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	<title>Herbie Hancock | 気ままに音楽生活</title>
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	<description>いささか気ままに──ではありますが　素敵な音楽をご紹介してまいりますので　どうぞよろしくお願いいたします</description>
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	<title>Herbie Hancock | 気ままに音楽生活</title>
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		<title>Herbie Hancock / Death Wish Original Soundtrack Recording (1974年)</title>
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		<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 06:27:43 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[Soundtrack]]></category>
		<category><![CDATA[Herbie Hancock]]></category>
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					<description><![CDATA[ミュージック・シーンに新風を巻き起こしたハービー・ハンコックが手がけたグルーヴィーなサウンドトラック・アルバム『狼よさらば』]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<h2><span id="toc1">ミュージック・シーンに新風を巻き起こしたハービー・ハンコックが手がけたグルーヴィーなサウンドトラック・アルバム『狼よさらば』</span></h2>

<div class="wp-block-cocoon-blocks-label-box-1 label-box block-box has-border-color has-ex-a-border-color">
<div class="label-box-label block-box-label box-label"><span class="label-box-label-text block-box-label-text box-label-text">recommendation</span></div>
<div class="label-box-content block-box-content box-content">
<p class="wp-block-paragraph"><img decoding="async" class="wp-image-703 alignleft" style="margin-bottom: 0px;" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png" alt="" width="101" height="92" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-300x274.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records.png 640w" sizes="(max-width: 101px) 100vw, 101px" /><em>Album : Herbie Hancock / Death Wish Original Soundtrack Recording (1974)</em></p>
<p style="text-align: right;"><em>Today&#8217;s Tune : Joanna&#8217;s Theme</em></p>
</div>
</div>

  <div id="toc" class="toc tnt-disc toc-center tnt-disc border-element"><input type="checkbox" class="toc-checkbox" id="toc-checkbox-2" checked><label class="toc-title" for="toc-checkbox-2">目次</label>
    <div class="toc-content">
    <ol class="toc-list open"><li><a href="#toc1" tabindex="0">ミュージック・シーンに新風を巻き起こしたハービー・ハンコックが手がけたグルーヴィーなサウンドトラック・アルバム『狼よさらば』</a><ol><li><a href="#toc2" tabindex="0">ハンコックはジャズの範疇に収まり切らない音楽家</a></li><li><a href="#toc3" tabindex="0">あまり触れられる機会がないハンコックが手がけた映画音楽</a></li><li><a href="#toc4" tabindex="0">サントラ盤だがハンコックのアルバムとしても聴き応えのある１枚</a></li></ol></li></ol>
    </div>
  </div>

<h3><span id="toc2">ハンコックはジャズの範疇に収まり切らない音楽家</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ジャズ・ピアニストの<strong>ハービー・ハンコック</strong>が音楽を手がけた映画というと、<strong>ミケランジェロ・アントニオーニ</strong>監督の『欲望』(1966年)がすぐに思い出される。ハンコックにとってははじめてのフィルム・スコアだけれど、そのメイン・テーマとアンダースコアは、アーバンでソフィスティケーテッドでちょっとミステリアスなムードを漂わせる、ジャズ・サウンドで構成されている。当時<strong>ジェフ・ベック</strong>と<strong>ジミー・ペイジ</strong>という２大ギタリストが在籍していた<strong>ヤードバーズ</strong>による、破壊的なガレージ・ロック・ナンバーの収録も相まって、サウンドトラック・アルバムはスタイリッシュな作品としていまも非常に人気が高い。要は都会的なクールさが際立つモダン・ジャズと、エナジェティックなシックスティーズ・ロックとがミックスされた、おしゃれなレコードなのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そしてもう１本、ハンコックが音楽監督を務めた<strong>ベルトラン・タヴェルニエ</strong>の監督作品『ラウンド・ミッドナイト』(1986年)を忘れるわけにはいかないだろう。映画のタイトルはもちろん、独特のスタイルのバップ・ピアニスト、<strong>セロニアス・モンク</strong>が1943年に作曲した「ラウンド・ミッドナイト」に由来している。この曲は映画のなかでも使用されるが、ハンコックがアレンジしたものだ。映画は1950年代末のパリのジャズ・シーンとミュージシャンたちの友情が描かれたもので、テナー奏者の<strong>レスター・ヤング</strong>とピアニストの<strong>バド・パウエル</strong>とをモデルにした主人公を、やはりテナー奏者の<strong>デクスター・ゴードン</strong>が演じている。ゴードンは演技のほうもなかなかのもので、アカデミー主演男優賞にノミネートされた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　実はこの映画にはハンコックも出演していて、薬物依存に苦しむ主人公を支えるピアニスト兼バンド・リーダーを演じている。演技のほうはともかく、彼がアレンジしたジャズ・スタンダーズやオリジナル曲は魅力的だ。実際ハンコックはこの作品で、アカデミー作曲賞を受賞している。サウンドトラック・アルバムでは、主役のゴードンをはじめ、<strong>ウェイン・ショーター</strong>(ts)、<strong>フレディ・ハバード</strong>(tp)、<strong>ロン・カーター</strong>(b)、<strong>トニー・ウィリアムス</strong>(ds)、<strong>ビリー・ヒギンズ</strong>(ds)といった、ハンコック所縁の名ジャズ・プレイヤーたちの臨場感溢れるジャズ・セッションをじっくり味わうことができる。このサントラ、追加曲が収録されたゴードン名義のアルバム『<em>ラウンド・ミッドナイトの向こう側</em>』(1986年)と併せて、いまも高い人気を誇る。</p>
<p><img fetchpriority="high" decoding="async" class="aligncenter wp-image-8728 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/01/deathwish1.png" alt="グランドピアノのイラスト" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/01/deathwish1.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/01/deathwish1-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　ぼくは最初にハンコックのことを軽々しくジャズ・ピアニストと云ってしまったけれど、彼はジャズの範疇に収まり切る音楽家ではない。むろんジャズ・プレイヤーとしても超一流である。ハンコックは名門ブルーノート・レコードにおいて、押しも押されもせぬニュー・メインストリームのスター・アーティストだった。デビュー作『<em>テイキン・オフ</em>』(1962年)をはじめとする、７枚のリーダー作はどれも素晴らしい。また彼が1963年から1968年まで、<strong>マイルス・デイヴィス・クインテット</strong>のメンバーだったこと、1976年から1979年までは、同クインテットのメンバーだった<strong>ウェイン・ショーター</strong>(ss, ts)、<strong>ロン・カーター</strong>(b)、<strong>トニー・ウィリアムス</strong>(ds)に、<strong>フレディ・ハバード</strong>(tp)を加えた<strong>V.S.O.P.クインテット</strong>を率いたことは、ジャズ・ファンだったらだれもが知っている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そういったハード・バップやポスト・バップといったオーソドックスなジャズ作品と並行して、ハンコックは早い時期からエレクトリック・サウンドやエスノ・ミュージック、殊にアフリカのポリリズムを導入した作品を吹き込んでいた。ブルーノートからワーナー・ブラザース・レコードに移籍し、彼が最初に制作したアルバム『<em>ファット・アルバート・ロトゥンダ</em>』(1969年)が、その嚆矢となった。さらにコロムビア・レコードに移籍したあとに発表した『<em>ヘッド・ハンターズ</em>』(1973年)は、ハンコックのエレクトリック・ジャズ作品のなかでも代表的な１枚であると同時に、のちのジャズ・ファンクやフュージョンに多大な影響を与えた革新的なアルバム。ビルボード誌のジャズ・チャートで１位を獲得、総合アルバム・チャートでも20位内にランク入りした名盤である。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さらにハンコックはアルバム『<em>シークレッツ</em>』(1976年)において、ダンス・ミュージックへの傾倒の片鱗をのぞかせる。その後<strong>V.S.O.P.クインテット</strong>によるモダン・ジャズ・スタイルに集中するが、２年ぶりにエレクトリック作品を発表。それは、それまでのファンク路線が踏襲されながらも、ポップス、ディスコ、ラテン、それにジャズなど、様々な要素が織り交ぜられたフュージョン作『<em>サンライト</em>』(1978年)である。彼はこのアルバムで、人声を電子音に変換するシンセサイザー、ドイツのゼンハイザー社製アナログ・ヴォコーダーVSM-201を導入。アルバム中３曲でハンコック自身がこの楽器を使ってヴォーカルを披露している。おしなべて、フェンダー・ローズが主軸に据えられ、多種のシンセサイザーが肩肘張らずに使用されたサウンドは、従来以上に心地いいものだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　この『<em>サンライト</em>』以降ハンコックは、<strong>カルロス・サンタナ</strong>(g)、<strong>レイ・パーカー・ジュニア</strong>(g)、<strong>ロッド・テンパートン</strong>(key)、<strong>ビル・ラズウェル</strong>(b)といった、ジャズ以外のミュージシャンとのコラボレーションにより、自己のリーダー作にディスコからヒップ・ホップまで大胆に導入していく。特にベーシスト兼プロデューサーを務めたラズウェルの、実験的な音楽アイディアをもとに制作された『<em>フューチャー・ショック</em>』(1983年)では「ロック・イット」「フューチャー・ショック」といったヒップ・ホップにアプローチしたナンバーが大ヒット。<strong>グランドミキサー D.ST.</strong>によるDJスクラッチを採用したスタイルは、その後のクラブ・ミュージックの方向性を決定づけるものだった。スクラッチがフィーチュアされた「ロックイット」は、世界中で大ブレイクした。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　このポップ路線には、批判的なひとも多い。ジャズ以外の音楽に溶け込んでいくハンコックを、体色変化にたとえてカメレオンと揶揄する向きもあった。確かにオーソドックスなジャズ作品からエレックトリック・ジャズをはじめとするポップ・アルバムまで、彼の手がけた音楽作品の全体を俯瞰した場合、それらが一貫性に欠けるのは事実だろう。たとえば、ぼくの敬愛する<strong>ボブ・ジェームス</strong>や<strong>デイヴ・グルーシン</strong>などは、ジャズを演ってもフュージョンを演っても、いつも首尾一貫した音楽性が伝わってくる。それに対してハンコックの作品のなかには、もし情報を知らされずに楽曲を聴かされたら、だれが演奏しているのかわからないようなものもある。そういう事象が発生するのは、ハンコックが演奏能力はもちろんこと、対応力や適応力がきわめて高い音楽家だからだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc3">あまり触れられる機会がないハンコックが手がけた映画音楽</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　つまりハンコックは、オールラウンダーなのである。その点で彼は、個人的にはいまひとつのめり込むことのできない音楽家でもあるのだけれど、活動の幅を広げつづけるというその行きかたについては、ぼくも受け入れざるを得ない。音楽家はやりたいことをやればいい。きっとハンコックの音楽に対する好奇心は、とどまることを知らないのだろう。そんな彼は1990年代、現代のポピュラー・ソングをフレッシュなシャズ・ナンバーにアレンジしてプレイした『<em>ザ・ニュー・スタンダード</em>』(1996年)、そしてアメリカン・ミュージックの父とも称される作曲家、<strong>ジョージ・ガーシュウィン</strong>の生誕100周年を記念した『<em>ガーシュウィン・ワールド</em>』(1998年)といった、伝統的なジャズの愛好者を納得させるような作品も発表している。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さて、ここで映画音楽のハナシに戻るが、多様なジャンルに触れながら新しい価値を創造するような音楽的才能の持ち主であるハンコックのことだから、間違いなく映像作品の仕事にも強い関心を示しただろう。映画が無音の映像から総合芸術へと引き上げられる過程で、その一翼を担うのは音楽である。映像だけでは伝えきれない感情、心理、そして世界観を補完するだけでなく、物語を増幅させる重要な要素ともなる映画音楽に対して、新たなジャンルに積極的に挑戦する姿勢とマインドとを兼ね備えたハンコックが食指を動かされないはずがない。実際彼は1960年代後半から現在に至るまで、数多くの映画やテレビ番組の音楽を手がけている。ただ不思議なことに、さきに挙げた『欲望』や『ラウンド・ミッドナイト』以外については、あまり触れられる機会がないようだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ということで、ハンコックが音楽を手がけた映画を、ぼくの知る範囲でいくつか挙げてみる。まず<strong>アイヴァン・ディクソン</strong>監督の社会派アクション映画『ブラック・ミッション／反逆のエージェント』(1973年)だが、アフリカ系アメリカ人が客層として想定された1970年代前半から製作されるようになった映画、いわゆるブラックスプロイテーションの１本である。ちょうど『<em>ヘッド・ハンターズ</em>』が制作された時期と重なり、ハンコックによるスコアはエレクトロニックなサウンドとファンキーなリズムとが融合したジャズ・ファンクとなっている。サウンドトラック・アルバムは、彼のディスコグラフィのなかでも隠れた名盤と云われている。つづいて1980年代に飛ぶが、<strong>ノーマン・ジュイソン</strong>監督の人種差別がテーマに盛り込まれたミステリー映画『ソルジャー・ストーリー』(1984年)がある。</p>
<p><img decoding="async" class="aligncenter wp-image-8729 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/01/deathwish2.png" alt="ニューヨーク、マンハッタンの遠景" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/01/deathwish2.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/01/deathwish2-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　この『ソルジャー・ストーリー』が製作されたころのハンコックといえば、前述の「ロックイット」をヒットさせエレクトロ・ファンクに集中していた時代に当たる。だが映画のスコアではアコースティック・ピアノや管楽器を中心としたジャズ・サウンド、さらには濃厚なブルースやゴスペルにアプローチされており、そのブルージーでシリアスな音楽は緊迫した会話劇やサスペンスフルなムードを引き立てている。特定のジャンルやスタイルに固執しない、ハンコックならではの作品だ。その２年後、ハンコックは、<strong>デンゼル・ワシントン</strong>が荒廃した高校を立て直す熱血校長を演じた、<strong>エリック・ラニューヴィル</strong>監督の社会派ドラマ『ジョージ・マッケンナ物語 暴力教室に挑んだ男』(1986年)の音楽を担当する。こちらはシリアスな内容でも、1980年代を象徴するエレクトロニック・スコアが採用されている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　同年ハンコックは、伝説のコメディアン、<strong>リチャード・プライヤー</strong>が監督、製作、脚本、そして主演を務めた半自叙伝的映画『ジョ・ジョ・ダンサー』(1986年)の音楽も担当。前述の『ラウンド・ミッドナイト』を手がけた年でもあり、ハンコックのフィルム・ミュージック対する創作意欲が感じられる。ここでの彼は、お得意のファンク、ソウル、エレクトロニックな要素をふんだんに採り入れたサウンドを構築。コメディアンの映画ではあるが重厚でシリアスなドラマとなっている本作のアンダースコアは、アーバンでクール、そしてドラマティックで緊迫感のあるフュージョン・サウンドが基調となっている。その後もハンコックは映画音楽の仕事に取り組んでおり、1988年には２本の映画にスコアを提供している。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　具体的には、<strong>クレイグ R. バクスリー</strong>監督のアクション映画『アクション・ジャクソン/大都会最前線』(1988年)と、<strong>デニス・ホッパー</strong>監督の社会派警察ドラマ『カラーズ 天使の消えた街』(1988年)といった話題作。前者でハンコックは<strong>マイケル・ケイメン</strong>と共同でスコアを手がけているが、なかでもエレクトロニックなサウンド、シンセサイザーによるベース・ラインなどが特徴的な、緊迫感のあるジャズ・ファンク・ナンバーが特に印象に残る。また、後者でハンコックはヒップホップとエレクトロを大胆に採り入れており、ギャングの街のリアルな緊張感、当時のストリートの空気感を見事に表現している。思えば、映画音楽に当時最先端だったヒップホップ・ミュージックがいち早く採り入れられたのは、この作品においてだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ハンコックの銀幕への楽曲提供はまだつづく。<strong>エディ・マーフィ</strong>が主演、監督、脚本、製作総指揮のひとり４役をこなしたコメディ映画『ハーレム・ナイト』(1989年)のスコアは、ハンコックのペンによるものだ。この作品で彼は、1930年代の禁酒法時代のニューヨーク・ハーレムのムードを再現しながら、アンダースコアに現代的なテイストも加味している。かたやビッグバンドのサウンドを基調とした、華やかで力強いスウィンギーなナンバーで物語を牽引する。時代を映し出す「スウィングしなけりゃ意味ないね」「A列車で行こう」といった、<strong>デューク・エリントン楽団</strong>の往年の名曲をカヴァーしたりもしている。そのいっぽうで、クライム・サスペンス調のエレクトロニック・サウンドとオーケストラとを組み合わせた、こころもちダークな曲も書いている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　この『ハーレム・ナイト』の音楽制作などは、オーソドックスなジャズとエレクトリック・ジャズとの二足のワラジを履くハンコックに、もってこいの仕事だったように思われる。映画公開当初、サウンドトラック・アルバムはリリースされなかったが、2019年にスペインのマドリードに拠点を構える、サウンドトラック専門のインディペンデント・レーベル、クァルテット・レコードによってCDアルバムがリリースされた。この音盤にはハンコックによるスコアはもちろんのこと、前述の本編で使用された<strong>デューク・エリントン楽団</strong>や<strong>カウント・ベイシー楽団</strong>のジャズ・スタンダーズも、ボーナス・トラックとして収録されている。これを機に、ハンコックによる終始緊迫感に包まれるようなアンダースコアは、あらためて高く評価された。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc4">サントラ盤だがハンコックのアルバムとしても聴き応えのある１枚</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ハンコックが音楽を手がけた映画であまり知られていないのが、<strong>マイケル・シュルツ</strong>が監督したコメディ映画『リヴィン・ラージ/大金持ちになりたい！』(1991年)。アフリカ系アメリカ人のシュルツは低俗なコメディと社会性とを融合した作品で知られるユニークな監督だが、<strong>スパイク・リー</strong>や<strong>ジョン・シングルトン</strong>などの先駆け的存在で、ブラック・シネマの旗手と云える。ロサンゼルスの洗車場での１日が描かれたコメディ映画『カー・ウォッシュ』(1976年)、<strong>ザ・ビートルズ</strong>の有名なアルバム『<em>サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド</em>』(1967年)がベースとされたミュージカル『サージャント・ペッパー』(1978年)といった作品で知られる。後者のように失敗作も多いが、とにかく多作の映画監督である。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ときにハンコックは、この1990年代初頭のブラック・カルチャーを捉えた作品『リヴィン・ラージ/大金持ちになりたい！』では、スコアにやはり1990年代初頭のアーバンでグルーヴィーなファンク・スタイルやヒップホップ・サウンドを積極的に導入している。彼が得意とするシンセサイザーやプログラミングはもちろんのこと、<strong>ザ・ドン</strong>こと<strong>ドン・サンダース</strong>という若きMCによるラップも採用。この映画のスコアにおいてハンコックは、1980年代の大ヒット「ロックイット」以降のエレクトロ・ファンク路線をさらに進化させ、よりラップやヒップホップの文脈に近づいたと云える。本作はサウンドトラック・アルバムもリリースされているが、ハンコックによるトラックは１曲のみの収録となっており、どちらかというとアーバン・コンテンポラリーやファンク・ナンバーのコンピレーションといった感じだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ということで浅薄な知識で恐縮だが、ハンコックが音楽を手がけた映画をいくつか挙げてみた。おそらく彼が楽曲を提供した作品は、ほかにも多数あるだろう。しかしながら、ぼくは彼の熱狂的なファンというわけでもないので、この辺で切り上げておくほうがよさそうだ。そこでその代わりと云ってはなんだが、個人的にお薦めのハンコックのサウンドトラック・アルバムを１枚ご紹介しておこう。それは<strong>マイケル・ウィナー</strong>監督によるアクション・スリラー映画『狼よさらば』(1974年)のサントラ盤。<strong>チャールズ・ブロンソン</strong>が主演を務めたこの映画は、たいへんな好評を博しシリーズ化され、その後『ロサンゼルス』(1982年)『スーパー・マグナム』(1985年)『バトルガンM‐16』(1987年)『狼よさらば 地獄のリベンジャー』(1994年)といった続編が製作された。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-8730 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/01/deathwish3.png" alt="髭を生やした男のイラスト" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/01/deathwish3.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/01/deathwish3-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　ただし全５作のうち、無駄を削ぎ落とした簡潔な演出が際立つ英国出身のウィナーが監督を務めたのは最初の３本、ハンコックに至っては１作目のみの参加である。個人的には、映像にしても音楽にしても、もっともクオリティの高さとコンテンツの深さを誇るのはシリーズ第１弾『狼よさらば』であると、ぼくは思う。このサウンドトラック・アルバムは、全編にわたりハンコックの楽曲で埋め尽くされているが、大ヒットした『<em>ヘッド・ハンターズ</em>』をはじめとする彼のリーダー作と同様に、<strong>デヴィッド・ルービンソン</strong>がプロデューサーを務めたもの。ハンコックが当時所属していた、コロムビア・レコードからリリースされた。楽曲は飽くまで映像を補完するものとなっているが、音盤はハンコック自身のアルバムの系譜に連なる１枚としても楽しむことができる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　主要なレコーディング・メンバーは、<strong>ハービー・ハンコック</strong>(key)、<strong>ベニー・モウピン</strong>(ss, ts, bcl)、<strong>ワー・ワー・ワトソン</strong>(g)、<strong>ポール・ジャクソン</strong>(g) 、<strong>マイク・クラーク</strong>(ds) <strong>ビル・サマーズ</strong>(perc)といったお馴染みの顔ぶれ。ストリングスのアレンジとコンダクティングを、<strong>ジェリー・ピーターズ</strong>が担当。レコーディング・エンジニアは『<em>ヘッド・ハンターズ</em>』も手がけた<strong>フレッド・カテロ</strong>が務めている。吹き込みは1974年の春から夏にかけて、カリフォルニア州のバーバンク・スタジオ、ウェスタン・レコーダーズ(ロサンゼルス)、ウォーリー・ハイダー・スタジオ(サンフランシスコ)などで行われた。なおハンコックは、ピアノ、フェンダー・ローズ、ホーナー・クラヴィネット、アープ・オデッセイ、アープ・プロソロイスト、アープ 2600、アープ・ストリング・アンサンブルなどを演奏している。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　このサントラ盤には、面白いエピソードがある。この映画の撮影がはじまるまで、監督のウィナーはハンコックのことをまったく知らなかったという。当初、彼はほかのミュージシャンを検討していたが、スーパーのレジ係役で映画に出演した女優の<strong>ソニア・マンザーノ</strong>の熱烈な推薦から、ハンコックに関心を寄せた。マンザーノは、有名な子ども向けテレビ教育番組『セサミストリート』で、44年間マリア・ロドリゲスを演じたことで知られるが、ウィナー監督の当時の恋人とも云われている。それはともかく、監督は早速『<em>ヘッド・ハンターズ</em>』のレコードを手に入れ聴いてみたところ即座にこころを掴まれ、直接ハンコックに作曲依頼の電話をかけたという。かくしてハンコックは、シンセサイザーとオーケストラとを組み合わせた、機知に富んだスコアの構想を練ることとなった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ハンコックが『狼よさらば』の音楽制作において与えられた時間は、たったの６週間だったという。寝食を忘れてサウンドトラックを完成させることに没頭するハンコックだったが、最後の最後までもっとも重要な１曲を残していた。それはブロンソン演じる主人公が殺害された妻を思い出すという、哀惜の念に堪えないシーンでの音楽である。それは寂寥としたメロディと美しいコード進行をもった「ジョアンナのテーマ」という曲。この曲、映画本編ではサントラ盤に収録されているグルーヴィーなトラックとは異なり、シンプルかつアンビエントなアレンジで、しかもモティーフがいくつかに分けられて流される。ウィナー監督は完成した音源を聴いて涙を浮かべて感激したという。ハンコックはこの曲を、盟友<strong>ウェイン・ショーター</strong>とともに『<em>ネイティヴ・ダンサー</em>』(1975年)『<em>1+1</em>』(1997年)で再演しているが、ともに美しい。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　アルバムはジャズ・ファンク・ナンバー「狼よさらば(メイン・タイトル)」からスタート。反復するベース・ラインに乗って、ハンコックのローズによるソロが縦横無尽に展開される。重厚なブラスとワウ・ギターも効果的。ストリングスによる旋律が緊張感を与えるアーバンなナンバーだ。つづく「ジョアンナのテーマ」は、フィルム・ヴァージョンとは異なり、哀愁を漂わせながらもグルーヴィーなクロスオーヴァー風のサウンドが際立つ。ハンコックのファンキーなアコースティック・ピアノとシャープなストリングスとが爽快感をもたらす。サスペンスフルな「やっちまえ！」では、軽快なリズムと不穏な空気感とがクロス。さらにストリング・アンサンブルが緊迫した状況を演出する。不気味な「尻をぬれ！」では、オーケストラとシンセとがサイケデリックな世界を創り出す。ハンコックの実験精神が結実したトラックだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ピースフルな「豊かなる地」では、オーケストラによる異国情緒を感じさせる、どこか神秘的で温かみのある表現にこころが和まされる。９分半にも及ぶメドレー「復讐組曲」では、オケとシンセ、それにパーカッション類が活かされた、アヴァンギャルドなジャズが展開される。不協和音や複雑なリズムは、<strong>イーゴリ・ストラヴィンスキー</strong>からの影響。途中登場するドラムスの逆再生も面白い。さらに「オチョア・ノーズ」は、ポリリズムとテンション・コードが上手く使われた曲。先鋭的な重奏とハンコックの美しいピアノ演奏とが絡み合う。さらにその硬質なサウンドが引き継がれた「パーティの人々」では、美しいローズの音色が得も云われぬ虚無感を与える。ラストの「銃を持て！」では、モウピンのソプラノ、ハンコックのローズがソロをとる。リズム・セクションがカオス状態の６拍子ジャズ・ファンクだ。この曲などは特にそうだが、本作はハンコックのアルバムとしても聴き応えのある１枚である。</p>
<p>&nbsp;</p>
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<p class="wp-block-paragraph">最後まで読んでいただき、ありがとうございました。</p>
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		<title>Herbie Hancock / Sunlight (1978年)</title>
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		<pubDate>Sun, 07 Apr 2024 08:56:16 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[Fusion]]></category>
		<category><![CDATA[Herbie Hancock]]></category>
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					<description><![CDATA[ヴォコーダーを多用したハービー・ハンコックのポップなグルーヴ・アルバム『サンライト』]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<h2><span id="toc1">ヴォコーダーを多用したハービー・ハンコックのポップなグルーヴ・アルバム『サンライト』</span></h2>

<div class="wp-block-cocoon-blocks-label-box-1 label-box block-box has-border-color has-ex-a-border-color">
<div class="label-box-label block-box-label box-label"><span class="label-box-label-text block-box-label-text box-label-text">recommendation</span></div>
<div class="label-box-content block-box-content box-content">
<p class="wp-block-paragraph"><img loading="lazy" decoding="async" class="wp-image-703 alignleft" style="margin-bottom: 0px;" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png" alt="" width="101" height="92" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-300x274.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records.png 640w" sizes="(max-width: 101px) 100vw, 101px" /><em>Album : Herbie Hancock / Sunlight (1978)</em></p>
<p style="text-align: right;"><em>Today&#8217;s Tune : Come Running To Me</em></p>
</div>
</div>


  <div id="toc" class="toc tnt-disc toc-center tnt-disc border-element"><input type="checkbox" class="toc-checkbox" id="toc-checkbox-4" checked><label class="toc-title" for="toc-checkbox-4">目次</label>
    <div class="toc-content">
    <ol class="toc-list open"><li><a href="#toc1" tabindex="0">ヴォコーダーを多用したハービー・ハンコックのポップなグルーヴ・アルバム『サンライト』</a><ol><li><a href="#toc2" tabindex="0">気がつかぬうちに苦手意識を感じていた優等生のようなアーティスト</a></li><li><a href="#toc3" tabindex="0">「処女航海」のソングライティングと「スライ」のピアノ・プレイ</a></li><li><a href="#toc4" tabindex="0">ヴォコーダーとポップでグルーヴィーな新たなハンコック・サウンド</a></li></ol></li></ol>
    </div>
  </div>

<h3><span id="toc2">気がつかぬうちに苦手意識を感じていた優等生のようなアーティスト</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ぼくは、優等生が苦手だった。出し抜けに不躾な物言いで、申し訳ない。全国の品行、成績ともに優れた児童、生徒、学生のみなさん、そしてかつて優等生で現在ひとかどの人物として活躍されているかたがた、決して悪気はないので、どうか取るに足らないオッサンのたわ言と聞き流していただきたい。加えて純粋に音楽への興味からこの雑文を読んでくださっているみなさん、だんぜん冒頭から以下二三節ほど読み飛ばすことをお勧めする。なぜならしばらくの間、飽くまで私的な雑記にとどまるばかりで、みなさんにとって得るところはまったくないからである。ということで、ハナシをさきに進める。ぼくがなぜ優等生を苦手と感じるようになったのかといえば、はっきり覚えがある。記憶を辿ると、高校時代まで遡ることになる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ぼくが優等生が苦手だったのは、もとはといえば自分自身が劣等生だったからだ。高校時代のぼくは日々音楽に興じ、打ち込むのはピアノのレッスンばかり。残りの時間は、好きな本を読んでいるだけ。そんなヤツの学業成績が、良好であるわけがない。まだ小学生や中学生のころは、ピアノが弾ける男の子として尊敬の眼差しを向けられることもあった。だから勉強ができなくても、劣等感を抱くことはほとんどなかった。しかしながら高校生ともなると、健全な生徒であれば大学への進学を最優先事項に位置付けるもの。いくらピアノが上手く弾けても、ぼくのように出来のわるいヤツは単に落ちこぼれと見られるばかり。ぼく自身にも、たとえ<strong>ビル・エヴァンス</strong>を聴いて、<strong>太宰治</strong>を読んで、自分のなかに哲学みたいなものをもったりしても、結局は自分が価値のない人間のように思えるのだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そんな現状の自分が他者に比べて劣っていると主観的に感じながら、ぼくはどんどん内向的な高校生になっていった。ただ不思議なことに、成績優秀者がもてはやされるのをねたましく思うようなことはなかった。たぶん当時のぼくの興味や関心は、音楽や文学のなかに自分のアイデンティティを見つけることに向いていたのだろう。ぼくは自分の内面を重視するばかりで、外部のことをあまり気にかけなかったし、他者と積極的に接触するのもあまり好まなかった。いまから思えば、相当いやなヤツだったな──。そんなぼくにも、数学の模試で全国２位の成績を収めた経験がある。もちろん、まぐれだ。担任の女性教師にも笑いながらそう云われたが、情けないことに、このあまりにもウソみたいな出来事を自分でも笑ってしまった。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-4686 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/04/watermelonman.png" alt="スイカの顔をした西瓜売り ジャズ・ミュージシャンたち" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/04/watermelonman.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/04/watermelonman-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　ところがそれから間もなく、学年トップの男の子から声をかけられた。彼の名前は学校内に轟きわたっていたが、彼とぼくとはまったく面識がなかった。実はぼくの優等生に対する偏見が強くなったのは、この出来事がキッカケとなっている。彼はそれまでぼくのことなどつゆほども気にかけなかっただろうし、存在すら知らなかったと思われる。それなのに彼は、初対面のぼくに「ねえ、ぼくたち、友だちにならない？」と提言してきたのだ。そのときのぼくは、きっと鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたに違いない。もし彼のなかに同族意識があったのならば、それは大いなる勘違い。そもそも友だちになるのに、いちいち「友だちにならない？」と訊くものなのか？恐るべし、優等生。彼はそれを平然とやってのけたのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　おそらく優等生はなんでもできるから、自分なら誰とでも友だちになれると信じていたのだろう。自分が下した判断を一抹の疑いもなく正しいと思える、その自信に満ちたところはちょっと羨ましい。それでも人間とは、間違う生きもの。彼は自分の見込み違いに気がつくと、ぼくに二度と近づくことはなかった。それでいい──。ということで閑話休題、ここからは音楽のハナシをしよう。ぼくは常々<strong>ハービー・ハンコック</strong>という音楽家を、優等生のように感じている。上記の経験がコンプレックスとなっているからか、ぼくは優等生のようなハンコックに対して、自分でも気がつかぬうちに苦手意識をもってしまっていた。まあ、ハンコックほどの偉大な音楽家ともなると、これまでに散々語られただろうから、ここはひとつ彼のことを主観的に述べてみるとしよう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　<strong>ハービー・ハンコック</strong>というと、オールラウンドなアーティストというイメージが強い。単純にジャズ・ピアニストとは云えないところが、いささかやっかいではある。あれは中学生になったばかりのことだったと記憶するが、ぼくはブルーノート盤『<em>ウォーターメロン・マン</em>』(1962年/原題は『<em>Takin&#8217; Off</em>』)と、コロムビア盤『<em>ヘッド・ハンターズ</em>』(1973年)をほぼ同時期に体験した。それ以前に彼のピアノ演奏は、すでに<strong>マイルス・デイヴィス</strong>のアルバムで聴いていたのだが、ぼくにとっては強く印象に残るところはなかった。なにせそのころのぼくはといえば、マイルスの『<em>カインド・オブ・ブルー</em>』(1959年)を聴いて、モード・ジャズの響きに魅了され、すっかり<strong>ビル・エヴァンス</strong>のピアノ・プレイに心酔していたのだから。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ぼくは高校の卒業文集に、エヴァンスのピアノ演奏と出会って自分の人生が変わったと書いている。それに対してハンコックのピアノ演奏に巧妙さはあれど、人生を変えるほどの影響力はなかったように思う。それでも世間で大人気のハンコックのアルバムも聴いておかねばと購入したのが、さきの２枚のアルバム。はじめて『<em>ウォーターメロン・マン</em>』を聴いたとき、冒頭のジャジーな８ビートの表題曲にしても、２曲目以降のハード・バップ的な曲、あるいはバップの可能性を押し広げるような曲にしても、中学生のぼくにも率直に受け入れることができた。全６曲、すべてハンコックのオリジナルだ。ただピアノのアドリブはそつなくまとまっているように感じられたので、このひとは作曲やアレンジに長けた音楽家なのだろうと、当時のぼくは勝手に決めつけていた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc3">「処女航海」のソングライティングと「スライ」のピアノ・プレイ</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　かたや『<em>ヘッド・ハンターズ</em>』もまた、当時からあまねく音楽ファンに知られるレコードだった。オープナーの「カメレオン」は、一度聴いたら忘れられない名曲。ミニモーグによるベース・ラインは、あまりにも有名。ギタリストがいないので、ハンコックによるクラヴィネットがリズミカルなリフを刻む。<strong>ハーヴィー・メイソン</strong>のドラムスは歴史に残る名演。ハンコックのフェンダー・ローズによるダブル・クロマティック・アプローチが活かされたアドリブ・ソロ以外は、ジャズらしさは感じられない。これはディスコティークで重宝されるような、ファンク・ナンバーだ。前述の「ウォーターメロン・マン」も、ファンクにお色直しされている。全４曲、(共作を含む)すべてハンコックのオリジナルである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　このアルバムに収録されている「スライ」という曲で、ハンコックはすごいことになる。曲名は、当時サンフランシスコを本拠地として活動していたファンク・グループ、<strong>スライ&amp;ザ・ファミリー・ストーン</strong>のリーダー、<strong>スライ・ストーン</strong>にちなんだもの。なお『<em>ヘッド・ハンターズ</em>』も、サンフランシスコでレコーディングされた。これはあとから知ったのだが、ハンコックはスライの音楽に影響されて、自分なりのファンクを追求するようになったという。スタジオに入るまえにもレコーディング・メンバーにより、サンフランシスコ・ベイエリアの何箇所かのクラブでデモンストレーションが行われ、ライヴは大盛況のうちに終わった。そのせいかアルバムでは、よく練られた構成と息の合った演奏が際立つ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ところで「スライ」という曲だが、テーマ部ではゆったりしたテンポで、泥くささと洗練された雰囲気がほどよくブレンドされた、シンプルなメロディック・ラインが歌われる。ところがアドリブ・パートになると、ちょっとジャズ・ロック風になったあと、いきなり高速になり<strong>ベニー・モウピン</strong>のソプラノがワイルドでアーシーなソロを展開する。問題はそのあとのハンコック。メイソンのドラムスが打ち出す軽快かつ強烈な16ビートを中心にメンバー全員が一丸となって疾走するなか、ハンコックのローズが飛翔する。それもクールかつセオレティカルに。ターゲット・ノートを目指して半音階でアプローチしたり激しくアウトしたりする。そのサウンドからイメージされる心象風景といえば、たとえば火球が高層ビルの谷間を飛び巡るといったものである。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-4687 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/04/chameleon.png" alt="カメレオンとシンセサイザー" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/04/chameleon.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/04/chameleon-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　ぼくがハンコックがすごいピアニストであると実感したのは、まさにこの「スライ」においてだった。それと同時に、このときはハンコックがどのような音楽教育を受けたかはまったく知らなかったけれど、直感的に彼のことを芸術系の教育機関でオナーロールをもらうタイプと感じた。実際はちょっと違ったのだけれど、小学生のころからピアノ演奏は抜群に上手く、学業においても飛び級するほど優秀だったという。つまり優等生というわけだ。いずれにしても演奏技術や音楽理論、ことにスケールやコードに関しては、しっかり学び修得したことは間違いない。ぼくは「スライ」におけるハンコックのプレイから、彼が音楽の構造や手法を知り尽くしたひとと確信したのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　高校生になってからも、ぼくはハンコックの1960年代のブルーノートにおけるポスト・バップ作品と、1970年代のコロムビアにおけるエレクトリック・サウンドが導入されたジャズ・ファンク作品とを、並行して聴いていた。ところが彼のアルバムを聴いているときのぼくは、どうしたものかいつでも居住まいを正してしまう。そして、ハンコックの演奏に集中しているときの自分が、腰を据えて音楽を楽しんでいないことに気がつくのである。ときには逆に、なんとも不届きなことだが、ぼくは珠玉の作品群をBGMとして聴き流してしまうことさえあった。時代の先端を行くような楽曲のなかには大好きなものがたくさんあるのだが、なぜか彼の巧みなキーボード・ワークがエスカレートすればするほど、ぼくの気持ちは冷めてしまうのだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　それは云うまでもなく、ぼくのなかにある驚異的なピアノのテクニックに対する、まさに劣等複合と呼ぶべき感情が表面化したものにほかならない。なにせ当時のぼくはといえば、劣等感のかたまりへの階段を着実に上りはじめていたのだから──。ただ幸いなことにハンコックの作編曲に関しては、素直に受け入れることができた。むしろニュー・スタンダードとも称されるような新時代の名曲として、たいへん魅力的なものとして感じられた。さきに挙げた２枚のアルバムの幕開けの曲をはじめ「カンタロープ・アイランド」「ワン・フィンガー・スナップ」「スピーク・ライク・ア・チャイルド」「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」「テル・ミー・ア・ベッドタイム・ストーリー」「アクチュアル・プルーフ」「バタフライ」と、好きな曲を挙げれば切りがない。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　特にブルーノート・レコード第５作『<em>処女航海</em>』(1965年)は、どの曲もパーフェクト。統一的に“海”が基調とされたファンタスティックな楽曲たちは、おそらく意識的にだろうが、コードチェンジなどの従前のジャズの方式が使われておらず、ドラマティックな展開を見せるばかり。それが聴くものにフレッシュな感動を与えるという、実によく練られた作りとなっている。この点は、マイルスにも影響を与えた。全５曲、やはりすべてハンコックのオリジナル。なかでもタイトル・ナンバーの「処女航海」は、稀に見る傑作だ。オープンエンドなコード進行が、とにかく新しい。ハーモニーが着地点を定めずに循環しつづけるところは、それこそ大海原をあてどもなく彷徨する船のごとし。これはもはや、ジャズというカテゴリーに収まり切らない名曲と、ぼくには感じられた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc4">ヴォコーダーとポップでグルーヴィーな新たなハンコック・サウンド</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　またアルバムのラストに「ドルフィン・ダンス」というミディアム・スウィングの曲が収録されているが、この曲などはすっかりスタンダード化している。モティーフの展開と転調が上手く使われて書かれているが、これはぼくの好きなやりかたで、個人的には作曲法のお手本となった。ハンコック自身もお気に入りなのか『<em>デディケーション</em>』(1974年)や『<em>ハービー・ハンコック・トリオ WITH ロン・カーター＋トニー・ウイリアムス</em>』(1981年)などで、彼はこの曲を再演している(前者はソロ、後者はトリオ)。ぼくとしてはそれらのハンコックの演奏よりも、トリオだったら<strong>ビル・エヴァンス</strong>の『<em>アイ・ウィル・セイ・グッドバイ</em>』(1980年)収録版、コンボだったら<strong>グローヴァー・ワシントン・ジュニア</strong>の『<em>シークレット・プレイス</em>』(1976年)収録版のほうが好みだ。まあ、作者自身の吹き込みよりも優れたが演奏が存在するからこそ、その曲はスタンダードと呼ばれるのかもしれない。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　それはともかく、このアルバムのレコーディング・メンバーは、マイルスの俗に云うセカンド・グレイト・クインテットのそれと重なるわけだが、帝王が不在だからかいつもに比べてぐっとリラックスしたプレイを披露している。ハンコックも普段よりのびのびとピアノを弾いているように、当時のぼくには聴こえたもの。そんなユニークな趣向や着想が際立っているいっぽうで、どこか気安い雰囲気が漂っていたから、このアルバムにおいてはぼくも素直にハンコックの音楽を楽しむことができた。それでもやはり、その後の<strong>ヘッド・ハンターズ</strong>によるエレクトリックなファンク路線、ハンコックにしては珍しいピアノ・トリオ、マイルス時代を回顧するような<strong>V.S.O.P.クインテット</strong>と、ぼくはなにを聴いてもすごいと感じるばかりで、彼の演奏にのめり込むことはなかった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　とはいえ、ぼくがハンコックのアルバムを聴きつづけたのは、彼の創造する音世界(サウンドやソングライティング)に対しては、食指が動いたからだろう。それから間もなく、ハンコックから離れることを踏みとどまった甲斐あってか、ついに劣等感いっぱいのぼくでももろ手を上げて称賛したくなるような彼のアルバムと遭遇することができた。なぜこれを早く聴かなかったのだろう？ハンコックはダンス・ミュージックへの傾倒の片鱗をのぞかせた『<em>シークレッツ</em>』(1976年)をリリースしたあと、<strong>V.S.O.P.クインテット</strong>に集中していたが、２年ぶりにエレクトリック作品を発表。それは、それまでのファンク路線が踏襲されながらも、ポップス、ディスコ、ラテン、それにジャズなど、様々な要素が織り交ぜられたフュージョン作『<em>サンライト</em>』(1978年)である。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-4688 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/04/keyoards.png" alt="ショルダーキーボード キーボードを弾く女子学生たち" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/04/keyoards.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/04/keyoards-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　レコード・ジャケットのバックカヴァーにプリントされている写真には、マイクロモーグを弾くハンコックと、計11台のキーボードが写っている。一見仰々しい印象を受けるのだが、実際にシンセサイザーは飽くまでサウンドの色彩を豊かにするツールとしての使用にとどまっている。ハンコックはフェンダー・ローズを主軸に据え、シンセ類については肩肘張らずに使用しており、そのさらっとした味わいに好感がもてる。ただ、ここでは新たな小道具としてドイツのゼンハイザー社製アナログ・ヴォコーダーVSM-201が多用されている。ヴォコーダーとは、その名称がヴォイスとエンコーダーを合わせたものであることからもわかるように、簡単に云えば人声を電子音に変換するシンセ。全５曲、(共作を含む)すべてハンコックのオリジナルだが、最初の３曲で彼自身がこの楽器を使って歌っている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ポップでジャジーな「アイ・ソート・イット・ワズ・ユー」は、ハンコックにしては珍しくライトトーンの曲。リズムがタイトでダンサブルなところは、ブギー・クラシックとして重宝しそう。ハンコックのローズもファンキーでいいが、彼のペンによるブラス・セクションが効果的。優雅なミディアムテンポのフュージョン・ナンバー「カム・ランニング・トゥ・ミー」は、ホーンズとストリングスが彩りを添える爽快な曲。変化に富んだリズムとコード進行が巧妙で、いかにもハンコックらしい。ローズもほどよく跳ねる、隠れた名曲だ。バウンスするリズムが心地いい「サンライト」は、<strong>ベニー・モウピン</strong>のソプラノも登場するファンキー・チューン。ある意味で、もっともジャズらしくない曲だ。以上の３曲でハンコックのヴォーカルがフィーチュアされるが、アンサンブルにすっかり溶け込んでおり、どの曲もどちらかといえばインストゥルメンタルのような感覚で聴ける。ことにヴォコーダーをはじめとする電子音に、人間味溢れる温かさが感じられるのが素晴らしい。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　展開の妙で聴かせるような「ノー・ミーンズ・イエス」では、ハンコックのローズとそれに呼応する<strong>ハーヴィー・メイソン</strong>のドラムスによって熱いバトルが繰り広げられる。柔軟性に富んだリズム・セクションのみの演奏が、なんとも痛快だ。それに反して、<strong>ジャコ・パストリアス</strong>(b)と<strong>トニー・ウィリアムス</strong>(ds)が参加した「グッド・クエスチョン」は、ちょっと壮絶過ぎる。ハンコックもアコースティック・ピアノにもち替えて、どこまでも渾身のインプロヴィゼーションを押し広げていく。これは優等生である彼なりの、熱心なファンへのサービスなのだろう。しかしながらアルバムのポップな流れにおいては、まったく場違いなテイクと思われる。とはいってもそんな矛盾も、本作を1980年代のポップでグルーヴィーなハンコック・サウンドの前哨戦と観れば、許容範囲内ではある。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　本作以降ハンコックは、<strong>カルロス・サンタナ</strong>(g)、<strong>レイ・パーカー・ジュニア</strong>(g)、<strong>ロッド・テンパートン</strong>(key)、<strong>ビル・ラズウェル</strong>(b)といった、ジャズ以外のミュージシャンとのコラボレーションにより、自己のリーダー作にディスコからヒップ・ホップまで大胆に導入していく。このポップ路線には、批判的なひとも多い。ジャズ以外の音楽に溶け込んでいく彼を、体色変化にたとえてカメレオンと揶揄する向きもあった。でもぼくは、そんな彼については肯定派。音楽家はやりたいことをやればいい。きっとハンコックの音楽に対する好奇心は、とどまることを知らないのだろう。７歳からピアノを弾きはじめ、11歳にしてシカゴ交響楽団と共演し、大学で専攻を電気工学から音楽に変更する以前に、すでに独学でジャズ理論をマスターしていたハンコック。やはり、彼は優等生だ。しかしこんなぼくでも、優等生にシンパシーを感じる場合があるのである。ぼくにとって『<em>サンライト</em>』は、そんなアルバムだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
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