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	<title>Mark Isham | 気ままに音楽生活</title>
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	<description>いささか気ままに──ではありますが　素敵な音楽をご紹介してまいりますので　どうぞよろしくお願いいたします</description>
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	<title>Mark Isham | 気ままに音楽生活</title>
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	<item>
		<title>Mark Isham / Quiz Show From The Original Motion Picture Soundtrack (1994年)</title>
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		<pubDate>Sun, 22 Feb 2026 06:36:35 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[Soundtrack]]></category>
		<category><![CDATA[Mark Isham]]></category>
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					<description><![CDATA[ロバート・レッドフォードの監督、マーク・アイシャムの音楽で送る、テレビ番組のスキャンダルが描かれた社会派サスペンス『クイズ・ショウ』のサウンドトラック・アルバム]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<h2><span id="toc1">ロバート・レッドフォードの監督、マーク・アイシャムの音楽で送る、テレビ番組のスキャンダルが描かれた社会派サスペンス『クイズ・ショウ』のサウンドトラック・アルバム</span></h2>

<div class="wp-block-cocoon-blocks-label-box-1 label-box block-box has-border-color has-ex-a-border-color">
<div class="label-box-label block-box-label box-label"><span class="label-box-label-text block-box-label-text box-label-text">recommendation</span></div>
<div class="label-box-content block-box-content box-content">
<p class="wp-block-paragraph"><img decoding="async" class="wp-image-703 alignleft" style="margin-bottom: 0px;" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png" alt="" width="101" height="92" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-300x274.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records.png 640w" sizes="(max-width: 101px) 100vw, 101px" /><em>Album : Mark Isham / Quiz Show From The Original Motion Picture Soundtrack (1994)</em></p>
<p style="text-align: right;"><em>Today&#8217;s Tune : Your Secret&#8217;s Safe With Me</em></p>
</div>
</div>

  <div id="toc" class="toc tnt-disc toc-center tnt-disc border-element"><input type="checkbox" class="toc-checkbox" id="toc-checkbox-2" checked><label class="toc-title" for="toc-checkbox-2">目次</label>
    <div class="toc-content">
    <ol class="toc-list open"><li><a href="#toc1" tabindex="0">ロバート・レッドフォードの監督、マーク・アイシャムの音楽で送る、テレビ番組のスキャンダルが描かれた社会派サスペンス『クイズ・ショウ』のサウンドトラック・アルバム</a><ol><li><a href="#toc2" tabindex="0">あのジャズ・スタンダーズが象徴的に使用された重厚な人間ドラマ</a></li><li><a href="#toc3" tabindex="0">ジャズとクラッシックとの両ジャンルにまたがってスコアを書く音楽家</a></li><li><a href="#toc4" tabindex="0">クァルテット、ビッグ・バンド、オーケストラと、３つのスタイルで録音</a></li></ol></li></ol>
    </div>
  </div>

<h3><span id="toc2">あのジャズ・スタンダーズが象徴的に使用された重厚な人間ドラマ</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ジャズ・スタンダーズのなかに「モリタート」という有名な曲がある。ジャズ・ファンだったら真っ先に思い浮かべるのは、テナー奏者、<strong>ソニー・ロリンズ</strong>のアルバム『<em>サキソフォン・コロッサス</em>』(1956年)の収録曲であるということ。ロリンズらしく明るくて温かみのある演奏は、何度聴いても気持ちがいい。個人的には、サイドメンを務めた<strong>トミー・フラナガン</strong>のピアノ・プレイに影響を受けた。この曲は多くのジャズ・プレイヤー、ことにシンガーに採り上げられているけれど、もともとは1928年初演のミュージカル『三文オペラ』の劇中歌。ドイツの劇作家、<strong>ベルトルト・ブレヒト</strong>が戯曲を書き、やはりドイツの作曲家である<strong>クルト・ヴァイル</strong>が音楽を手がけた。この劇中歌、当初は「メッキー・メッサーのモリタート」というタイトルだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　原曲のドイツ語の歌詞はブレヒトが書いたものだったが、1954年のニューヨーク公演の際、アメリカの作曲家、<strong>マーク・ブリッツスタイン</strong>が英語詞を付して「マック・ザ・ナイフ」というタイトルで知られるようになった。その昔「匕首マック」というスゴい邦題が付いていたけれど、匕首(あいくち)などと云われても、いまのひとにはなんのことやらさっぱりわからないだろう。要はツバのない短刀のことで、サメのような歯を真珠色に光らせているオトコ、マックはそれとおなじようなジャック・ナイフを忍ばせているヤツ──と歌われているところからきている。このミュージカルの主人公、マック・ザ・ナイフことメッキー・メッサーは貧民街の顔役、いわゆるギャングなのである。なおこのミュージカル、何度か映画化もされるほどの人気作である。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　この曲、すでにあの<strong>サッチモ</strong>こと<strong>ルイ・アームストロング</strong>が歌っていたのだが、大ヒットしたのは俳優でもあるシンガーの<strong>ボビー・ダーリン</strong>が歌ったとき。彼が1959年に発表したシングル「マック・ザ・ナイフ」は、ビルボード誌のホット100において10月５日からの９週間、第１位を記録するメガヒットとなった。当時のポップス・シーンにおいては、驚異的な記録と云える。 またダーリンは、翌1960年にこの曲でグラミー賞の最優秀レコード賞を獲得している。さらにダーリン版の「マック・ザ・ナイフ」は、1999年にグラミーの殿堂入りを果たしている。なおこの曲は、ダーリンのセカンド・アルバム『<em>ザッツ・オール</em>』(1959年)に、有名な「ビヨンド・ザ・シー」とともに収録されているので、ぜひ聴いていただきたい。</p>
<p><img fetchpriority="high" decoding="async" class="aligncenter wp-image-8818 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/quizshow1.png" alt="クイズ番組の回答者席" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/quizshow1.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/quizshow1-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　ところで、このボビー・ダーリンが歌った「マック・ザ・ナイフ」こと「モリタート」だが、ある映画のオープニングのシーンで使用されている。それは1950年代に実在したNBCの人気テレビ番組『21(トウェンティワン)』をめぐるスキャンダルが描かれた、社会派ドラマ『クイズ・ショウ』(1994年)という作品。<strong>ジョン F. ケネディ</strong>および<strong>リンドン・ジョンソン</strong>政権でスピーチライターや補佐官を務めた、アメリカの政治顧問で作家の<strong>リチャード N. グッドウィン</strong>の著書『60年代アメリカ衝撃の真実』(1988年)が映画化されたものだ。監督は俳優の<strong>ロバート・レッドフォード</strong>が務めた。レッドフォードが惜しまれくも89歳で、2025年９月16日の朝、ユタ州プロボ郊外の自宅において就寝中に死去したことは、まだ記憶に新しい。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ちなみに映画のなかで、原作者のグッドウィンは立法管理小委員会の捜査官、<strong>ディック・グッドウィン</strong>として描かれている。1991年から1993年まで３年連続でゴールデングローブ賞テレビドラマ部門最優秀男優賞にノミネートされたことで、当時熱い視線が注がれていた俳優、<strong>ロブ・モロー</strong>が演じた。むろん、<strong>ジョン・タトゥーロ</strong>演じる、テレビ番組の不正を告発する<strong>ハービー・ステンペル</strong>、そして<strong>レイフ・ファインズ</strong>演じる、自らが番組のやらせに加担したことを告白する元コロンビア大学の講師、<strong>チャールズ・ヴァン・ドーレン</strong>も、ともに実在の人物。クイズ・ショウ・スキャンダル(1956年 &#8211; 1959年)は、ケネディ暗殺事件(1963年)、ウォーターゲート事件（1972年 &#8211; 1974年）とともに、アメリカの20世紀後半における国民的な信頼の崩壊を招いた、重要な出来事なのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　この映画のメガホンをとったレッドフォードは、ハリウッド屈指の二枚目俳優として広く知られているけれど、その演技力も然ることながら製作人としても傑出した能力を発揮したひと。監督としては、自身の出演作で確立したイメージに依存することなく、この『クイズ・ショウ』もそうだが多くの場合、アメリカ社会の歪みや真実を批判精神をもって描き出していた。たとえば、監督としてのデビュー作であり、アカデミー作品賞および監督賞、ゴールデングローブ監督賞を受賞した『普通の人々』(1980年)では、アメリカのどこにでもある家庭の家族間の崩壊と再生、そして人間の内面的な葛藤を繊細に描いた。しかも一般的なハリウッド作品のような派手な演出はせず、物語の本質を誠実に伝えることに集中している。その控えめで静かなトーンには、ぼくも大いに感銘を受けた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ほかにも、環境破壊と開発をテーマとしたファンタジックな作品『ミラグロ/奇跡の地』(1988年)、古きよきアメリカの自然や家族の絆が叙情的に描かれた『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992年)、現代的な都会生活のストレスに対する癒しとこころの再生の物語『モンタナの風に抱かれて』(1998年)、政治とメディアの責任を問うリアルな現代ドラマ『大いなる陰謀』(2007年)といったレッドフォードの監督作品では、一貫して人間の尊厳や道徳、あるいは誠実さが追求されている。どれも観客を圧倒するような視覚的なインパクト、壮大なアクション、煌びやかな世界観とは無縁だが、観るものに静謐を湛えた深い感動と社会的な視点を与える。そういうレッドフォード監督作品の特徴は、彼の人間性の現れでもあるのだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ということで、この『クイズ・ショウ』もまた、いかにもレッドフォードの監督作品らしいメディアの功罪や正義、誠実さとはなにかを問いかける重厚な人間ドラマとなっている。むろん本作は、1950年代後半を舞台とするテレビ番組のやらせスキャンダルが描かれた実話ベースのサスペンスとしても、あるいは緊張感溢れる生放送のクイズ番組が再現された心理エンターテインメントとしても十分に楽しむことができる作品に仕上がっている。実話に基づいた物語は、人気テレビ番組『21』に出演する一般人で知識豊富なクイズ王、ステンペルを、番組側サイドが視聴率低下を理由に降板させようとするところからはじまる。番組のプロデューサーは、新たなクイズ王としてステンペルから見栄えのいい大学講師、ヴァン・ドーレンへ交代させるため、彼にクイズの解答を事前に教えようとする──。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc3">ジャズとクラッシックとの両ジャンルにまたがってスコアを書く音楽家</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　冷遇され憤慨したステンペルは番組の八百長を大陪審に告発するが、なぜか封印されてしまう。封印ということに疑問を覚えた、立法管理小委員会の捜査官、グッドウィンはテレビ局の不正を暴こうとニューヨークに向かう──。まあこれ以上ストーリーをお伝えするとネタバレにもなるので、この辺でやめておくことにするが、本作では視聴率のためなら嘘も厭わないテレビ業界の裏側、テレビの全盛期のアメリカ国民の異常な熱狂、そして不正が明るみに出る過程の緊迫感が、鋭いタッチでリアルに描写されている。情報量の多さから主に前半では作品世界に集中しにくい部分もあるが、レッドフォードの冴えた演出が功を奏し、最後まで観客を飽きさせない構成となっているので、未見のかたにはぜひともご覧いただきたい。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さて、ここでハナシを音楽に戻すが、映画の冒頭といえば、自動車の展示場でグッドウィンがクルマの仕様について販売員から説明を受けているシーン。やがて彼をコックピットに座らせるまでに至ったそのクルマとは、1958年型のクライスラー、すなわちピカピカの最新モデルだ。そして豪華な自動車は、当時のアメリカン・ドリームの象徴でもある。クライスラーのラジオからは、ソビエト連邦が開発した世界初の人工衛星スプートニク１号の打ち上げ成功を伝えるニュースが聞こえてくる。そしてグッドウィンがラジオのボタンを押し直すと、<strong>ボビー・ダーリン</strong>の歌う「マック・ザ・ナイフ」が流れ出す。それはあたかも、やがてアメリカの全国民が感じることになる、完璧だった日常の揺らぎから生まれる不安を、暗示するかのような場面だ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　よくよく考えてみると、公職に就くグッドウィンが、自分の給料では到底買えない高級車を眺めるというこのシーン、この映画のテーマを上手く表している。つまり一見物語に直接関係のないように思われるこの場面、実は名声や金銭の誘惑、そしてそれに関わる道徳的葛藤を、視覚的に提示したものなのである。そこにきて、<strong>ボビー・ダーリン</strong>の「マック・ザ・ナイフ」だ。ダーリンの小気味いい歌唱が牽引する軽快でスウィンギーなサウンドが流れるなか、ひきつづきスタジオの観客の歓声、カメラのフラッシュ、司会者の熱気、クイズ挑戦者の緊張の面持ちなどがダイナミックに展開されていく。そしてギャングのことを軽快に謳ったこの曲は、その時代の雰囲気を醸し出すものであるのと同時に、クイズ番組の不正という、裏にあるダークな要素を暗示するものでもあるのだ。</p>
<p><img decoding="async" class="aligncenter wp-image-8819 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/quizshow2.png" alt="クイズ番組の回答者席" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/quizshow2.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/quizshow2-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　ただし、このダーリンが歌った「マック・ザ・ナイフ」こと「モリタート」は、映画のサウンドトラック・アルバムには未収録なので、聴きたいかたは前述のアルバム『<em>ザッツ・オール</em>』を手にとっていただきたい。アトランティック・レコードのサブ・レーベルであるアトコ・レコードからリリースされたこのレコードは、もちろん日本でも発売されたしすでにCD化もされている。なお『クイズ・ショウ』のサントラ盤のほうには、<strong>ライル・ラヴェット</strong>が歌ったヴァージョンが収録されている。ラヴェットはオルタナティヴ・カントリー系のシンガーソングライターだが、俳優としても多くの映画作品に出演しているひと。特に<strong>ロバート・アルトマン</strong>の監督作品では常連となっており、顔を見たら「ああ、あのひとか」と思う向きも多いだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ラヴェット版の「モリタート」は映画のエンドクレジットで使用されているが、映画のために新たに吹き込まれたものだ。アレンジは映画のアンダースコアも手がけた作曲家、そしてトランペッターの<strong>マーク・アイシャム</strong>が担当。映画のエンディングに漂う、スキャンダルの真相が暴かれたあとの虚無感と皮肉とが交じり合った、ほろ苦く静かなムードをそのまま表現したアイシャムのアレンジが素晴らしい。オープニングで使用された<strong>ボビー・ダーリン</strong>の明るく軽快なヴァージョンとのコントラストが、より高まっている。こんなにビターな味わいの「モリタート」は、あとにもさきにもこのヴァージョンしかないのではなかろうか。終盤で華やかなテレビ業界の裏側に潜む人間の弱さと、組織の非情さが浮き彫りになるという、社会派映画らしい苦味のあるあと味にピッタリだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　それでは、ここからは映画『クイズ・ショウ』の音楽、サウンドトラック・アルバムについてお伝えしていこう。物語の背景になっている1950年代後半を音楽で描写するには、ダーリンの「マック・ザ・ナイフ」と同様に当時のヒット曲を並べるという方法もあっただろう。しかしながら監督のレッドフォードは、ほかの作品でしばしば見られるそんな常套手段を好まなかった。その代わり彼は、ビッグバンドやコンボによるスウィンギーかつモダンなジャズ・サウンド、そしてオーケストラによるシリアスあるいはリッチなクラシカルなスコアを採用した。もちろんオリジナル曲ばかりである。そして、そんなジャズとクラッシックとの両ジャンルにまたがってスコアを書く音楽家として、白羽の矢が立ったのが<strong>マーク・アイシャム</strong>である。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　このときアイシャムにとって、レッドフォードの監督作品の音楽を手がけるのは、はじめてのことではなかった。<strong>ノーマン・マクリーン</strong>の自伝的処女作『マクリーンの川』(1976年)を原作とした、まだ無名だった俳優の<strong>ブラッド・ピット</strong>の出世作でもある『リバー・ランズ・スルー・イット』のノスタルジックでちょっとセンチメンタルなスコアは、アイシャムによるもの。レッドフォードにとっては監督第３作に当たるが、アカデミー賞において撮影賞を獲得している。あのモンタナ州の雄大な自然とフライ・フィッシングの美しい描写において、古風ではあるが素朴で温かみのある音楽で彩りを添えていたのは、アイシャム。つまり『クイズ・ショウ』の音楽担当は彼にとって、レッドフォード監督作では２度目の登板だったのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　それまでのレッドフォードといえば、第１作『普通の人々』では<strong>マーヴィン・ハムリッシュ</strong>、第２作『ミラグロ/奇跡の地』では<strong>デイヴ・グルーシン</strong>と、過去に自分が俳優として主演を務めた映画の音楽を手がけた作曲家を起用している。ハムリッシュはレッドフォード主演の『追憶』(1973年)の音楽を担当、アカデミー作曲賞を獲得している。かたやグルーシンは『コンドル』(1975年)『出逢い』(1979年)『ハバナ』(1990年)と、レッドフォードが出演した３作品の音楽を手がけている。興味深いのは、いま挙げた都合４作品はすべて<strong>シドニー・ポラック</strong>がメガホンをとった映画であること。実はレッドフォードはポラックのことを、お互いの感性とリズム感を深く共有し合える、もっとも信頼できるコラボレーターと、高く評価していたのだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc4">クァルテット、ビッグ・バンド、オーケストラと、３つのスタイルで録音</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ポラックの映画といえば、社会的にはリベラル、政治的にはモデレート、そしてストーリーラインはとてもリアルだ。ラヴ・ストーリーを描いても甘口にはならないし、サスペンス・スリラーを取り扱っても過剰な演出はしない。この辺りは、レッドフォードの監督作品とも共通する。そしてポラックが厚い信頼を寄せていた作曲家といえば、ほかでもないグルーシンである。25年ほどつづいたふたりの名コラボレーションをあらためて振り返ると『ザ・ヤクザ』(1974年)『コンドル』(1975年)『ボビー・デアフィールド』(1977年)『出逢い』(1979年)『スクープ 悪意の不在』(1981年)『トッツィー』(1982年)『ハバナ』(1990年)『ザ・ファーム 法律事務所』(1993年)『ランダム・ハーツ』(1999年)と、９本を数える。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さらにポラックがメガホンをとらず製作総指揮を手がけた『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(1989年)でも、グルーシンが音楽を担当した。ハリウッドのコマーシャリズムとは一線を画すようなポラックの作風が、ぼくは大好きなのだが、グルーシンもまたハリウッドの伝統を汲みながら、ちょっとそこから逸脱するような多様性と革新性をもった音楽家。そういう点で、ポラックとグルーシンとの相性は抜群だった。そして『ミラグロ/奇跡の地』におけるレッドフォードとグルーシンとのコンビネーションも、また絶妙。物語の舞台となったニューメキシコの風土が反映されたグルーシンのスコアは、ラテン・ジャズやフォークロアのエッセンスが採り入れられた詩情豊かな美しいサウンドを極めていた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　なおグルーシンはこの映画で、アカデミー作曲賞を受賞、ゴールデングローブ賞の作曲部門にもノミネートされた。グルーシンは個人的にもっとも敬愛する音楽家なのだけれど、ぼくは当然のように『ミラグロ/奇跡の地』で見事栄冠に輝いた彼が『リバー・ランズ・スルー・イット』でも起用されるものと、勝手に思い込んでいた。でもフタを開けてみると、スコアを一任されたのはアイシャムだった。実はレッドフォードは、音楽が物語を説明し過ぎることを好まず、映像の邪魔をすることなく、それでいて情緒を深めるような、控えめなサウンドを求めていたのだ。むろんグルーシンの音楽も決して出しゃばるようなことはないが、彼は映画音楽の作曲家であると同時に、コンテンポラリー・ジャズ・シーンの押しも押されもせぬ人気アーティスト。そのサウンドは、すでに強い個性を放っていた。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-8820 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/quizshow3.png" alt="クイズ番組のステージ" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/quizshow3.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/quizshow3-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　その点、アイシャムは当時まだそれほど手垢のついていないアーティストだったし、シンプルさと繊細さをもってして物語の感情的な核心を支える能力に長けていた。彼は過去にトランペッターとして、ECMレコードにおいてパフォーマンス・アートのアンサンブル、ウィンダム・ヒル・レコードではニューエイジといった、どちらかというとフレキシブルな音楽をクリエイトしていた。また、ヴァージン・レコードからリリースされたアイシャムの２枚のオリジナル・アルバム『カスタリア』(1988年)『幻想秘夜』(1990年)では、彼のトランペットによってジャジーなフレーズがつぎつぎと繰り出されるいっぽうで、トータル・サウンドはアンビエント・ミュージックのようなムードとリズム・セクションのジャムアウトするプレイとが交錯するようなものだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　いずれにしても、アーティスティックなインスピレーションやリラクゼーションを喚起するような、ある種の音響芸術とも云うべきアイシャムの音楽作品は、その映画のアンダースコアに直結する。そんなアイシャムの抑制の効いた感情表現を好むレッドフォードは『リバー・ランズ・スルー・イット』以降も『クイズ・ショウ』をはじめ、前述の『大いなる陰謀』そしてリンカーン大統領暗殺事件を題材にした歴史映画『声をかくす人』(2010年)で、彼を起用した。その点ではレッドフォードの慧眼は、なかなかのもの。それまで金管楽器、シンセサイザー、そしてエレクトロニクスを巧みに操り、プログレッシヴ・ロック、ミニマル・ミュージック、あるいはアンビエント・ミュージックにカテゴライズされるようなオリジナル作品を発表してきたアイシャムを、映画音楽の作曲家として定着させたのだから──。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　アイシャムが映画業界に足を踏み入れたのは、1980年代の前半のことだけれど、その頭角を表したのは1990年代に入ってから。ここでアイシャムの手がけた映像作品を列挙することは控えるが、その数はテレビ番組も含めると200本以上に上るという。恥ずかしながらぼくは、最近まで60本程度かと思っていたのだが、それはまったくの勘違いだった。いずれにしてもアイシャムはいまや映画音楽の老練家であり、音楽家としての本領が発揮された作品といえば、やはりフィルム・スコアの数々だろう。いま振り返ると彼は、1980年代から2000年代にかけて、ぼくがもっとも多くの作品を聴いた映画音楽の作曲家でもあった。そしてこの『クイズ・ショウ』のサウンドトラック・アルバムは、間違いなく彼の代表作のひとつだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　アルバムのプロデュースはアイシャム自身が手がけており、楽曲のアレンジは彼自身と、トロンボーン奏者の<strong>ケン・クーグラー</strong>、そしてオーケストレーターの<strong>キム・シャーンバーグ</strong>とで分業している。アイシャムの作品では、お馴染みのチームワークだ。レコーディングは、<strong>マーク・アイシャム</strong>(tp)、<strong>デヴィッド・ゴールドブラット</strong>(p)、<strong>ジョン・クレイトン</strong>(b)、<strong>カート・ウォートマン</strong>(ds)といったクァルテット、20名からなるスウィンギーなビッグ・バンド、そしてクラシカルなオーケストラと３つのスタイルで行われた。オーケストラの編曲と指揮は、毎度のごとくクーグラーが担当している。CDアルバムは、現在ウォルト・ディズニー・カンパニーの傘下にあるハリウッド・レコードがリリース。日本での販売権は当時、ポニーキャニオンが所有していた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　アルバムは前述のラヴェット版「モリタート」からスタート。クールでアーバンな響きが琴線に触れる。つづく「世界一の賢者」は、ビッグ・バンドによる煌びやかなサウンドが爽快。<strong>コンテ・カンドリ</strong>のトランペットと<strong>ピート・クリストリーブ</strong>のテナーとが、小気味いいソロをとる。クァルテットによる「オーバーサイト・ブルース」では、アイシャムのミュート・トランペットとゴールドブラットのピアノとが、ブルージーなムードを高める。ビッグ・バンドによる「敗者」は、スウィンギーだがややダークな雰囲気。やはりカンドリとクリストリーブとがフィーチュアされる。ソロ・ピアノによる「秘密を守って」は、ゴールドブラッドの美しく切ない語り口が極上。アイシャムの右腕である彼は、個人的にも贔屓のピアニストである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ビッグ・バンドによる「ハンティング・イン・ユア・アンダーウェア」では、やはりカンドリとクリストリーブとがフロントに立つ。ジャジーだがちょっとシニカルな感じなのが映像的。以下はオーケストラによる演奏がつづくが、内省的な「ショルダーズ・オブ・ライフ」では、短尺ながらアイシャムが美しいトランペット演奏を披露する。その後、エレガントな「ブックス・アンド・ラーニング」ピリピリした空気が漂う「人生におけるチャンス」より張り詰めたムードの「委員会の呼び出し」不安定な響きを醸し出す「偽りの言葉」とつづいていく。後半の３曲では、アイシャムがフィーチュアされる。さらにシリアスで重厚な「テレビの試練」やるせなさに溢れた「全ての代償」とつづき、アルバムは締めくくられる。アイシャムによるトランペットが人間の悲哀を表現しながらも、ほのかな爽やかさを残すところは感動的。さすがである。</p>
<p>&nbsp;</p>
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<p class="wp-block-paragraph">最後まで読んでいただき、ありがとうございました。</p>
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		<title>Mark Isham / Little Man Tate (1991年)</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kimama]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 16 Jun 2024 06:43:27 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[Soundtrack]]></category>
		<category><![CDATA[Mark Isham]]></category>
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					<description><![CDATA[アメリカ映画協会から1980年代の３大作曲家のひとりに選ばれたマーク・アイシャムの貴重なサントラ盤『リトルマン・テイト』]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<h2><span id="toc1">アメリカ映画協会から1980年代の３大作曲家のひとりに選ばれたマーク・アイシャムの貴重なサントラ盤『リトルマン・テイト』</span></h2>

<div class="wp-block-cocoon-blocks-label-box-1 label-box block-box has-border-color has-ex-a-border-color">
<div class="label-box-label block-box-label box-label"><span class="label-box-label-text block-box-label-text box-label-text">recommendation</span></div>
<div class="label-box-content block-box-content box-content">
<p class="wp-block-paragraph"><img loading="lazy" decoding="async" class="wp-image-703 alignleft" style="margin-bottom: 0px;" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png" alt="" width="101" height="92" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-300x274.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records.png 640w" sizes="(max-width: 101px) 100vw, 101px" /><em>Album : Mark Isham / Little Man Tate (1991)</em></p>
<p style="text-align: right;"><em>Today&#8217;s Tune : Little Man Lost</em></p>
</div>
</div>


  <div id="toc" class="toc tnt-disc toc-center tnt-disc border-element"><input type="checkbox" class="toc-checkbox" id="toc-checkbox-4" checked><label class="toc-title" for="toc-checkbox-4">目次</label>
    <div class="toc-content">
    <ol class="toc-list open"><li><a href="#toc1" tabindex="0">アメリカ映画協会から1980年代の３大作曲家のひとりに選ばれたマーク・アイシャムの貴重なサントラ盤『リトルマン・テイト』</a><ol><li><a href="#toc2" tabindex="0">出会いはECMレコードのピュアでアブストラクトなアンサンブル作品</a></li><li><a href="#toc3" tabindex="0">なかにはエレクトリック・ジャズへの関心が顕著に現れた作品もある</a></li><li><a href="#toc4" tabindex="0">スモール・コンボによるスウィンギーなセッションが中心のサントラ盤</a></li></ol></li></ol>
    </div>
  </div>

<h3><span id="toc2">出会いはECMレコードのピュアでアブストラクトなアンサンブル作品</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　おそらくトランペット奏者の<strong>マーク・アイシャム</strong>が、映画業界に足を踏み入れたのは1980年代の前半のことだろう。彼のリーダー作のなかに『<em>フィルム・ミュージック</em>』(1985年)というアルバムがある。アイシャムにとっては、ウィンダム・ヒル・レコードにおける２作目に当たる。このアルバムには、<strong>ダイアン・キートン</strong>と<strong>メル・ギブソン</strong>の共演作『燃えつきるまで』(1984年)、ドキュメンタリー作品『ハーヴェイ・ミルク』(1984年)、オオカミの生態が描かれた『ネバー・クライ・ウルフ』(1983年)といった、３本の映画のために彼が書いた楽曲が収録されている。どの映画もマイナーな作品であるが故、サントラ盤はリリースされなかった。それなら、自分のアルバムとして出してしまおう──ということだったのだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　シンセサイザーが駆使された独創的で詩情豊かな楽曲の数々は、確かに埋もれさせるには惜しい。特に『燃えつきるまで』の楽曲は、その後のアイシャムの映画音楽の特徴とも云える、繊細な心理描写が巧みなトラックが集中している。その熱いメロディック・ラインと美しいサウンドスケープに、甚だこころを揺さぶられる。と同時に、彼が奔放なイマジネーションをもつ音楽家であることが、ひしひしと感じられる。そのサウンドには独特の存在感があるのだけれど、コマーシャリズムとはまったく無縁のものであるが故に、当初は耳目を集めることはなかった。そんなアイシャムもいまや、現在まで57本の作品を手がけるほどの、映画音楽の老練家となっている。ただ彼の音楽はいまもって、決して華美な様相を呈することはない。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　アイシャムの音楽家としての本領が発揮されたのは、やはりフィルム・スコアにおいてだろう。しかし、彼は当初からハリウッドを目指していたわけではない。むしろアイシャムは、ミュージシャンとしてのスターティング・ポイントにおいて、エンターテインメント・ビジネスからはもっともかけ離れたサウンド・クリエイターだったと云える。あれは、７年ほどまえのこと──。ソニー・ミュージックエンタテインメントは、その１年まえから“クロスオーヴァー＆フュージョン1000”と銘打った、CD復刻のプロジェクトを推進していた。同社が原盤権を所有するカタログから厳選されたアルバムには、名盤の誉れ高き作品はもちろんのこと、ファン垂涎のレア・アイテムも含まれていた。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-5414 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/06/cinematrumpet.png" alt="映画館のスクリーンに映るトランペット" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/06/cinematrumpet.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/06/cinematrumpet-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　そのなかに、世界初のCD化となる『<em>グループ 87</em>』(1980年)という作品があった。いまも一部から熱烈な支持を得る知るひとぞ知る幻のユニット、<strong>グループ 87</strong>のファースト・アルバムである。このユニットは、３人のメンバーで構成されている。その顔ぶれといえば、<strong>パトリック・オハーン</strong>(b)、<strong>ピーター・マウニュ</strong>(g, synth, vln)、そして<strong>マーク・アイシャム</strong>(tp,synth)。オハーンは、<strong>フランク・ザッパ</strong>のツアー・バンドやニュー・ウェイヴ系のバンド、<strong>ミッシング・パーソンズ</strong>で活躍したひと。マウニュは西海岸のフュージョン・バンド、<strong>L.A.エクスプレス</strong>のメンバーだった。なおサポーターとして、やはり<strong>ミッシ</strong><strong>ング・パーソンズ</strong>の<strong>テリー・ボジオ</strong>(ds)も参加している。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そんなちょっとクセのある音楽集団である<strong>グループ 87</strong>が繰り広げるサウンドは、フュージョンというよりはプログレッシヴ・ロックに近い。ただこのユニットの演奏では、強力なロック・ビートにミニマル・ミュージックへのアプローチが絡んできたりする。それをロックと現代音楽の融合というふうに捉えるのであれば、この一風変わった音楽はフュージョンと云えるのかもしれない。そして、そのサウンドに現代音楽の語法が散見されるのは、アイシャムの参加に依るところが大きいと思われる。しかしながら、このユニットは一般的にはあまり受け入れられず、セカンド・アルバム『<em>ア・キャリア・イン・ダダ・プロセッシング</em>』(1984年)を残して消滅した。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　もしもアイシャムを知るきっかけが、この『<em>グループ 87</em>』だったら、果たしてぼくは彼に興味をもっていただろうか。そう考えると、いささか自信がない。そそっかしく、このアルバムを単なるペダンティズムに富んだロック・バンドの作品と、聴き流してしまったかもしれない。幸いなことに、ぼくがアイシャムの名前に注目したのは、このアルバムのリリースより何年もあとのことだった。それは、ミュンヘンを本拠地とするECMレコードの１枚において──。ECMはジャズを主体とするレーベルだけれど、クラシック、現代音楽、ニューエイジ・ミュージック、ワールド・ミュージックなど、幅広いジャンルの音楽作品を世に送り出している。ぼくにとっては、なにか面白いことをやっている──という印象が強い。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そこで好奇心から手を出したアルバムが、偶然にもアイシャムの作品だった。ECMのメイン・スタジオであるノルウェーはオスロのレインボー・スタジオにおいてレコーディングが行われ、エンジニアも専属の<strong>ヤン・エイク・コングスハウク</strong>が務めた、まさにECMサウンドならではの美の典型が出来した１枚と云える。おなじみのスイスの写真家、<strong>クリスチャン・フォークト</strong>によるジャケット写真も美しい。この『ウィ・ビギン』(1987年)というアルバムは、アイシャムとニューヨーク出身のピアニスト、<strong>アート・ランディ</strong>とによるコラボレーション作品。ふたりは、金管楽器、シンセサイザー、ピアノ、打楽器を駆使し、ピュアでアブストラクトなアンサンブルを展開する。そのエレガントでリリカルな音世界が、リスナーのイマジネーションを刺激する。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc3">なかにはエレクトリック・ジャズへの関心が顕著に現れた作品もある</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　こういう特定のジャンルに収まり切らない音楽、特にアーティスティックなインスピレーションやリラクゼーションを喚起するような、ある種の音響芸術は、当時ひとくくりにニューエイジ・ミュージックと呼ばれていた。もともと自然回帰志向を打ち出していたウィンダム・ヒル・レコードは、1980年代にニューエイジ・ミュージックの代表的なレコード・レーベルとして認知された。日本でも大ヒットした<strong>ジョージ・ウィンストン</strong>のソロ・ピアノ作品『<em>オータム</em>』(1980年)をリリースしたのが、このレーベルだ。<strong>マーク・アイシャム</strong>もウィンダム・ヒルのアーティストとして1983年から1991年まで、前述の『<em>フィルム・ミュージック</em>』をはじめ計４枚のリーダー作を吹き込んでいるが、同レーベルにおいては異彩を放つ存在と感じられた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　アイシャムは、常に金管楽器、シンセサイザー、そしてエレクトロニクスを巧みに操り、リスナーに多様なイメージを与える。一聴アンビエント・ミュージックのような印象も受けるが、強烈なロック・ビートが刻まれるときもある。トランペットやフリューゲルホーンのフレージングには、ジャズを感じさせる瞬間もある。そのバックグラウンドは、ときにクラシカルであり、ときにミニマル・ミュージック的でもある。いずれにしても、アイシャムの音楽は聴くものの想像力をかきたてる。その点、映像作品との相性はいい。なおアイシャムには、やはり<strong>アート・ランディ</strong>と共演したECM盤『<em>ルビサ・パトロール</em>』(1976年)という作品がある。イマジナティヴな音世界は変わらないが、ややジャズ色が強い。彼のルーツが記録された貴重な吹き込みである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ECMではパフォーマンス・アートのアンサンブル、ウィンダム・ヒルではニューエイジといった、どちらかといえばフレキシブルな音楽をクリエイトしていたアイシャムだが、そのいっぽうで彼のジャズとエレクトリック・ミュージックへの関心が顕著に現れたアルバムもある。ヴァージン・レコードからリリースされた２枚のアルバム『<em>カスタリア</em>』(1988年)と『<em>幻想秘夜</em>』(1990年)では、アンビエント・ミュージックのようなムードとリズム・セクションのジャムアウトするプレイとが交錯するなか、アイシャムのトランペットはジャズのフィーリングが強く感じられるフレーズをつぎつぎと繰り出す。特に前者にはボジオ、オハーン、マウニュといった<strong>グループ 87</strong>の僚友も参加している。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-5415 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/06/cinemasynth.png" alt="映画館のスクリーンに映るシンセサイザー" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/06/cinemasynth.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/06/cinemasynth-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　ぼくは、どちらかといえば『<em>幻想秘夜</em>』が好きなのだけれど、このアルバムはアイシャムの音楽ならではの芸術性がしっかり引き立っていながら、これまでになく娯楽性が高くなっている。もしかすると、映画音楽の仕事の経験から、クリエイターとしての音楽言語が豊富になったのかもしれない。つまりエンターテインメントにおいても、巧妙なマナーを身につけたということである。たとえば、<strong>ナイアシン</strong>結成以前のオルガニスト、<strong>ジョン・ノヴェロ</strong>、当時<strong>チック・コリア・エレクトリック・バンド</strong>に在籍していたベーシスト、<strong>ジョン・パティトゥッチ</strong>、もと<strong>ウェザー・リポート</strong>のセッション・パーカッショニスト、<strong>アレックス・アクーニャ</strong>といった、フュージョン系のミュージシャンの参加は目新しい。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そこへもってきてこの作品で驚かされたのは、ヴォーカル・ナンバーが２曲も収録されているということ。こういう試みは、アイシャムのアルバムにおいて前例を見ない。しかもフィーチュアリング・ヴォーカリストが<strong>タニタ・ティカラム</strong>というのも、意外でもあり新鮮でもある。ティカラムは、ドイツのミュンスター出身でイギリスに活動の拠点を置く、ブリティッシュ・フォークの女性シンガーソングライター。デビュー作『<em>エンシェント・ハート</em>』(1988年)や、つづく『<em>スウィート・キーパー</em>』(1990年)がヒットした。彼女はここで、自作の「アイ・ネヴァー・ウィル・ノウ」と、<strong>ロジャース＆ハート</strong>の名曲「ブルー・ムーン」を歌っている。その歌唱のアイディリックでリラクシングな味わいが素晴らしく、アイシャムとの相性は抜群だ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さらにアイシャムは、コロムビア・レコードから『<em>ブルー・サン</em>』(1995年)と『<em>マイルス・リメンバード：サイレント・ウェイ・プロジェクト</em>』(1999年)という２枚のアルバムをリリースする。どちらも彼にとっては、かつてないほどジャズにアプローチした作品である。とはいっても一筋縄ではいかないのが、アイシャム。定石どおりのスウィンギーなモダン・ジャズをプレイすることはない。従来のエレクトロニクス・サウンドは影を潜めたが、彼がロック、アンビエント、あるいはニューエイジの経験を糧とした育て上げた、イマジナティヴな音世界は顕在する。たとえるなら、玲瓏と澄みわたる夜気のなかに、スモーキーなインプロヴィゼーションが浸透していくような感じだ。それには、当時流行しはじめたニュージャズに比肩するものがある。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ちなみに、この２枚のうち後者は、タイトルからわかるように<strong>マイルス・デイヴィス</strong>へのトリビュート作品。1996年、ロサンゼルスの有名ジャズ・クラブ、ベイクド・ポテトにおいてライヴ・レコーディングされたものだ。当時のアイシャムは度々、このクラブで気の置けないミュージシャンたちと、肩の力が抜けたギグを楽しんでいた。譜面やリハーサル抜きの生演奏をすることがバンドの趣旨だったため、メンバーのみながよく知るマイルスのナンバーが採り上げられたのだという。アイシャムが個人的にもち込んだポータブル・レコーダーで録音された音源は、ミキシングとマスタリングを経て世に送り出された。このとき、彼がエレクトリック・マイルスから影響を受けたことが明らかになり、ぼくは「なるほど！」そして「やはり！」と、同時に感じた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc4">スモール・コンボによるスウィンギーなセッションが中心のサントラ盤</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さてさて、ここからは映画音楽のはなし。ぼくは、これまで述べてきたECM、ウィンダム・ヒル、ヴァージン、そしてコロムビアにおける<strong>マーク・アイシャム</strong>の諸作と並行して、彼が音楽を手がけた映画のサウンドトラック・アルバムも聴いていた。いま振り返ると彼は、1980年代から2000年代にかけて、ぼくがもっとも多くの作品を聴いた映画音楽作家ということになる。それまではどちらかといえばヨーロッパの作曲家を好んでいたぼくにとって、アイシャムのようにハリウッドの伝統的なマナーからちょっと逸脱するような作曲家は大歓迎だった。実はぼくが所持する彼のサントラ盤のなかには、いまだ映画本編が未見のままとなっているものがいくつかある。つまりぼくは、純粋にアイシャムの音楽に対する興味から、それらを手にしていたのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　当時、タワーレコード渋谷店ではサントラ盤のコーナーが充実していて、ショーケースにはアイシャムのインデックスプレートもしっかり挿入されていた。そして、そこに陳列されたCDを、ぼくは無作為に買い漁っていたのだ。まあ、それだけアイシャムに夢中になっていたというわけだ。最初に手に入れたのは<strong>アラン・ルドルフ</strong>監督作品の『モダーンズ』(1988年)で、冒頭の流麗なメロディをもつ「モダーンズ」は大好きな曲。サロン・ミュージック風の編成が、モダンかつシックだ。こういうアイシャム・サウンドは、サントラならでは──。レコーディングには、<strong>グループ 87</strong>のオハーンとマウニュも参加している。エレクトロニクスが全開する、いかにもアイシャムらしい『ヒッチャー』(1986年)のサントラCDは、なぜかそれよりもあとに発売された。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　それはともかく次に手にしたのは、<strong>ジェレミー・アイアンズ</strong>と<strong>グレン・クローズ</strong>が共演した『運命の逆転』(1990年)だった。実話をもとにしたミステリー作品だが、これは先に映画を観ていた。ぼくは当初、迂闊にもこの劇伴がアイシャムが作曲したものと、まったく気づかなかった。というのも、それが彼のリーダー作とはかなりテイストを異にする、クラシカルな音楽だったからだ。これ以降フィルム・スコアにおけるアイシャムの相棒となる、トロンボーン奏者の<strong>ケン・クーグラー</strong>による重厚で格調の高いオーケストレーションが素晴らしい。クーグラーがアレンジと指揮を担当した作品には『タイムコップ』(1994年)や『ザ・インターネット』(1995年)のようなオケが鳴りまくるようなものもあるけれど、それらとも違う、弦の重奏が美しい伝統的な芸術音楽志向の作品だ。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-5416 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/06/childmama.png" alt="映画館のスクリーンに映る子どもと母親" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/06/childmama.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/06/childmama-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　ぼくには、むしろ『二十日鼠と人間』(1992年)『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992年)『ネル』(1994年)などのフォーキーな香りがふくいくと漂うスコアに、アイシャムが何者であるかの答えがあるように思われる。一聴で彼の作曲と判る、そして素直な気持ちで聴ける楽曲が並ぶ。なお、これらのオーケストレーションも、やはりクーグラーによる。いっぽう、アイシャムのもうひとつの側面といえば、ジャズ・プレイヤー。ジャジーなスコアとしては、実写とアニメの合成映画『クール・ワールド』(1992年)をはじめ『クイズ・ショウ』(1994年)や『ミセス・パーカー／ジャズエイジの華』(1994年)が挙げられる。ただこれらの作品では、(時代性など)作品の性質上ジャズが使われているといった感じだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ジャズ・サウンドが映像にドラマティックな色彩を与えている作品では、なんといっても<strong>ゲイリー・オールドマン</strong>と<strong>レナ・オリン</strong>が共演したサスペンス映画『蜘蛛女』(1993年)が傑出している。<strong>デヴィッド・ゴールドブラット</strong>(p)、<strong>チャック・ドマニコ</strong>(b)、<strong>カート・ウォートマン</strong>(ds)をバックに、アイシャムのクールなトランペットが、見事にフィルム・ノワールな世界を描き出している。さながら『死刑台のエレベーター』(1958年)の現代版といったムードが横溢する。とはいってもスコアの一部には、お得意のエレクトロニクスも飛び出す。なお、<strong>アビー・リンカーン</strong>と<strong>A.J. クラウチ</strong>のヴォーカル・ナンバーは、アイシャムとは関係ない既存の曲。アルバムとしての完成度は、非常に高いと思われる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　個人的には、アイシャムのジャズ演奏を堪能するのなら、<strong>ジョディ・フォスター</strong>監督、主演の『リトルマン・テイト』(1991年)をいちばんに推す。レコーディング・メンバーは、<strong>マーク・アイシャム</strong>(tp)、<strong>ケン・クーグラー</strong>(tb)、<strong>ボブ・シェパード</strong>(ts)、<strong>シド・ペイジ</strong>(vln)、<strong>デヴィッド・ゴールドブラット</strong>(p)、<strong>トム・ウォーリントン</strong>(b)、<strong>カート・ウォートマン</strong>(ds)と、実に贅沢である。ペイジは前述の『モダーンズ』でもフィーチュアされていた。ゴールドブラットはアイシャムのフィルム・スコアではおなじみのひとで『<em>ブルー・サン</em>』のピアニストも彼だ。ゴールドブラットのフュージョン作『<em>フェイシング・ノース</em>』(1996年)、ソロ・ピアノ作『<em>アワ・ソングス</em>』(2006年)は、ぼくの愛聴盤でもある。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　実はぼくは、ゴールドブラットのピアノ演奏が好きで、このサントラ盤をおすすめするのである。特にバラード「リトルマン・ロスト」でのインプロヴィゼーションは絶品。それ以外にも彼のセンシティヴな表現力が随所で光る。映画は驚異的なピアノの才能をもつ７歳の少年の物語だが、監督のフォスターもゴールドブラットの音づけを絶賛している。また本作では、エレクトロニクスやオーケストラは使用されておらず、スモール・コンボによるスウィンギーなセッションが中心となっている。アーバンなモダン・ジャズ作品として、各プレイヤーの演奏を味わうこともできる。独特の愁いを帯びた旋律のソロ・ピアノも印象的。いずれにしても、ニューヨークからサンフランシスコへと、長く幅広い音楽生活を送ってきたアイシャムだが、なぜかバップ作品がない。その点で本作は、非常に貴重でありマストハヴな１枚と云えよう。</p>
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