサノヴァの女王”の異名を取るアストラッド・ジルベルトのセカンド・アルバム『いそしぎ』(1965年)で早々とカヴァーされている。もともとインストゥルメンタルだった3曲だが、このとき「ザ・ジェントル・レイン」はマット・デュベイによって、そして「ノンストップ・トゥ・ブラジル」はデュベイとノーマン・ギンベルとによって歌詞が付けられた。ジルベルトのサッパリしたヴォーカルとドン・セベスキーのモダンなアレンジがいい感じだ。
“デオダート・オーケストラ・フィーチャリング・ボンファ”
残りの「オ・ガンソ」は歌詞は付されておらず、ジルベルトならではのキュートなスキャットで歌われる。こちらはブラジリアン・レアグルーヴのレジェンダリー・キーボーディスト、ジョアン・ドナートがアレンジを手がけている。なおこのアルバムにおいてジルベルトは、さらに「オルフェの歌」とボンファの曲に彼の奥さまでシンガーのマリア・トレードが歌詞を付けた「トリステーザ(ブラジリアン・ブルース)」も歌っている。結局のところアルバム『いそしぎ』では、全11曲中5曲でボンファの曲がセレクトされているのである。こうなってくると、このアルバムがバラバン監督の映画とタイアップして制作されたのではと、ぼくは想像をたくましくするばかりだ。あいにく映画はヒットしなかったけれど──。
実はこの映画の楽曲が早い時期に採り上げられたアルバムが、もう1枚存在する。あのクインシー・ジョーンズのポップなビッグ・バンド作品で、ジャズ・スタンダーズからバート・バカラックやザ・ ローリング・ストーンズの楽曲まで選曲された『プレイズ・フォー・プッシーキャッツ』(1965年)である。やはり「ザ・ジェントル・レイン」「ノンストップ・トゥ・ブラジル」の2曲がカヴァーされているのだが、どちらもポップ・スタイルのインストゥルメンタルとして気軽に楽しめる仕様となっている。ジョーンズはそのアレンジにおいて、原曲どおりボサノヴァ・テイストをちゃんと反映させながら、麗々しく捻りをきかせている。まあ、ぼくはどちらかというと、簡素な作りのオリジナル・ヴァージョンのほうが好みなのだけれど──。
ジョーンズの『プレイズ・フォー・プッシーキャッツ』はマーキュリー・レコードからリリースされたアルバムだが、実は『ザ・ジェントル・レイン』もまた同レーベルの1枚。発表のタイミングにも留意すると、ほんとうにこの2枚が商業的な成果を上げるための提携作品だったと思えてくる。いずれにしても『ザ・ジェントル・レイン』は、単なるサントラ盤では終わらないアルバムである。プロデューサーを名曲「蜜の味」の作曲者として知られるピアニスト、ボビー・スコットが務めていることも目を引く。そして本作の最大の魅力は、オーケストラのアレンジとコンダクティングをのちにフュージョン・シーンを席巻するキーボーディスト、エウミール・デオダートが手がけていることだ(吹き込みはリオデジャネイロで行われた)。
デオダートは1942年6月22日、リオデジャネイロの生まれ。郷里はおなじだけれど、ボンファのほうは1922年10月17日生まれ。年齢的には親子ほど離れている。さらには、デオダートが12歳でアコーディオン、14歳でピアノをはじめ、17歳にしてレコーディングを経験するという天才型ミュージシャンであるのに対し、ボンファは11歳からウルグアイ出身のクラシック・ギタリスト、イサイアス・サビオに師事し、演奏技術の向上に粉骨砕身で取り組んだ、どちらかというと努力型のひと。世代も経歴もまったく違うふたりだが、本作では絶妙なコンビネーションを発揮している。デオダートはその後、1967年にリオからニューヨークに移住することになるが、彼をアメリカに呼び寄せたのはボンファだったという。
デオダートは『ザ・ジェントル・レイン』のレコーディングに参加する直前まで、デビュー・アルバム『無意味な風景』(1964年)をはじめとするリーダー作や、“オス・ガトス”、“オス・カテドラーチコス”といったグループ名義の作品を立てつづけに制作している。まさにノリに乗っているときで、とにかくそのオーケストレーションは絶品である。ボンファのペンによるサウダージ感覚に溢れたメロディック・ラインも然ることながら、デオダートのオーケストレーションが織りなすアーバンなサウンド・タペストリーが素晴らしい。その点、このアルバムには、“エウミール・デオダート・オーケストラ・フィーチャリング・ルイス・ボンファ”といった趣きがある。まあぼくもそれがお目当てで、本作を手にとったのだけれど──。
アルバムのオープニングを飾る「ザ・ジェントル・レイン」は、中間でオーケストラが挿入されるが、なんといってもボンファ・スタイルのメランコリックなつま弾きが圧倒的。澄み渡った空のように爽快な「オ・ガンソ」は、モダンなオーケストラル・チューン。エスプリの効いたサンバ「オープン・エア・マーケット」では、賑々しいドラミングが楽しい。グルーヴィーな「テイキング・ジュディ・ホーム」では、ストリングスの小刻みな動きがサッパリとした空気を生んでいる。オーケストラが全面的にフィーチュアされた「ビルズ・レター」では、アルバム中もっともエモーショナルでドラマティックな展開が見られる。寛いだ感じのボサノヴァ「イッツ・テンプティング」では、フルートのそつのないプレイがいい具合だ。
軽快なサンバ「サタデイ・イン・リオ」では、前半のフルートとサックスとによる交互に奏でられるメロディ、中盤からの金管が加わったメトリック・モジュレーション、カルナヴァルの装い、後半のトロンボーンのソロといった、構成の妙が光る。ゆったりしたボサノヴァ「ノンストップ・トゥ・ブラジル」では、ヘンリー・マンシーニ風のオーケストレーションがエレガントな雰囲気を醸し出す。レコードでは、ここまでがA面である。2度目の「オ・ガンソ」は、コンボ・スタイルでの演奏。シロフォンとミュート・トロンボーンが茶目っけイッパイに歌う。ケレン味のないサンバ「コパ・ビーチ」では、その小気味いいグルーヴ感を楽しむのみ。つづく「ザ・ジェントル・レイン」と「ノン・ストップ・トゥ・ブラジル」はともに2度目の演奏だが、ボンファのギター演奏をたっぷり楽しむことができる。後者のストリングスにはやはりマンシーニの影がチラつく。
寂寥感が漂う「プリーズ・ヘルプ・ミー・ワン・モア・タイム」では、ストリングスによるアンサンブルがちょっとレモ・ジャゾットの「アダージョ ト短調」を彷彿させる。ジャジーな「ジュディズ・ストーリー」は、クインシー・ジョーンズ楽団の演奏を想わせる。フルートのソロもなかなかいい。3度目の「ザ・ジェントル・レイン」もまた、ボンファのソロ演奏。短尺の「アクロス・ア・テーブル」では、ストリングスによるポルタメントを効かせた表現がブルージーなムードを高める。4度目の「ザ・ジェントル・レイン」では、キーがマイナーからメジャーに変更されている。ピアノ・ソロも含めて清涼感のあるアレンジが、ハッピー・エンディングを予感させる。以上17曲、尺はみな短めだが珠玉の名曲揃い。本作は、実に贅沢な味わいのサウンドトラック・アルバムだ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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