Pepper Adams Donald Byrd Quintet / Out Of This World (1961年)

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ハービー・ハンコックの初レコーディングとして知られるペッパー・アダムス・ドナルド・バード・クインテットの『アウト・オブ・ディス・ワールド』

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Album : Pepper Adams Donald Byrd Quintet / Out Of This World (1961)

Today’s Tune : It’s A Beautiful Evening

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得も云われぬ心地よさを覚える涼やかな陰影を湛えたサウンド

 

 こう夏本番を思わせるような暑さがつづくと、冷房以外でも涼しさを求めるのが本能というものだろう。例によって仕事から帰宅すると、涼感を誘うような音楽をセレクトする今日このごろである。そういうとき、どうしても無造作にボサノヴァとかエキゾチカのレコードをターンテーブルにのせてしまいがちなのだけれど、勢い任せでなく冷静に考えてみると、ジャズのレコードにも蒸し暑い夏を快適に過ごすのに最適な作品がちゃんとあることに気づく。テレビの通販番組の決まり文句となっている「あくまで個人の感想です」でもないのだけれど、今回はぼくが長年愛聴しつづけている、個人的にはその涼やかな陰影を湛えたサウンドに、得も云われぬ心地よさを覚える1枚をご紹介しよう。

 

 それはバリトン・サックス奏者のペッパー・アダムスとトランペット奏者のドナルド・バードとの双頭クインテットによる『アウト・オブ・ディス・ワールド』(1961年)というレコード。モーティ・クラフトが1959年にニューヨーク市で設立した、ワーウィック・レコードからこっそりリリースされたアルバムだ。ワーウィックはリズム・アンド・ブルースないしドゥーワップの作品を中心としたレーベルだけれど、女性ジャズ・ギタリストの草分け、メリー・オズボーンの『ア・ガール・アンド・ハー・ギター』(1960年)や、ビル・エヴァンスの珍プレイで知られるセッション・アルバム『ソウル・オブ・パーカッション』(1960年)といったジャズ作品もリリースしている。

 

 ついでに云っておくと、このレーベルのオーナーであるクラフトはもともとマーキュリー・レコードやMGMレコードなどでプロモーターとして働いていたひとなのだけれど、同時にコンポーザー、アレンジャーの側面ももち、自らの楽団を率いてポップなインストゥルメンタル作品を発表したりもしていた。ワーウィック・レコードは、そんな彼の音楽性が前面に出たレーベルだったが1962年に閉鎖と、短命に終わった。そんななかで、この『アウト・オブ・ディス・ワールド』はひときわ輝きを放っている。アダムスとバードとのコラボレーションも際立っているし、本作がはじめてのレコーディングだったピアニストのハービー・ハンコックのプレイも秀逸で、前途洋々といった感じだ。

バリトン・サックスと白熊

 ジャズ・ピアニストとしてほんの駆け出しだったハンコックをいっぱしのプレイヤーに成長させたのは、ほかならぬドナルド・バードであるとぼくは思っている。1958年からペッパー・アダムスとの双頭クインテットで活動していたバードが、すでにレジェンダリーなテナー奏者、コールマン・ホーキンスとの共演を果たしていたハンコックに目を留めたのは1960年のこと。当時クインテットのピアニストはデューク・ピアソンだったのだけれど、ある日シカゴのクラブでのギグの際、ピアソンは大雪に見舞われて足止めを食らってしまった。その代役として白羽の矢が立ったのが、ハンコックだったのである。しかしながらハンコックは、緊張のあまり納得のいく演奏をすることができなかった。

 

 すっかり打ちのめされたハンコックを、バードは励ますばかりでなく翌日に控えるミルウォーキーでのライヴにも誘った。ハンコックはまえの晩よりは上手く弾けたものの、アップテンポでの自身のプレイにはまったく満足していなかった。いまでは信じられないことだけれど、当時のハンコックはバラードやミディアムテンポの曲は得意だったが、高速テンポで進行するスタイルでのインプロヴィゼーションにはかなり迷いがあったという。ライヴのあとハンコックから相談をもちかけられたバードは、その問題を克服する秘策を懇切丁寧に彼に教示した。まあそれはバードが過去に、同郷の徒であり技巧的な演奏を得意とするピアニスト、バリー・ハリスから伝授されたものだったのだが──。

 

 バードの手ほどきを真摯に受け止めた甲斐もあって、ミルウォーキーでの2日目のギグにおいて、ハンコックはアップテンポの曲でも冴えまくった。クインテットのメンバーはみなハンコックのプレイを気に入り、彼が正式なバンド・メンバーになることを歓迎した。ハンコックにとっては、まさに天にも昇る思いだったろうな。それにしてもバードといったら、あのデューク・ピアソンをお払い箱にしてしまうとは、情に厚い反面、実力主義のおかたなのね。まあそれはともかく、彼はハンコックにニューヨーク進出を促す。それだけではない。バードはマザコンのハンコックになり代わって、ハンコックの母親から息子がシカゴを離れることに関して同意を取りつけたのだ。実に面倒見がいい。

 

 とにもかくにも、ニューヨークに渡ったハンコックは取り敢えずマンハッタン52丁目のホテルに宿泊し、その後間もなくバードのアパートに居候する。1961年のことである。それにしても、バードはよく世話を焼くひとだな──。そしておなじ年、いよいよハンコックは初のレコーディングに臨むことになる。それがくだんの『アウト・オブ・ディス・ワールド』の吹き込みだった。彼はその年の末まで、バードの4枚のアルバムのレコーディングに参加している。順番に挙げると、まずはペッパー・アダムス・ドナルド・バード・クインテット名義の『アウト・オブ・ディス・ワールド』となる。1961年3月2日の録音で、ヴィブラフォニストのテディ・チャールズがプロデュースを手がけた。

 

 つづくドナルド・バードの『チャント』(1979年)だけれど、これは長らく未発表となっていた。1961年4月17日のセッションで、ブルーノート・レコードのLTシリーズ(海外のコレクターの間ではレインボー・シリーズとも呼ばれている)のなかの1枚として日の目を見た。パーソネルは、ドナルド・バード(tp)、ペッパー・アダムス(bs)、ハービー・ハンコック(p)、ダグ・ワトキンス(b)、テディ・ロビンソン(ds)となっている。総じてハード・バップ然とした演奏が展開されている。なかでも「アイム・アン・オールド・カウハンド」や「ザッツ・オール」といったアップテンポのナンバーでは、バード、アダムスとともにハンコックも飛ばしまくる。初々しくも爽やかなプレイには、好感がもてる。

 

怪しいレコード『ジャミン・ウィズ・ハービー・ハンコック』

 

 1961年9月21日、ブルーノートに吹き込まれたバードの『ロイヤル・フラッシュ』(1962年)は、それまでハード・バップからファンキー・ジャズまで痛快な演奏で楽しませてきてくれた、バードとアダムスとの双頭クインテットによる最後のレコーディング。パーソネルは、ドナルド・バード(tp)、ペッパー・アダムス(bs)、ハービー・ハンコック(p)、ブッチ・ウォーレン(b)、ビリー・ヒギンズ(ds)となっている。従来のバップ&ファンキー路線に加え、モーダルな演奏にも果敢に取り組まれている。新旧のサウンドが違和感なく共存しているのが、素晴らしい。バードのオリジナル「ジョージーズ」などは、プログレッシヴな感覚に溢れた美曲。ぼくの好物でもある。ハンコックのオリジナル「レクイエム」にも斬新な創作意欲が感じられる。

 

 さらにブルーノートにおけるバードのリーダー作『フリー・フォーム』(1966年)では、アダムスの替わりに当時アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズに在籍していたテナー奏者、ウェイン・ショーターがクインテットに参加。レコーディングは1961年12月11日に行われたが、アルバムが発売されたのは5年近くあとのこと。パーソネルは、ドナルド・バード(tp)、ウェイン・ショーター(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ブッチ・ウォーレン(b)、ビリー・ヒギンズ(ds)となっている。ハード・バップから流行りのジャズ・ロックまで、楽曲はヴァラエティに富んでいる。なかでもハンコックのオリジナル「ナイト・フラワー」は出色の出来。バードの鮮明なトーン、ショーターの幻想的なソロ、ハンコックの美麗なバッキングと、すべてが美しい。

 

 アルバムのラストを飾るバードのオリジナル「フリー・フォーム」では、バードのクインテットにしてはアヴァンギャルドな展開が見られる。その点も踏まえると、この時期のバードはどことなく、ハード・バップならではのよくドライヴするホットでハードなプレイを刷新しようとしているかのようにも思われる。アダムスとのコンビを解消したこと、それ以上にショーターをとり込んだことが、大きく影響しているのだろう。このアルバムではそんなバードの冒険的なアプローチと知的な佇まいが、全体にクールな雰囲気を醸成している。こうして以上4作をあらためて俯瞰してみると、1961年は彼にとって飛躍の年だったことがわかる。なおバードのオリジナル「フレンチ・スパイス」は『アウト・オブ・ディス・ワールド』に収録されている「クーロス」と異名同曲である。

トランペットとアシカ

 ということで、かんじんかなめの『アウト・オブ・ディス・ワールド』にハナシを戻す。ここでひとつご注意いただきたいのだけれど、ハービー・ハンコック名義のレコードに『ジャミン・ウィズ・ハービー・ハンコック』(1970年)というのがある。TCBレコードという未知のレーベルからリリースされたものなのだけれど、ちょうどぼくが『アウト・オブ・ディス・ワールド』を購入したちょっとあとの1980年代の終わりころ、日本のセンチュリーレコードが国内仕様のCDを発売していた。この国内盤CD、ショップの店頭でバックインレイに記載されたパーソネルを確認してみると、なんと『アウト・オブ・ディス・ワールド』と同一のメンバーだった。ところが曲目のほうは、知らないものばかり。これはいったい──。

 

 ぼくはこのとき、このCDを購入しようかどうかとても悩んだのだけれど、すんでのところで踏みとどまった。アタマになにか一抹の不安がよぎったからだ。それでもこのアルバムのことがずっと気になっていたぼくは、当時の勤め先のジャズ通の上司に相談をもちかけてみた。すると上司は腕組みしながら「なんかそんなレコードがあったな──」と、そのときは思いを巡らすばかりだったが、翌日には「はい、これ──」と気軽に『ジャミン・ウィズ・ハービー・ハンコック』のLPを貸してくれた。ただただ、さすがと云うしかない。この上司、ぼくにとってはまさにジャズの師匠なのである。そんなわけで、ぼくは帰宅するや否やこのレコードをターンテーブルにのせ針を落とした。すると──。

 

 自宅のスピーカーから音が鳴り出すや否や、ぼくは「おやっ!」と思った。いきなり、しかと聴き覚えのあるピアノによるアドリブ・プレイがはじまったからだ。それは明らかに『アウト・オブ・ディス・ワールド』の2曲目に収録されているバードのオリジナル「クーロス」のなかの、ハンコックのソロ・パートだった。ただこのレコードでは、曲名が「ジャミン・ウィズ・ハービー」となっている。結論から云うと、このアルバムは『アウト・オブ・ディス・ワールド』が再編集され、あたかもハンコックのリーダー作のように見せかけられたフェイク・アイテムだったのである。思えばこのアルバムがリリースされた1970年といえば、ハンコックはすでにブルーノート・レコードのスター、あるいはマイルス・デイヴィスのグループのキーパーソンとして注目を集めていた。

 

 この『ジャミン・ウィズ・ハービー・ハンコック』は、そんなハンコックの人気が巧みに利用され利益がはかられた、とんでもないレコード。できるだけハンコックの演奏を目立たせたいからといって、彼の即興演奏に入るまえの部分をあっさり切り捨てるなんて、いくらなんでも酷すぎる。しかもこのアルバムでは、有名なジャズ・スタンダーズも含めてすべての曲が、タイトルを恣意的に変更されている。参考までに記述すると(後者が原題)、A-1「ジャミン・ウィズ・ハービー」←「クーロス」A-2「ハービーズ・ブルース」←「バード・ハウス」A-3「ロック・ユア・ソウル」←「ミスター・ラッキー」B-1「T. C. B. ウィズ・ハービー」←「アウト・オブ・ディス・ワールド」B-2「ソウル・パワー」←「デイ・ドリーム」B-3「キャット・コール」←「おいらは老カウボーイ」となる。ちなみに、曲順も変更されている。

 

 上記の曲のうちラストの「キャット・コール」こと「おいらは老カウボーイ」は『アウト・オブ・ディス・ワールド』のオリジナル盤には収録されていない。このトラックは、もともと1961年3月2日のセッションのアウトテイクなのだが、のちに発売されたセンチュリーレコードのリイシュー盤やフレッシュ・サウンド・レコードのCD盤などには、ボーナス・トラックとして収録されている。もともとはジョニー・マーサーが作曲した、1936年公開の西部劇映画『愉快なリズム』の挿入歌だが、ジャズ・ファンにとってはどちらかというと、テナー奏者、ソニー・ロリンズのアルバム『ウェイ・アウト・ウェスト』(1957年)のオープナーとして親しまれているナンバー。ピアノレスのワンホーン・トリオによる演奏は、あまりにも有名だ。

 

音質においても数段優れた各テイクの全貌を明らかにするもの

 

 この『ウェイ・アウト・ウェスト』の「おいらは老カウボーイ」では、お馬さんの蹄の音を模したシェリー・マンのドラミング、厚みとキレのある低音をキープするレイ・ブラウンのピッキング、そして朗々と歌い上げるロリンズの卓越したインプロヴィゼーションと、ちょっとコミカルだけれど凄味すら感じさせるパンチの効いた演奏が展開されている。ぼくにとっても、長年愛聴しつづけている1曲だ。いっぽうペッパー・アダムス・ドナルド・バード・クインテットによるヴァージョンは、ロリンズのそれとはまったく味わいの違う清涼感に溢れたハード・バップ然とした演奏が繰り広げられている。アダムスの力強いバリトン、バードの淀みのないトランペット、ハンコックの小気味いいピアノといった具合に、各々の即興演奏が楽曲に目の覚めるような彩りを添えている。

 

 このアウトテイクがセレクトされたためか『ジャミン・ウィズ・ハービー・ハンコック』では、オリジナルの『アウト・オブ・ディス・ワールド』に収録されていた「イッツ・ア・ビューティフル・イヴニング」がオミットされている。この曲は、もともとピアニストでシンガーのナット・キング・コールのコンセプト・アルバム『ワイルド・イズ・ラヴ』(1960年)のために書かれた。余談になるけれど、このアルバムでは全曲、ドッティ・ウェインが作詞、レイ・ラッシュが作曲、そしてポピュラー・ミュージック・シーン屈指のオーケストレーター、ネルソン・リドルがアレンジを手がけている。コールの代表作というわけではないけれど、けっこう佳曲揃い。この「イッツ・ア・ビューティフル・イヴニング」も、ぼくの大好きな曲だ。

 

 ということであれこれ云ったけれど、もしこのセッションを『ジャミン・ウィズ・ハービー・ハンコック』でしか聴いたことがないというかたがいたら、ぜひとも『アウト・オブ・ディス・ワールド』を手にとっていただきたい。本盤はむろん各テイクの全貌を明らかにするものであるし、音質においてもTCB盤より数段優れているので、より感慨に浸れること請け合いである。ときにこのセッションのパーソネルをあらためて記すと、以下のとおり。ペッパー・アダムス(bs)、ドナルド・バード(tp)、ハービー・ハンコック(p)、レイモン・ジャクソン(b)、ジミー・コブ(ds)といったクインテットである。ジャクソンは当時のレギュラー・ベーシスト、コブは当時マイルス・デイヴィス・クインテットのドラマーだった。

グランドピアノとペンギン

 それでは『アウト・オブ・ディス・ワールド』に針を落とし、暑さをしのぐとしよう。アルバム・オープナーは、ハロルド・アーレン作曲、ジョニー・マーサー作詞によるラヴ・ソング「アウト・オブ・ディス・ワールド」だ。ジョン・コルトレーンの熱っぽいプレイをはじめ、多くのミュージシャンの演奏が存在する。昔は「浮世はなれて」というセンスのない邦題が付けられていたけれど、ここでのピアノとベースとによるブルージーなリフがフェードインしてくるところなどはまさにそんな感じだ。トランペットの艶やかなフロウが加わり、よりミスティカルな深みというか幽玄の美のようなものを感じさせる。それに対し、ラテンから躍動感のある4ビートへ移行するドラムスと、ソリッドな質感のエッジの効いたソロを展開するバリトンは、リアリスティックだ。

 

 この曲はあたかも虚構と現実とを往来するような気分にさせるものがあるのだけれど、そんなちょっと云い知れぬムードが涼感を誘うのである。ハンコックのブロック・コードとシングル・トーンとを使い分けたモーダルなソロも、はかり知れない美しさを放つ。つづくバードのオリジナル「クーロス」では、打って変わってクインテットならではのメロディアスでパッショネートなハード・バップが繰り広げられる。バードのエレガントな佇まいと、ペッパーのエナジェティックな振る舞いとのコントラストが、トータル・サウンドをクールでスタイリッシュなものにしている。ハンコックもバッパー然とした、親しみやすいフレーズを綴っている。その点、本作においてはもっともこの曲から、このクインテットが描き出す本来の風景が見えてくる。

 

 A面のラストは、前述のナット・キング・コールのレパートリー「イッツ・ア・ビューティフル・イヴニング」である。バードがリードをとるワンホーンによるバラード演奏。バードはなんのてらいもなく、温もりのあるトーンで美しい旋律を奏でる。アドリブ・パートもない。終始フェイクせずにこころの底から歌い上げるようなバードの演奏が、ぼくは大好きだ。ハンコックのバッキングとソロも、見事に寛いだ時間を演出している。またピアノに被るアルペジオは、ヴィブラフォンによるもの。正式なクレジットはないが、ライナーにはジンクス・ジングルスが演奏しているとの記述がある。実はジングルスは、プロデューサーを務めたテディ・チャールズの別名なのだ。このエフェクトによる海の底をゆらゆら漂うような感じが、なんとも心地いい。

 

 B面はヘンリー・マンシーニによるテレビドラマのテーマ曲「ミスター・ラッキー」からスタート。バード、アダムス、ハンコックとソロがつながれていくが、3人ともどちらかというと、控え目なアプローチで的確なイディオムを並べていくようなプレイに終始している。ジャクソンとコブとによる安定感のあるバッキングも、軽快でウマ味がある。その点では次曲のバードのオリジナル「バード・ハウス」にもおなじことが云えるのだけれど、テンポがミディアムに落とされている分さらにリラックス度が増す。こういう落ち着いたスウィング感は、洗練された印象を与えながら爽やかで涼しい空気を作り出す。なにも熾烈を極めたプレイだけがジャズではないと、あらためて感じさせる好ましい演奏だ。

 

 ラストを飾るのは、ビリー・ストレイホーンデューク・エリントンジョン・ラトゥーシェによる共作「デイ・ドリーム」だ。こちらはアダムスがリードをとるワンホーンによるバラード演奏。アダムスはぼくにとってジェリー・マリガンと並んで好きなバリトン奏者だけれど、マリガンのジェントルな吹きかたに対してアダムスの魅力といえばワイルドなブロウだ。しかしここでのアダムスは、余裕をもってメロディアスなフレーズを連綿と繰り出していく。ブルージーだけれどスムースで優しい──そんな感じが、得も云われぬ清涼感を生んでいる。ハンコックのモーダルでセンシティヴなソロも相まって、さっぱりとした気持ちのいい余韻を残す。これがあれば、蒸し暑い夏も快適に過ごすことができる。本作は、そんな1枚である。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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