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	<title>Eumir Deodato | 気ままに音楽生活</title>
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	<description>いささか気ままに──ではありますが　素敵な音楽をご紹介してまいりますので　どうぞよろしくお願いいたします</description>
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	<title>Eumir Deodato | 気ままに音楽生活</title>
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	<item>
		<title>Eumir Deodato / Bossa Nova Original Motion Picture Soundtrack (2000年)</title>
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		<pubDate>Sun, 14 Jun 2026 08:16:30 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[Soundtrack]]></category>
		<category><![CDATA[Eumir Deodato]]></category>
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					<description><![CDATA[エウミール・デオダートのオリジナル・スコアとアントニオ・カルロス・ジョビンの既存の曲とで構成された本邦劇場未公開映画『愛のボサノバ』のサウンドトラック・アルバム]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<h2><span id="toc1">エウミール・デオダートのオリジナル・スコアとアントニオ・カルロス・ジョビンの既存の曲とで構成された本邦劇場未公開映画『愛のボサノバ』のサウンドトラック・アルバム</span></h2>

<div class="wp-block-cocoon-blocks-label-box-1 label-box block-box has-border-color has-ex-a-border-color">
<div class="label-box-label block-box-label box-label"><span class="label-box-label-text block-box-label-text box-label-text">recommendation</span></div>
<div class="label-box-content block-box-content box-content">
<p class="wp-block-paragraph"><img decoding="async" class="wp-image-703 alignleft" style="margin-bottom: 0px;" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png" alt="" width="101" height="92" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-300x274.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records.png 640w" sizes="(max-width: 101px) 100vw, 101px" /><em>Eumir Deodato / Bossa Nova Original Motion Picture Soundtrack (2000)</em></p>
<p style="text-align: right;"><em>Today&#8217;s Tune : Suddenly</em></p>
</div>
</div>

  <div id="toc" class="toc tnt-disc toc-center tnt-disc border-element"><input type="checkbox" class="toc-checkbox" id="toc-checkbox-2" checked><label class="toc-title" for="toc-checkbox-2">目次</label>
    <div class="toc-content">
    <ol class="toc-list open"><li><a href="#toc1" tabindex="0">エウミール・デオダートのオリジナル・スコアとアントニオ・カルロス・ジョビンの既存の曲とで構成された本邦劇場未公開映画『愛のボサノバ』のサウンドトラック・アルバム</a><ol><li><a href="#toc2" tabindex="0">ボサノヴァのコンピレーション・アルバムとしての機能を果たす１枚</a></li><li><a href="#toc3" tabindex="0">活動休止中のデオダートによるボサノヴァにフォーカスしたスコア</a></li><li><a href="#toc4" tabindex="0">当時ヴァーヴ・レコード期待の新星だったクラウディア・アクーニャも参加</a></li></ol></li></ol>
    </div>
  </div>

<h3><span id="toc2">ボサノヴァのコンピレーション・アルバムとしての機能を果たす１枚</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ついでと云ってはなんだが、<strong>エウミール・デオダート</strong>が音楽を手がけた映画のサウンドトラック・アルバムを１枚ご紹介しておこうと思う。前回はワーナー・ブラザース・レコードに所属していたころのデオダートのリーダー作『<em>ナイツ・オブ・ファンタジー</em>』(1979年)を採り上げた。クロスオーヴァー・サウンドとブラジリアン・テイストとが首尾よくディスコビートに載った、爽快なアルバムである。ところでその際、自室の棚にある彼のレコードやCDを片っ端から聴き直しているうちに、このサントラCDに行き当たった。恥ずかしながらぼく自身、その存在自体を失念していたのだが、これが存外、ボサノヴァのリズムとハーモニーが明るく爽やかな印象を与える、いかにも精神的に暑さをクールダウンさせるような内容で、この時季にピッタリな１枚だった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　このCD、<strong>ブルーノ・バレット</strong>監督、監督の当時の奥さまでもある<strong>エイミー・アーヴィング</strong>主演による『愛のボサノバ』(2000年)という映画のサウンドトラック・アルバムである。バレットはリオデジャネイロ出身の映画監督、アーヴィングはアメリカの女優で、あの<strong>スティーヴン・スピルバーグ</strong>監督のもとの奥さま。どうでもいいことだけれど、彼女はバレット監督とも2005年に離婚している。それはさておき、ぼくはこの映画をまだ観たことがない。日本では劇場未公開だが、過去にBSデジタル放送のスターチャンネルで放映されたことがある。ということで『愛のボサノバ』は、おそらく日本では知るひとぞ知る映画だから、そのサントラ盤を手にとるのは、ぼくのようにデオダートのファンくらいのものだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ちなみに『愛のボサノバ』は、ブラジルとアメリカとが合作したロマンティック・コメディ映画。リオデジャネイロを舞台に、英語教師のアメリカ人女性と弁護士のブラジル男性との恋模様が、ボサノヴァの音楽を背景に描かれたオシャレな作品。夫を亡くし、リオで英語教師をしているアメリカ人女性、メアリー・アン・シンプソン(<strong>エイミー・アーヴィング</strong>)は、周囲から新しい恋を勧められるものの、自分には縁がないと思っていた。生徒の中には、イギリスへの移住を控えたサッカー選手、アカシオ(<strong>アレクサンドル・ボージェス</strong>)や、ニューヨーク在住の芸術家、ゲイリーとのネット恋愛に夢中のテクノロジー好き、ナディーン(<strong>ドリカ・モラエス</strong>)などがいる。ある日、彼女の英語クラスに妻と別居中のハンサムなブラジル人弁護士、ペドロ・パウロ(<strong>アントニオ・ファグンデス</strong>)が入学してくる。</p>
<p><img fetchpriority="high" decoding="async" class="aligncenter wp-image-9277 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/bossanova1.png" alt="ボサノヴァをイメージしたブラジルの風景①" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/bossanova1.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/bossanova1-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　メアリー・アンとペドロは惹かれ合うがすれ違いがあったり、太極拳のインストラクターのもとへ去ったペドロの妻の存在などに翻弄されたりする。このふたりの恋の行方を軸に、映画はペドロの娘の恋、ナディーンとゲイリーとのインターネットを通じたロマンス、プレイボーイのアカシオの恋など、複数のキャラクターが交錯する群像劇となっている。ネタバレになるので詳しくは記さないが、メアリー・アンとペドロとの関係、自信過剰でメアリー・アンを口説いたりするアカシオと、ペドロの法律事務所で働く魅力的なインターン、シャロンとの関係、ナディーンとゲイリー(その正体は？)との関係が注目される。いずれにせよこの映画は、リオの美しい景色とボサノヴァの心地いい響きをバックに、様々な愛の形が描かれた軽快でビタースウィートな作品とのこと。と、これは飽くまでにわか知識である。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ところで、未見どころか海のものとも山のものともつかぬこの映画のサウンドトラック・アルバムを、ぼくが手にとった理由は、オリジナル・スコアを手がけているのが<strong>エウミール・デオダート</strong>であると知ったから。そしてさらに、このアルバムでは20世紀のブラジル音楽を代表する作曲家であり、ボサノヴァの先駆者でもある<strong>アントニオ・カルロス・ジョビン</strong>の楽曲がフィーチュアされていることが、ぼくの気分を高めた。なお映画の資料を見ると、音楽の担当者として<strong>リチャード・マルティネス</strong>がクレジットされている。彼はニューヨークを拠点に活躍する作曲家だが、数多くの映画音楽や舞台音楽を手がけている。おそらく『愛のボサノバ』ではアンダースコアを担当しているのだろうが、サウンドトラック・アルバムにマルティネスの楽曲は収録されていない。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　このサウンドトラック・アルバムはヴァーヴ・レコードからリリースされたのだが、アルバムのプロデューサーをバレット監督自身が勤めている。また、ミュージック・スーパーヴァイザーとして、アメリカの東西で活躍するコンポーザー、キーボーディスト、そしてプロデューサーの<strong>アラン・パランカー</strong>のクレジットが見てとれる。<strong>ボブ・ジェームス</strong>、<strong>イリアーヌ・イリアス</strong>、<strong>レニー・ホワイト</strong>などの作品でお馴染みのひとだ。パランカーは、デオダートが唯一アトランティック・レコードに残したリーダー・アルバム『<em>サムウェア・アウト・ゼア</em>』(1989年)や、それ以前に彼がワーナー・ブラザース・レコードに吹き込んだ『<em>ハッピー・アワー</em>』(1982年)などで、キーボードやプログラミングを担当した。そのことからも、この映画でデオダートが起用されたのは、パランカーの肝煎りと思われる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さらにこのCD盤における楽曲の選曲、編集、そしてランニング・オーダーを、ヴァーヴ・レコードの音楽プロデューサー、<strong>リチャード・サイデル</strong>と、当時ヴァーヴ・ミュージック・グループの社長兼CEOを務めていた<strong>ロン・ゴールドスタイン</strong>が手がけている。以上のことを勘案すると、このサウンドトラック・アルバムは、サントラ盤としてよりもむしろ、ボサノヴァのコンピレーション・アルバムとしての機能を果たす１枚と捉えることができる。そのいっぽうで、デオダートの吹き込みとしても、さきに挙げた『<em>サムウェア・アウト・ゼア</em>』以来リーダー作の制作が途絶えていた彼だけに、当時はきわめて貴重なものに思われた。ついでに云わせてもらうと、この『<em>サムウェア・アウト・ゼア</em>』は、完全なヴォーカル・アルバム。この作品では、従来の軽快なインストゥルメンタルを堪能することはできないのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　実のところデオダートは、プレイヤーとしては15年ほど活動を休止していたのである。彼が復活するのは2001年のことで、この年からコンサートを中心に徐々に演奏活動を広げていく。そんななか、2007年４月３日および４日にリオデジャネイロのセシリア・メイレレス・ホールで行われたコンサートの模様が、実況録音盤としてリリースされたときは、ぼくも小躍りしたもの。この<strong>エウミール・デオダート・トリオ</strong>名義の『<em>アオ・ヴィーヴォ・ノ・リオ</em>』(2007年)では、大ヒットした<strong>リヒャルト・シュトラウス</strong>の交響詩のパラフレーズ・ナンバー「ツァラトゥストラはかく語りき」をはじめ、クロスオーヴァー時代の名曲たちが見事に再演されていた。さらにデオダートは2008年８月、丸の内のライヴ・レストラン、コットンクラブにて来日公演を果たし、以降もときおり日本を訪れていた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc3">活動休止中のデオダートによるボサノヴァにフォーカスしたスコア</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　デオダートはその後、イタリアのバンド、<strong>ノヴェチェント</strong>のメンバー(ニコローシ一家)の全面協力を得て、久々のスタジオ・アルバム『<em>ザ・クロッシング</em>』(2010年)を制作した。洗練されたフェンダー・ローズの音色、心地いいブラジリアン・ビート、ディープなファンク・サウンドが交錯するメロウ・グルーヴが際立った、往年のクロスオーヴァー・シーンにおける巨匠の面目躍如たる１作である。シンガーの<strong>アル・ジャロウ</strong>、ギタリストの<strong>ジョン・トロペイ</strong>、ドラマーの<strong>ビリー・コブハム</strong>、パーカッショニストの<strong>アイルト・モレイラ</strong>といった、かつての僚友たちのアルバム参加にも驚かされた。ただこのアルバムは、どちらかというとCTIレコード時代の作品に代表されるクロスオーヴァー・サウンドへのオマージュと云える。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　それに対して『愛のボサノバ』のサウンドトラック・アルバムにおけるデオダートのスコアは、文字どおりボサノヴァにフォーカスしたものだ。前回もお伝えしたが、デオダートがスターダムにのし上がったのは、CTIレコードでハウス・アレンジャーとして働くようになってから。さきに挙げた、CTIレコードにおける彼の最初のリーダー・アルバム『<em>ツァラトゥストラはかく語りき</em>』(1973年)からシングルカットされた同名曲は、500万枚以上のセールスを上げた。しかしながら、その才能はそれよりもずっと以前に開花していたのである。デオダートは1967年にリオデジャネイロからニューヨークに移住したのだが、その時点ですでに、故郷のブラジルではコンポーザー、アレンジャー、キーボーディストとして、高い評価を得ていたのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　1942年6月22日、リオデジャネイロで生を受けたデオダートは、12歳でアコーディオンを手にする。14歳のときにピアノを弾きはじめると同時に、管弦楽法や指揮法を独学で習得。特にアレンジについては、<strong>ヘンリー・マンシーニ</strong>の作法を通信教育で学んだという。その影響はブラジル時代のデオダートのアルバムに、色濃く反映している。そんなデオダートは17歳にして、プロのアレンジャーとしてのキャリアをスタートさせる。1960年代の初頭に自己のバンドを結成。メンバーは、<strong>セルソ・ブランド</strong>(g)、<strong>セルジオ・バローゾ</strong>(b)、<strong>ジョアン・パルマ</strong>(ds)、<strong>ウーゴ・マロッタ</strong>(vib)、<strong>アンリ・アクセルルード</strong>(fl)といった、錚々たる顔ぶれで占められている。このバンドには、のちにボサノヴァのパイオニア、<strong>ホベルト・メネスカル</strong>もギタリストとして参加する。</p>
<p><img decoding="async" class="aligncenter wp-image-9278 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/bossanova2.png" alt="ボサノヴァをイメージしたブラジルの風景②" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/bossanova2.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/bossanova2-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　デオダートが初リーダー・アルバム『<em>無意味な風景</em>』(1964年)を発表したのは、22歳のとき。<strong>アントニオ・カルロス・ジョビン</strong>の楽曲集で、デオダートの卓越したアレンジとクールなピアノ演奏を堪能することができる。その後も彼はCTIレコードで活躍するようになるまでの間に、数多くのアルバムを吹き込んでいる。ソロ名義のリーダー作には『<em>イデイアス (着想点)</em>』(1964年)『<em>サンバ・ノヴァ・コンセプサォン</em>』(1964年)『<em>ペルセプサォン</em>』(1972年)といった３作がある。なかでも面白いのは、ブラジルのロンドン・レコードからリリースされた『<em>ペルセプサォン</em>』で、なんと本作のレコーディングにデオダートは参加していないのだ。ブラジリアン・ジャズとシンフォニック・サウンドとの融合はいかにも彼らしいのだが、これはまあ、どうしたことか。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　これにはわけがあって、実はこのアルバムはデオダートがリオデジャネイロに残したスコアをもとに、本人不在のまま制作されたものなのである。すでにCTIレコードのハウス・アレンジャーとして活躍していたデオダートは、完成した音盤をニューヨークで受けとり、スコアの再現度の高さに感激したという。まあピアノやギターの演奏も即興ではなく書き譜によるものであるとのことだから、出来するサウンドがデオダートらしいのは当たりまえなのだけれど──。なお本作の冒頭に収録されている「ジア・ジ・ヴェラォン」という曲は、のちに『<em>ツァラトゥストラはかく語りき</em>』で演奏されたデオダートのオリジナル・ナンバー「スピリット・オヴ・サマー」の原曲。いずれにせよ本作では、CTIサウンドとはひと味もふた味も違うエレガントなオーケストレーションを味わうことができる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　上記のアルバム以外にも、デオダートは<strong>オス・カテドラーチコス</strong>というグループ名義の『<em>インプルソ！サンバ</em>』(1964年)『<em>トレメンダォン</em>』(1964年)『<em>アタッキ</em>』(1965年)『<em>オ・ソン・ドス・カテドラーチコス</em>』(1970年)『<em>オス・カテドラーチコス 73</em>』(1973年)、<strong>オス・ガトス</strong>名義の『<em>オス・ガトス</em>』(1964年)『<em>オス・ガトス 2 (アケレ・ソン・ドス・ガトス)</em>』(1966年)、<strong>オルケストラ・ロス・ダンセーロス</strong>名義の『<em>ロス・ダンセーロス・エン・ボレロ</em>』(1964年)といったアルバムを発表している。なお『<em>オス・カテドラーチコス 73</em>』では『<em>ツァラトゥストラはかく語りき</em>』に収録されている「カーリーとキャロル」の原曲「カルロッタとカロリーナ」そして『<em>ラプソディー・イン・ブルー</em>』(1973年)に収録されている「スカイスクレイパーズ」の原曲「摩天楼」を聴くことができる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　この時代のデオダート・サウンドには、さながらボサノヴァ・ポップあるいはラウンジ・ボッサといった風情がある。そして『愛のボサノバ』のサウンドトラック・アルバムにおける彼のスコアには、そんな昔日を彷彿とさせるものがある。むろんそれは、以前よりコンテンポラリーな響きを奏でている。それでもぼくは、このアルバムでデオダートが採り上げている「無意味な風景」「ワン・ノート・サンバ」「あなたでなければならない」そして「平和な愛」といった、<strong>アントニオ・カルロス・ジョビン</strong>の楽曲が新たにアレンジされたトラックに耳を傾けていると、どうしてもノスタルジックな気分になってくるのだ。というのも、これらの４曲はすべて、前述のデオダートの初リーダー・アルバム『<em>無意味な風景</em>』に収録されている曲だからだ。その点、本盤は実に示唆に富んでいる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さきにも触れたが、この『愛のボサノバ』のサウンドトラック・アルバムでは、<strong>アントニオ・カルロス・ジョビン</strong>の楽曲がフィーチュアされている。全15曲中、デオダートによるスコアは８曲だが、残りの７曲はジョビンの既存のアルバムからの再収録である。その詳細は以下のとおり──。ジョビンは1994年12月８日、心臓発作のため67歳という若さでこの世を去ったが、彼の最後のスタジオ・アルバムとなった『<em>アントニオ・ブラジレイロ</em>』(1994年)から「ハウ・インセンシティヴ」がチョイスされている。このトラックでは、ジョビンとイギリスのロックバンド、<strong>ポリス</strong>のもとメンバー、<strong>スティング</strong>とが英語でデュエットしている。ホーンズとストリングスのアレンジは、ジョビンの息子でギタリストの<strong>パウロ・ジョビン</strong>が担当。ビタースウィートな味わいが絶品だ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ジャズ・テナー奏者の<strong>スタン・ゲッツ</strong>と“ボサノヴァの父”と称されるシンガー兼ギタリスト、<strong>ジョアン・ジルベルト</strong>との共作で、グラミー賞４部門を獲得した大ヒット・アルバム『<em>ゲッツ/ジルベルト</em>』(1964年)からは「イパネマの娘」と「クワイエット・ナイツ・オブ・クワイエット・スターズ(コルコヴァード)」の２曲がセレクトされている。<strong>アストラッド・ジルベルト</strong>が英語の歌詞を、アンニュイで飾らない表現で歌う。ジョビンは言の葉を紡ぐような美しいタッチのピアノ演奏を披露。むろんポルトガル語で詩を朗読するかのように歌うジョアン、歌唱の隙間に気怠くも甘いテナー・プレイで入り込んでくるゲッツも素晴らしい。本来のボサノヴァとは別モノという意見もあるが、このアルバムがアメリカにおけるボサノヴァ・ブームを決定づけたことは、紛うことなき事実である。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc4">当時ヴァーヴ・レコード期待の新星だったクラウディア・アクーニャも参加</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ジョビンの５枚目のリーダー・アルバムであると同時に、CTIレコードが世に送り出した２枚目の作品でもある『<em>波</em>』(1967年)からは、タイトル曲の「波」が選曲されている。ジョビンのアコースティック・ピアノが主軸に据えられたインストゥルメンタル・ナンバー。サウダージ感覚が溢れるメロディック・ラインとコーラスでの気持ちのいいモジュレーションが絶品。無駄が削ぎ落とされ美しさが際立った、ストリングスのメイン・メロディとカウンター・メロディ、フルートとホルンとのユニゾンが特徴的だが、当時CTIレコードのハウス・アレンジャーだった、ドイツ出身の<strong>クラウス・オガーマン</strong>のアレンジとコンダクティングによるものだ。さらに、ジョビンの初リーダー作『<em>イパネマの娘</em>』(1963年)からの「ノー・モア・ブルース(想いあふれて)」も、おなじコラボレーションによって生み出された名トラックである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　この「ノー・モア・ブルース(想いあふれて)」は、最初のボサノヴァ・ソングとされる歴史的名曲。このトラックはインストゥルメンタルだが、もともとこの曲は<strong>ヴィニシウス・ジ・モライス</strong>が作詞を手がけた、“サンバ･カンサゥンの女王”と称されるシンガー、<strong>エリゼッチ・カルドーゾ</strong>のアルバム『<em>想いあふれて(カンサゥン・ド・アモール・ジマイス</em>)』(1958年)のために用意された歌曲。はじめて世に出たときは、ほとんど注目を浴びなかったが、１年後に<strong>ジョアン・ジルベルト</strong>が歌ってスマッシュヒットとなった。なおジョビンのアルバム『<em>イパネマの娘</em>』は『<em>ゲッツ/ジルベルト</em>』と同様に、ヴァーヴ・レコードからリリースされた。この２枚と上記の『<em>波</em>』は、CTIレコードの創設者、<strong>クリード・テイラー</strong>のプロデュース作品である。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そして最後になったが、ブラジルでもっとも人気のある女性シンガー、<strong>エリス・レジーナ</strong>とジョビンとの共演盤『<em>ばらに降る雨</em>』(1974年)から「ウォーターズ・オブ・マーチ(三月の雨)」と「無意味な風景」が選曲されている。前者はジョビン自身のペンによるズミカルな歌詞、レジーナとジョビンとのデュエットにおける絶妙な掛け合いが際立った楽しいトラック。後者はジョビンのリリカルかつブルージーなソロ・ピアノを背景に、レジーナの感情豊かで凛とした歌声が織りなすメランコリックな世界が、なんとも味わい深い。ジョビンのハミングによるセンシティヴなヴォーカル・オブリガートも絶妙。ブラジルのフィリップス・レコードからリリースされたオリジナル・アルバムは、いまもブラジル音楽史上もっとも高い人気を誇る１枚となっている。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-9279 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/bossanova3.png" alt="ボサノヴァをイメージしたブラジルの風景③" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/bossanova3.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/bossanova3-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　ということで、以上が既存のアルバムからのトラックである。残りの８曲は、デオダートによる書き下ろしのスコアとなる。レコーディングは、チリ出身のジャズ・ヴォーカリスト、<strong>クラウディア・アクーニャ</strong>が歌ったメアリー・アンのテーマ「サドゥンリー」のみ、1999年12月16日にニューヨークのライト・トラック・スタジオで行われた。その際のパーソネルは、<strong>エウミール・デオダート</strong>(p)、<strong>ポール・メイヤーズ</strong>(g)、<strong>デヴィッド・フィンク</strong>(b)、<strong>ダルシ・セイシャス</strong>(perc)、<strong>エドソン・アパレシド・ダ・シルヴァ</strong> a.k.a. <strong>カフェ</strong>(perc)。残りの７トラックは、1999年６月におなじくライト・トラック・スタジオをはじめ、やはりニューヨークのアヴァター・スタジオ、クリントン・スタジオで録音された。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　レコーディング・メンバーは、<strong>エウミール・デオダート</strong>(p)、<strong>ホメロ・ルバンボ</strong>(g)、<strong>ジェイ・バーリナー</strong>(g)、<strong>ポール・メイヤーズ</strong>(g)、<strong>セルジオ・ブランドン</strong>(b)、<strong>ヘナート・ブラサ</strong>(ds)、<strong>ダルシ・セイシャス</strong>(perc)、<strong>マウロ・レフォスコ</strong>(perc)、<strong>コンラッド・ハーウィッグ</strong>(tb)。さらにフィーチュアリング・ヴォーカリストとして、リオデジャネイロ出身の<strong>バーバラ・メンデス</strong>、かつて<strong>セルジオ・メンデス</strong>のグループ・メンバーだった<strong>キャロル・ロジャース</strong>、そしてブラジル北東部アラゴアス州の首都マセイオ出身、MPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)シーンのスーパースター、シンガーソングライターの<strong>ジャヴァン</strong>が参加している。むろんデオダートが、ジョビンの曲を除くスコアの作曲、すべての編曲、そして指揮を一手に担っている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　アルバム収録順に８曲をご紹介していくと、トップを飾るのはジョビンの「無意味な風景」で、ここではデオダートのピアノ伴奏とメンデスのヴォーカルのみで演奏される。というかどちらかというとソロ・ピアノにヴォーカルが載っかっているような風情だ。デオダートのリリカルでブルージーなエクスプレッションがジョビンのそれを彷彿させる。やはりジョビンの「ワン・ノート・サンバ」は、メンデスのスキャットがフィーチュアされた軽快なボサノヴァ。歌詞は歌われない。シンプルかつエフェクティヴなストリングスとソフィスティケーテッドなリハーモナイゼーションがオシャレだ。つづいてデオダートの「サドゥンリー」とジョビンの「あなたでなければならない」とのメドレー。というかクレジットには記載がないが、イントロはジョビンの「太陽の道」だったりする。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　このメドレー、前半はゆったりした調子で「サドゥンリー」がインストゥルメンタルで演奏される。ホーン・セクションにホルンが使われているところが、デオダートらしい。短尺ながらハーウィッグのトロンボーンもソロをとる。その後テンポが上がって、ロジャースと<strong>ジャヴァン</strong>とのデュエットによる「あなたでなければならない」となる。キュートな高音と深みのある低音がいい具合に溶け合っている。つづく「サドゥンリー」は、ヴォーカル・ヴァージョン。前述のアクーニャがフィーチュアされている。このトラックは、彼女のデビュー・アルバム『<em>南風</em>』(2000年)のレコーディングのおよそ１か月後に吹き込まれた。当時のアクーニャは<strong>ダイアナ・クラーク</strong>につづくヴァーヴ・レコード期待の新星だった。彼女の起用は、<strong>リチャード・サイデル</strong>の采配によるものだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　アクーニャのスモーキーで落ち着いたトーンの歌声が、ぼくは好きなのだけれど、ここでの彼女は緩やかなボサノヴァのリズムに乗って、エモーショナルかつエレガントなパフォーマンスを展開。デオダートのピアノ・ソロも、こころなし上品に聴こえる。この曲、アルバムの後半でギターの伴奏のみでロジャースも歌っているが、個人的にはアクーニャのヴァージョンのほうが好きだ。ロジャースの愛くるしくも活発なヴォーカルもチャーミングで好きなのだけれど、フレーズの繊細な変化、トーンの方向性という点で、今回はアクーニャのほうに軍配を上げたいと思う。なおこのメランコリックなナンバーの作詞は、ジョビンの楽曲をはじめとするボサノヴァの名曲の英語歌詞をたくさん手がけた<strong>ノーマン・ギンベル</strong>によるものである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さらにアルバムは、デオダートの「ファンのテーマ」へとつづく。シネマティックなインストゥルメンタルだが、ストリングスのアンサンブルとピアノを主軸とした、いささか重苦しい雰囲気の曲だ。次曲がジョビンの「平和な愛」なのだが、こちらは爽快で瀟洒な感じ。前曲とのコントラストが鮮やかだ。ここではふたたびメンデスのスキャットがフィーチュアされるが、まさに一服の清涼剤といったところだ。アルバムのラストを飾るのは、デオダートによるインストゥルメンタル「ソウル・メイツ」だが、そのシンフォニック・サウンドのマナーは、前述の『<em>ペルセプサォン</em>』における彼のスコアを彷彿させる。後半コード進行が「無意味な風景」のそれになるのが、なんともこころ憎い。本作は、そんな爽やかなあと味も好印象を与える１枚である。</p>
<p>&nbsp;</p>
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<p class="wp-block-paragraph">最後まで読んでいただき、ありがとうございました。</p>
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		<title>Eumir Deodato / Knights Of Fantasy (1979年)</title>
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		<pubDate>Sun, 07 Jun 2026 07:15:23 +0000</pubDate>
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		<category><![CDATA[Eumir Deodato]]></category>
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					<description><![CDATA[ブラジル出身のアレンジャー兼キーボーディスト、エウミール・デオダートのクロスオーヴァー・サウンドとブラジリアン・テイストとが首尾よくディスコビートに載った『ナイツ・オブ・ファンタジー』]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<h2><span id="toc1">ブラジル出身のアレンジャー兼キーボーディスト、エウミール・デオダートのクロスオーヴァー・サウンドとブラジリアン・テイストとが首尾よくディスコビートに載った『ナイツ・オブ・ファンタジー』</span></h2>

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<div class="label-box-label block-box-label box-label"><span class="label-box-label-text block-box-label-text box-label-text">recommendation</span></div>
<div class="label-box-content block-box-content box-content">
<p class="wp-block-paragraph"><img loading="lazy" decoding="async" class="wp-image-703 alignleft" style="margin-bottom: 0px;" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png" alt="" width="101" height="92" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-300x274.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records.png 640w" sizes="(max-width: 101px) 100vw, 101px" /><em>Eumir Deodato / Knights Of Fantasy (1979)</em></p>
<p style="text-align: right;"><em>Today&#8217;s Tune : Knights Of Fantasy</em></p>
</div>
</div>

  <div id="toc" class="toc tnt-disc toc-center tnt-disc border-element"><input type="checkbox" class="toc-checkbox" id="toc-checkbox-4" checked><label class="toc-title" for="toc-checkbox-4">目次</label>
    <div class="toc-content">
    <ol class="toc-list open"><li><a href="#toc1" tabindex="0">ブラジル出身のアレンジャー兼キーボーディスト、エウミール・デオダートのクロスオーヴァー・サウンドとブラジリアン・テイストとが首尾よくディスコビートに載った『ナイツ・オブ・ファンタジー』</a><ol><li><a href="#toc2" tabindex="0">クロスオーヴァーのはじまり──デオダート、ボンファ、テイラー</a></li><li><a href="#toc3" tabindex="0">「ツァラトゥストラはかく語りき」の大ヒットとそれ以前のブラジル時代</a></li><li><a href="#toc4" tabindex="0">ディスコやソウルのカラーが強まり、ジャズやブラジル音楽の風味は薄まる</a></li></ol></li></ol>
    </div>
  </div>

<h3><span id="toc2">クロスオーヴァーのはじまり──デオダート、ボンファ、テイラー</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　<strong>エウミール・デオダート</strong>は、リオデジャネイロ生まれのイタリア系ブラジル人だけれど、アメリカへ渡ってからレコーディングした、クロスオーヴァー作品でその名を轟かせたひと。というか、クロスオーヴァーという当時のトレンドの先陣を切ったのは、ほかでもないデオダートだったように思われる。1970年代前半に流行したクロスオーヴァーは、もともとジャズから派生した音楽。1960年代の終わりからトランペッターの<strong>マイルス・デイヴィス</strong>がエレクトリック・ジャズを演りはじめていたが、彼のサウンドはどちらかというとファンク色が強くてリズムが強調されたスタイルだった。それに比べてクロスオーヴァーは、電気楽器や電子楽器が積極的に採り入れられるのはおなじだが、ロック、ソウル、ラテン、クラシックといった様々な音楽のエッセンスが盛り込まれているところが独特である。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　まさにジャンルの垣根を乗り越えた音楽、クロスオーヴァーのはじまりは、ABCパラマウント・レコード、インパルス! レコード、ヴァーヴ・レコードといったレーベルで多くのジャズ作品を手がけた名プロデューサー、<strong>クリード・テイラー</strong>が1967年にA&amp;Mレコード内に発足したCTIレコードの作品であると、ぼくは観ている。1970年代の前半には<strong>チック・コリア</strong>、<strong>キース・ジャレット</strong>、<strong>ハービー・ハンコック</strong>といったジャズ・ピアニストたちも、新しいジャズ・スタイルを模索するような作品を吹き込んでいるけれど、それらはどちらかというとエレクトリック・ジャズ、あるいはジャズ・ファンクといった印象を与える。まあ、のちにエレクトリック・ジャズもクロスオーヴァーも、一括りにされてフュージョンと呼ばれるようになるのだけれど──。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ではCTIレコードの作品の特徴とはどんなものかというと、ひとことで云うとエンターテインメントなのである。プロデューサーの<strong>クリード・テイラー</strong>は、ヴァーヴ時代から度々ジャズのポピュラリゼーションを図っていた。<strong>アントニオ・カルロス・ジョビン</strong>、<strong>ジョアン・ジルベルト</strong>、<strong>アストラッド・ジルベルト</strong>といったブラジルのミュージシャンを起用して、ボサノヴァをアメリカで普及させたことは、その好例と云える。さらにジャズに盛り込まれる音楽ジャンルの幅は広がり、同時にバンド編成も次第に大がかりになっていき、独特のCTIサウンドが定着する。ジャズ本来の即興性は薄まったものの、当時のポップスやイージー・リスニングと同様に、だれもが気軽に楽しめる心地いいサウンドは、多くの音楽ファンから受け入れられた。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-9251 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/disco1.png" alt="ディスコのミラーボール (グリーン)" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/disco1.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/disco1-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　CTIの作品では、当時のポップスやソウル・ミュージックのカヴァー、それにクラシック・ミュージックのパラフレーズ・ナンバーが積極的に採り上げられていた。しかも、リズム・セクションのバックに規模の大きなオーケストラが加えられるケースが、次第に定式化されていく。そんな趣向が凝らされるのだから、当然まとめ役が必要となってくる。さもありなん、現に<strong>クラウス・オガーマン</strong>、<strong>ドン・セベスキー</strong>、<strong>ボブ・ジェームス</strong>、<strong>デヴィッド・マシューズ</strong>といったCTIレーベルのハウス・アレンジャーや、GRPレコードを立ち上げるまえの<strong>デイヴ・グルーシン</strong>、アルゼンチ出身の<strong>ラロ・シフリン</strong>といった錚々たる顔ぶれが、ソロイストが繰り出す熱いプレイにスウィートな響きを加えていた。デオダートもそのひとりである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　デオダートは1960年代の後半から、ヴァーヴ・レコードにおいてアレンジャーとしていくつかの作品を手がけていたが、テイラーとは<strong>アストラッド・ジルベルト</strong>のアルバム『<em>ビーチ・サンバ</em>』(1967年)でコンビを組んでいる。さらにCTIレーベルではA&amp;M傘下時代から、ジャズ・ギタリスト、<strong>ウェス・モンゴメリー</strong>のリーダー作『<em>ダウン・ヒア・オン・ザ・グラウンド</em>』(1968年)を手はじめに、ブラジルのジャズ・オルガニスト、<strong>ワルター・ワンダレイ</strong>の『<em>ホエン・イット・ウォズ・ダン</em>』(1969年)、MPBを代表するブラジルのシンガーソングライター、<strong>ミルトン・ナシメント</strong>の『<em>太陽の歌</em>』(1969年)、20世紀のブラジル音楽を代表する作曲家で、ピアニスト、ギタリスト、シンガーでもある<strong>アントニオ・カルロス・ジョビン</strong>のインストゥルメンタル・アルバム『<em>潮流</em>』(1970年)といった、印象的な作品を制作している。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　実はデオダートをテイラーに引き合わせたのは、<strong>マルセル・カミュ</strong>監督による映画『黒いオルフェ』(1959年)の主題歌「オルフェの歌」の作曲者として知られる<strong>ルイス・ボンファ</strong>。リオデジャネイロ出身のボンファは、ジャズやボサノヴァをプレイするギタリストで、そのリーダー作は50枚以上にも上る。特にボンファは技巧派のポリフォニック・スタイルのソロイストとして知られるが、メロディック・ラインをハーモナイズさせたりリードとリズムの両パートを同時に弾いたりするのが得意な、レジェンダリーなギタリストだ。ボンファとデオダートとは、レコーディングにおいて度々共演を果たしているのだけれど、そのコラボレーションでもっとも有名なのは、<strong>バート・バラバン</strong>監督による映画『ザ・ジェントル・レイン』(1966年)の音楽だろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　映画公開にさきがけて、1965年にマーキュリー・レコードからリリースされたサウンドトラック・アルバムは、単なるサントラ盤では終わらない名盤である。プロデューサーを名曲「蜜の味」の作曲者として知られるピアニスト、<strong>ボビー・スコット</strong>が務めていることが目を引くし、ボンファ・スタイルのメランコリックなつま弾きも圧倒的だ。しかしながら本作の最大の魅力は、デオダートによるオーケストラのアレンジとコンダクティングだ。ボンファのペンによるサウダージ感覚に溢れたメロディック・ラインも然ることながら、デオダートのオーケストレーションが織りなすアーバンなサウンド・タペストリーが素晴らしい。その点、このアルバムには、“<strong>エウミール・デオダート・オーケストラ・フィーチュアリング・ルイス・ボンファ</strong>”といった趣きがある。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　それはさておき、デオダートとボンファは、さきに挙げた<strong>アストラッド・ジルベルト</strong>のアルバム『<em>ビーチ・サンバ</em>』の制作で再会する。デオダートはソングライター、アレンジャー、そしてコンダクターとして参加。ボンファはソングライティングを手がけている。このアルバムが制作される際、プロデューサーのテイラーにデオダートを紹介したのが、ボンファだった。さらに云うと、このアルバムがリリースされた1967年、デオダートはリオデジャネイロからニューヨークに移住しているのだが、彼をアメリカに呼び寄せたのはだれあろうボンファだった。いずれにしてもこれを機に、デオダートの音楽性を気に入ったテイラーは、彼をCTIレコードのハウス・アレンジャーとして雇い、前述のようにヒット作を次々と世に送り出していくのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc3">「ツァラトゥストラはかく語りき」の大ヒットとそれ以前のブラジル時代</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　CTIレコードは1970年に独立するが、デオダートは同レーベルで、<strong>アントニオ・カルロス・ジョビン</strong>の『<em>ストーン・フラワー</em>』(1970年)、<strong>アストラッド・ジルベルト</strong>とテナー奏者の<strong>スタンリー・タレンタイン</strong>とのコラボレーション・アルバム『<em>ブラジルのつづれ織り</em>』(1971年)といった作品を手がけたあと、いよいよリーダー・アルバムを制作する。彼が1973年に発表したCTIレコードにおける第１作『<em>ツァラトゥストラはかく語りき</em>』(原題は『<em>Prelude</em>』)は、あまりにもインパクトが大きかった。なにせアルバムのA面１曲目の「ツァラトゥストラはかく語りき」は、シングルカットされ500万枚以上のセールスを上げたのだから──。これは当時のアメリカ国内でのレコード販売数としては、驚天動地の天文学的数字である。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　一世を風靡した「ツァラトゥストラはかく語りき」は、広く知られる<strong>リヒャルト・シュトラウス</strong>が作曲した交響詩の「アインライトゥン(序奏)」が、ファンキーでエレクトリックなインストゥルメンタルにアレンジされたもの。この曲の大ブレイクの背景に、1968年公開の映画『2001年宇宙の旅』のヒットがあることは否定できないだろう。<strong>スタンリー・キューブリック</strong>が監督したこの叙事詩的SF作品は、賛否は分かれたものの、とにかく世界中で大きな話題を呼んだ。キューブリックの記号体系が晦渋を極めたこの映画、何度観てもよくわからないのだが、何度でも観たくなる変な作品である。特に<strong>リヒャルト・シュトラウス</strong>の原曲が使用された、ヒトザルが骨を武器にするシーンは、観客に強烈なインパクトをを与えた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　これは余談だが、この映画で使用された演奏はアンクレディテッドだが、<strong>ヘルベルト・フォン・カラヤン</strong>指揮、<strong>ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団</strong>によるものである。いずれにしてもこのキューブリック作品の影響で、当時「ツァラトゥストラはかく語りき」はとてもポピュラーな曲になっていた。この人気曲をジャズ・ファンクの先駆けのようなサウンドで売り出してしまうところに、<strong>クリード・テイラー</strong>のプロデューサーとしてのしたたかさが感じられる。デオダートのほうも以降、自己のグループに“<strong>2001スペース・バンド</strong>”なんていう名前をつけてしまうのだから、まったく抜け目がない。とはいっても、実はそういう屈託のなさが、<strong>エウミール・デオダート</strong>という音楽家の魅力にそのままつながると、ぼくは思うのである。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-9252 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/disco2.png" alt="ディスコのミラーボール (ピンク)" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/disco2.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/disco2-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　CTIのハウス・アレンジャーといえばみな、その音楽的装飾の技法にアートオリエンテッドなところがあるのだけれど、デオダートにはそれがない。また、その巧みなアレンジメントも然ることながら、キーボーディストとしての腕前もなかなか達者である。衒いのないゴージャスなアレンジと、自由闊達なエレクトリック・ピアノの演奏が彼のもち味と云える。そんな臆することもなくキャッチーなサウンドをクリエイトしてしまうようなところに、ぼくはとても惹かれるのだ。名高いクラシック・ナンバーをファンキーでポップなエレクトリック・ジャズにアレンジした「ツァラトゥストラはかく語りき」は異例のヒットとなったけれど、それは芸術性や装飾性よりも単純にキャッチーなサウンドを重視するデオダートだからこそ成し得た結果と云えるのではなかろうか。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ちなみに、デオダートの「ツァラトゥストラはかく語りき」はその後、<strong>ピーター・セラーズ</strong>主演の映画『チャンス』(1979年)で使用された。主人公がワシントンの中心街に向かうシーンで流れるのだけれど、確かにこの場面では原曲よりもデオダートのプログレッシヴなサウンドがよく似合う。ところで、あっという間にスターの座へ駆け上がったデオダートは、同年にCTIレコードにおける第２作『<em>ラプソディー・イン・ブルー</em>』(原題は『Deodato 2』)を発表。<strong>ジョージ・ガーシュウィン</strong>の「ラプソディー・イン・ブルー」<strong>モーリス・ラヴェル</strong>の「亡き王女のためのパヴァーヌ」<strong>ザ・ムーディー・ブルース</strong>の「サテンの夜」などがデオダート流に料理されていて楽しい。いずれにせよ、このアルバム・リリースの異例のスピード加減からも、彼がときのひとだったことがわかる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　デオダートは日本でもたちまち人気者となり、CTI作品の当時のディストリビューター、キングレコードが『<em>白いピューマ</em>』(原盤はブラジル時代の『<em>Os Catedráticos 73</em>』/1973年)や『<em>アランフェス協奏曲</em>』(原盤はイタリアのシンガー、<strong>マッシモ・ラニエリ</strong>の『<em>Meditazione</em>』/1976年)といった、奇妙奇天烈なレコードまで発売するほどだった。ただお断りしておくが、デオダートが全米規模の大スターになったのは確かにCTI時代だけれど、彼の才能はそれよりもずっと以前に開花していたのである。しかしながら、日本でその全貌が知られるようになるのは、1990年代の後半になってからのこと。デオダートが、ブラジルの音楽プロデューサー、<strong>アルナルド・ジ・ソウテイロ</strong>の協力を得て、自身がブラジル時代に制作した９枚のアルバムをCD盤としてリイシューしたのが契機となった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　その９枚を具体的に挙げると、３枚のデオダート本人名義のアルバム『<em>無意味な風景</em>』(1964年)『<em>イデイアス (着想点)</em>』(1964年)『<em>サンバ・ノヴァ・コンセプサォン</em>』(1964年)、５枚の<strong>オス・カテドラーチコス</strong>名義のアルバム『<em>インプルソ！サンバ</em>』(1964年)『<em>トレメンダォン</em>』(1964年)『<em>アタッキ</em>』(1965年)『<em>オ・ソン・ドス・カテドラーチコス</em>』(1970年)『<em>オス・カテドラーチコス 73</em>』(1973年)、そして最後の１枚、<strong>オルケストラ・ロス・ダンセーロス</strong>名義の『<em>ロス・ダンセーロス・エン・ボレロ</em>』(1964年)となる。ちなみに『<em>オ・ソン・ドス・カテドラーチコス</em>』は、前３作をまとめたコンピレーション・アルバムなので要注意。この９枚はすべて日本でもCD化されたので、ご存じのかたも多いだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　また『<em>オス・カテドラーチコス 73</em>』は、前述のキングレコードから1974年にリリースされた『<em>白いピューマ</em>』と同一内容。このアルバムでは『<em>ツァラトゥストラはかく語りき</em>』に収録されている「カーリーとキャロル」の原曲「カルロッタとカロリーナ」そして『<em>ラプソディー・イン・ブルー</em>』に収録されている「スカイスクレイパーズ」の原曲「摩天楼」を聴くことができる。つまり『<em>オス・カテドラーチコス 73</em>』は1972年に吹き込まれた作品だが、デオダートは本作ですでにCTIレコードにおけるクロスオーヴァー・サウンドのプロトタイプを展開しているのである。その点、彼のディスコグラフィにおいて、きわめて重要なアルバムと云える。さらに『<em>ロス・ダンセーロス・エン・ボレロ</em>』あたりを聴くとよくわかるのだが、デオダートは間違いなく、映画音楽の大家、<strong>ヘンリー・マンシーニ</strong>から強く影響を受けている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ということで、デオダートがスターダムにのし上がったのは確かにCTI時代だけれど、彼の才能はそれよりもずっと以前に開花していた。前述のようにデオダートは1967年にリオからニューヨークに移住したわけだが、その時点ですでに、故郷のブラジルではコンポーザー、アレンジャー、キーボーディストとして、高い評価を得ていたのである。1942年6月22日、リオデジャネイロで生を受けた彼は、12歳でアコーディオンを手にする。14歳のときにピアノを弾きはじめると同時に、管弦楽法や指揮法を独学で習得。特にアレンジについては、<strong>ヘンリー・マンシーニ</strong>の作法を通信教育で学んだという。その影響はさきにも述べたとおり、ブラジル時代の作品に色濃く反映している。そんなデオダートは17歳にして、プロのアレンジャーとしてのキャリアをスタートさせている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc4">ディスコやソウルのカラーが強まり、ジャズやブラジル音楽の風味は薄まる</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　その後デオダートは、1960年の初頭に自己のバンドを結成。メンバーは、<strong>セルソ・ブランド</strong>(g)、<strong>セルジオ・バローゾ</strong>(b)、<strong>ジョアン・パルマ</strong>(ds)、<strong>ウーゴ・マロッタ</strong>(vib)、<strong>アンリ・アクセルルード</strong>(fl)といった、錚々たる顔ぶれで占められている。なお1962年にはギタリストが、ボサノヴァのパイオニアでありMPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)のシンガーソングライターとして有名な<strong>ホベルト・メネスカル</strong>に交替している。前述の初リーダー・アルバム『<em>無意味な風景</em>』を発表したのは、22歳のとき。その後1973年までデオダートは、さきに挙げたソロ名義のリーダー作や、<strong>オス・カテドラーチコス</strong>や<strong>オス・ガトス</strong>といったグループ名義の作品、さらに映画のサントラ盤など、たくさんのアルバムをリリースしている。そのサウンドにはいかにも、ポップでグルーヴィーなボサノヴァといった風情がある。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さて、ハナシをCTI時代に戻すが、デオダートは「ツァラトゥストラはかく語りき」が大ブレークしたあと、意外にもその１年後、ブラジルのパーカッショニスト、<strong>アイルト・モレイラ</strong>とのスプリット・アルバム『<em>イン・コンサート</em>』(1974年)を残して、早々にCTIレコードを去る。デオダートはときを移さず大手のMCAレコード(現在のユニバーサル ミュージック)に移籍するのだが、このあたりにも、いかにも彼らしい抜け目のなさが感じられる。むろん移籍の目的は、利益追求だけではない。ブラジル時代から大らかで明瞭なサウンドを繰り広げていたデオダートのことだから、より自由に自分の音楽をクリエイトしたかったのだろう。<strong>クリード・テイラー</strong>のプロデュース、<strong>ルディ・ヴァン・ゲルダー</strong>のレコーディングと、レーベル・カラーが濃厚なCTIレコードでは、多少なりとも制約があったと思われる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　実はぼくは、デオダートの作品では、もっともナチュラルにその音楽性が表出していることから、MCA時代のアルバムが好きだ。彼がMCAレコードで制作したアルバムは『<em>旋風</em>』(1974年)『<em>アーティストゥリー</em>』(1974年)『<em>ファースト・クックー</em>』(1975年)『<em>ヴェリー・トゥゲザー</em>』(1976年)の計４枚。すべてデオダート自身が、プロデュースを手がけている。それ故これらのアルバムでは、メロディアスなテーマ、タイトでステーブルなリズム、そしてブラジリアン・テイストと、どこを切ってもデオダートらしさが飛び出してくる。しかも、アルバム・コンセプトにしても、サウンド・プランにしても、CTI作品よりも鷹揚さが増している。カヴァー曲においては、クラシック音楽のパラフレーズ・ナンバーがぐっと減り、かわりにジャズ・スタンダーズや同時代のロックやレゲエのヒット曲が目につく。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-9253 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/disco3.png" alt="ディスコのミラーボール (ブルー)" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/disco3.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/06/disco3-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　その後、デオダートはワーナー・ブラザース・レコードに移籍し、そのサウンドはさらに進化する。もしかすると、デオダート自身もCTI時代からルーティン化していたクロスオーヴァー・サウンド対し、いささか閉塞感を覚えていたのかも知れない。ワーナー・ブラザース時代の彼は、過去の成功体験を見直しながら、自己の音楽性のステージを一段高い次元へ引き上げようとしているかのようにも映る。その作品は『<em>ラヴ・アイランド</em>』(1978年)『<em>ナイツ・オブ・ファンタジー</em>』(1979年)『<em>ナイト・クルーザー</em>』(1980年)『<em>ハッピー・アワー</em>』(1982年)『<em>モーション</em>』(1984年)と、５枚を数える。サウンドの変革、クオリティの向上という点では、１枚目の『<em>ラヴ・アイランド</em>』がもっとも際立つ。一般的にも『<em>ツァラトゥストラはかく語りき</em>』と並んで、デオダートのマスターピースと観られている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　その要因は、名プロデューサー、<strong>トミー・リピューマ</strong>の手腕によるところが絶大。フュージョンの名盤とさえ云われる『<em>ラヴ・アイランド</em>』では、リピューマの得意とするシティ・ソウル系のテイストが加味され、全般的にメロウ・ファンク・サウンドが横溢する。それに反して、従来の鷹揚なデオダート・サウンドは、かなり鳴りをひそめる。そしてそれは作品を重ねるごとに、徐々にディスコやソウルのカラーが強まり、逆にジャズやブラジル音楽の風味は薄まるという、いささかコマーシャルなものになっていく。行き着くところ、女性ヴォーカル、フォー・オン・ザ・フロア、ハンド・クラッピングなどが溢れかえり、フェンダー・ローズによるブラジル風味のアドリブ・ソロが登場する余地はなくなる。そんなことをアッケラカンとやってしまうところもまた、デオダートらしさではあるのだけれど──。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　デオダートがダンス・ミュージックに傾倒するようになったのは、彼がスマッシュヒットとなった『<em>レディーズ・ナイト</em>』(1979年)をはじめとする、ニュージャージー出身のファンク・バンド、<strong>クール＆ザ・ギャング</strong>のアルバムをプロデュースするようになったことと無関係ではないだろう。いずれにしてもワーナー・ブラザース時代のデオダートは、ディスコライクなマナーにのめり込み、ファンク・モードに入っていた。そういう時期において、もっとも成功している作品といえば、ぼくは『<em>ラヴ・アイランド</em>』ではなく『<em>ナイツ・オブ・ファンタジー</em>』を真っ先に挙げる。本作では、トータル的にディスコ、ファンクのカラーが濃厚だが、そんななかにも従来のデオダートの音楽性が明確に見てとれるのである。名盤の呼び声が高い『<em>ラヴ・アイランド</em>』は、ある意味でリピューマの作品なのだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　一般的にあまり評価する向きが多くない『<em>ナイツ・オブ・ファンタジー</em>』だが、CTI、MCAにおけるクロスオーヴァー・サウンドや、それ以前のブラジリアン・テイストが、首尾よくディスコビートに載っかっているという点では群を抜いている。最後にこのアルバムについて、簡単ではあるが具体的に触れておく。プロデュースはデオダート本人が担当、ソングライティングのほうも１曲を除いて、すべて彼が手がけている。レコーディング・メンバーは、<strong>エウミール・デオダート</strong>(key)、<strong>ジェフ・レイトン</strong>(g)、<strong>ジョン・トロペイ</strong>(g)、<strong>レイ・ゴメス</strong>(g)、<strong>クリフ・モリス</strong>(g)、<strong>ニール・ジェイソン</strong>(b)、<strong>フランシスコ・センテーノ</strong>(b)、<strong>ジョン・サスウェル</strong>(ds)、<strong>スコット・シェリアー</strong>(elds)、<strong>クラッシャー・ベネット</strong>(perc)、<strong>ルーベンス・バッシーニ</strong>(perc)、<strong>ルー・マリーニ</strong>(fl)。さらに、ホーンズ＆ストリングスが加わる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　アルバムはゆったりしたダンスビートの「スペース・ダスト / シャーロック」からスタート。フォー・オン・ザ・フロアにハンド・クラッピングといった、いかにもフロアライクなナンバー。しかしながら、転調が活かされたコード進行やオーケストラ・サウンドは、いかにもデオダートらしい。後半の熱いシンセのソロも、なかなかのもの。アップテンポの「シャザム」もまたディスコライクな曲だが、ベースのリフやコンガのラテン・タッチ、そしてブラスのアンサンブルがアクセントとなっている。スラップ・ベースのソロも効果的だ。次の「バッハマニア」だけが、カヴァー曲。というか、<strong>ヨハン・ゼバスティアン・バッハ</strong>の「主よ、人の望みの喜びよ」フランスの作曲家、<strong>アンドレ・ポップ</strong>の「恋はみずいろ」デオダートのオリジナル「ウィッスル・バンプ」といった３曲の組曲。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　この曲、ディスコビートがキープされながらメドレーで演奏されるというところが、あたかもDJミックスのような計らいだ。サイナーというエレクトロニック・ドラムスの音色が、なんとも懐かしい。B面のトップを飾る「ナイツ・オブ・ファンタジー」は、ハンド・クラッピングも入ってくるが、どちらかというと16ビートの躍動感溢れる爽快なフュージョン・ナンバー。ホルン、フルート、ストリングスなどのアンサンブル、そしてトロペイによるギター、デオダートによるローズのソロと、これぞデオダート・サウンドといった感じだ。ラストの「ラヴリー・レディ」は、ディスコ抜きのブラジリアン・テイストのメロウ・フュージョン。ローズのソロが、得も云われぬリラクゼーションを生んでいる。そんな本作、全体的にはよくバランスのとれた１枚で、飽きのこない佳作と云える。ぜひ、お試しあれ。</p>
<p>&nbsp;</p>
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<p class="wp-block-paragraph">最後まで読んでいただき、ありがとうございました。</p>
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		<title>Luiz Bonfa &#038; Eumir Deodato / The Gentle Rain (1965年)</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kimama]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 25 May 2025 06:58:45 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[Soundtrack]]></category>
		<category><![CDATA[Eumir Deodato]]></category>
		<category><![CDATA[Luiz Bonfa]]></category>
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					<description><![CDATA[ルイス・ボンファとエウミール・デオダートとのコラボレーションが生んだ珠玉のブラジル音楽集──映画『ザ・ジェントル・レイン』のサウンドトラック・アルバム]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<h2><span id="toc1">ルイス・ボンファとエウミール・デオダートとのコラボレーションが生んだ珠玉のブラジル音楽集──映画『ザ・ジェントル・レイン』のサウンドトラック・アルバム</span></h2>

<div class="wp-block-cocoon-blocks-label-box-1 label-box block-box has-border-color has-ex-a-border-color">
<div class="label-box-label block-box-label box-label"><span class="label-box-label-text block-box-label-text box-label-text">recommendation</span></div>
<div class="label-box-content block-box-content box-content">
<p class="wp-block-paragraph"><img loading="lazy" decoding="async" class="wp-image-703 alignleft" style="margin-bottom: 0px;" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png" alt="" width="101" height="92" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-300x274.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records.png 640w" sizes="(max-width: 101px) 100vw, 101px" /><em>Album : Luiz Bonfa &amp; Eumir Deodato / The Gentle Rain (1965)</em></p>
<p style="text-align: right;"><em>Today&#8217;s Tune : The Gentle Rain (Major Key)</em></p>
</div>
</div>

  <div id="toc" class="toc tnt-disc toc-center tnt-disc border-element"><input type="checkbox" class="toc-checkbox" id="toc-checkbox-6" checked><label class="toc-title" for="toc-checkbox-6">目次</label>
    <div class="toc-content">
    <ol class="toc-list open"><li><a href="#toc1" tabindex="0">ルイス・ボンファとエウミール・デオダートとのコラボレーションが生んだ珠玉のブラジル音楽集──映画『ザ・ジェントル・レイン』のサウンドトラック・アルバム</a><ol><li><a href="#toc2" tabindex="0">映画本編よりも音楽のほうが奇跡的な『黒いオルフェ』</a></li><li><a href="#toc3" tabindex="0">ルイス・ボンファとは？映画『ザ・ジェントル・レイン』とは？</a></li><li><a href="#toc4" tabindex="0">“デオダート・オーケストラ・フィーチュアリング・ボンファ”</a></li></ol></li></ol>
    </div>
  </div>

<h3><span id="toc2">映画本編よりも音楽のほうが奇跡的な『黒いオルフェ』</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　初夏の風を心地よく感じるような、それでいて日中は少し動くとすぐに汗ばむような時季だからだろう、自分でも気がつかぬうちに、ついつい涼感を誘う音楽を求めてしまう今日このごろである。前回も涼味満点の<strong>アントニオ・カルロス・ジョビン</strong>の不朽の名作『<em>波</em>』(1967年)をご紹介した。その際チラッとだけれど、ジョビンが音楽を手がけた映画『黒いオルフェ』(1959年)に触れた。映画はジョビン同様ボサノヴァのオリジネーターである、<strong>ヴィニシウス・ジ・モライス</strong>が執筆した1956年の前衛的な舞台劇『オルフェウ・ダ・コンセイサゥン』を映画化したもの。映画はフランス、ブラジル、イタリアの合作だが、カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを、アカデミー賞では外国語映画賞を受賞している。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ただ映画を観た原作者のモライスは「これは自分の作品ではない」と、否定的な感想を率直に述べている。映画の出来不出来はともかく、この映画のサウンドトラック・アルバムは実に素晴らしい。ジョビンはブラジルの伝統的なフォルクローレを織り交ぜながら、ヴィヴィッドなサンバ・ジ・エンヘードをクリエイトしている。そこはかとなく哀愁を帯びた「フレヴォ」や、郷愁を誘うような「カルナヴァルのサンバ」は名曲だ。またジョビンは、モライスが作詞した「フェリシダージ」(邦題は「悲しみよさようなら」)という、ボサノヴァ・ソングの流れを汲むサウダージ感覚に溢れた美しい曲も書いている。彼はこの曲を、自身のセカンド・アルバム『<em>ワンダフル・ワールド</em>』(1965年)において、セルフ・カヴァーしている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　有名なギリシャ神話であるオルフェウス伝説を、物語の舞台を1950年代後半のブラジル、リオデジャネイロに置き換えて描くという、モライスの大胆な着想によって創出された戯曲は、いかにもヌーヴェルヴァーグの鬼才、<strong>マルセル・カミュ</strong>監督が飛びつきそうな題材だ。カーニヴァルを翌日に控えるリオデジャネイロにおいて、市電の運転士オルフェ(ブレノ・メロ)は田舎から出て来た少女ユリディス(マルペッサ・ドーン)と出会う。オルフェにはすでに婚約者がいるのだが、彼とユリディスとはともにカーニヴァルの練習に取り組むうちに恋に落ちてしまう──。この物語の主な舞台となるのはリオデジャネイロ市内のファヴェーラ(スラム街)だが、撮影は1958年のリオのカーニヴァルを中心にオールロケで行われた。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-7249 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2025/05/gentlerain1.png" alt="雨の中に傘を持って佇む赤いレインコートの女性とギター" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2025/05/gentlerain1.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2025/05/gentlerain1-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　この映画にぼくはそれほど思い入れがあるわけではないけれど、ギリシャ神話をベースにしたストーリーラインとカーニヴァルの熱気と狂騒とのマッチングがすこぶるいいのには、ちょっと驚かされた。サウンドトラック・アルバムには、リオデジャネイロの街とそこに生きるひとびとの活気、そしてこのオハナシが醸し出す甘美なまでに形而上学的な雰囲気が、そっくり詰め込まれている。そういう意味では、映画本編よりも音楽のほうが奇跡的である。なおこのサウンドトラックには、こんな逸話がある。オルフェ役のメロのプレイバックシンガーに、当初ボサノヴァの神さま、<strong>ジョアン・ジルベルト</strong>が名乗りを上げていた。ところが声色がアフリカ系ブラジル人らしくないということから、彼が採用されることはなかった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　結局、メロの吹き替え歌手は、サンパウロ出身のシンガーソングライター、<strong>アゴスチーニョ・ドス・サントス</strong>が務めた。サントスは1962年11月21日、ニューヨークのカーネギー・ホールで開催された、伝説のボサノヴァ・コンサートにも出演したひと。いっぽう不採用となったジルベルトは、まるで一矢報いるかのごとく『黒いオルフェ』の劇中歌のレコーディングに臨んだ。具体的には「フェリシダージ」「オルフェの歌」「カルナヴァルのサンバ」「フレヴォ」といった４曲だが、吹き込みはオデオン・レコードによって１枚のシングル・レコードとしてリリースされた。ジルベルトのソフトなウィスパーヴォイスはなんとも味わい深いのだが、オルフェの歌声としてアテるにはいくらなんでも軽すぎる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ただ純然たる音楽として楽しむのなら、ジルベルトのカヴァーはサウダージ感覚に溢れた極上のヴァージョンと云える。このEP盤は非常に貴重で入手が困難だったが、2010年に英国のチェリー・レッド・レコードがジルベルトのファースト・アルバム『<em>想いあふれて</em>』(1959年)をCD化する際に、ボーナス・トラックとして「フレヴォ」を除く３曲をアルバムに追加収録した。ぼくの場合もいまでは、原曲よりもジルベルトのヴァージョンを聴く機会のほうがすっかり多くなっている。むろん一部に愁いを帯びたソフィスティケーテッドな楽曲を含むものの、総じてブラジル音楽がもつ野性的で素朴なサウンドがダイナミックに展開される映画『黒いオルフェ』のサウンドトラック・アルバムは、いまも非凡な輝きを放っている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　この映画の音楽のほとんどはジョビンのペンによるものだが、<strong>アゴスチーニョ・ドス・サントス</strong>、<strong>エリゼッチ・カルドーゾ</strong>の歌唱、あるいはアコースティック・ギターのソロ演奏などで、劇中繰り返し登場する「オルフェの歌」は彼の曲ではない。この曲を映画の主題歌と観ても差し支えないと思われるのだが、実際「オルフェの歌」は「カーニバルの朝」や「黒いオルフェ」という別タイトルでも親しまれ、映画の楽曲のなかではもっとも広く知られたナンバーとなっている。なおユリディス役のドーンのプレイバックシンガーを務めたカルドーゾは、俗に“ボサノヴァ第１号”とされるジョビンとモライスとの共作「想いあふれて」をはじめてレコーディングしたシンガーとして知られる女性である。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　この「オルフェの歌」は、作詞を<strong>アントニオ・マリア</strong>、作曲を<strong>ルイス・ボンファ</strong>が手がけた。ふたりはこの映画に陽気で躍動的な「オルフェのサンバ」という曲も提供している。ブラジル北東部の大都市レシフェ出身のマリアは、多くのポップ・ミュージックの作詞を手がけながら、ラジオのスポーツ番組でコメンテーターとしても活躍したという変わり種。かたやリオデジャネイロ出身のボンファは、ジャズやボサノヴァをプレイするギタリストで、そのリーダー作は50枚以上にも上る。特にボンファは技巧派のポリフォニック・スタイルのソロイストとして知られるが、メロディック・ラインをハーモナイズさせたりリードとリズムの両パートを同時に弾いたりするのが得意な、レジェンダリーなギタリストだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc3">ルイス・ボンファとは？映画『ザ・ジェントル・レイン』とは？</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　実はボンファは、前述のカーネギー・ホールのボサノヴァ・コンサートにも出演している。彼は1958年に活動の拠点をニューヨークに移し、その後ギタリストとして成功を収めるのだけれど、そのキャリアを世界的なものにした出来事といえば、やはり『黒いオルフェ』のサウンドトラックへの参加だろう。1962年のカーネギー・ホールでのコンサートにおいても、彼が演奏した「オルフェの歌」がハイライトとなった。なおコンサートに同行したサントスも、<strong>オスカー・カストロ・ネヴィス・クァルテット</strong>をバックにその美声をもってして「オルフェの歌」と「フェリシダージ」を披露した。その模様は、オーディオ・フィデリティ盤『<em>ボサノヴァ・アット・カーネギー・ホール</em>』(1963年)において聴くことができる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　いっぽうボンファのリーダー作といえば、クラブ・シーンにおいては欧米諸国、ブラジル、それに日本のアーティストたちによって、ヘヴィー・ローテーションのアイテム、あるいはサンプリングのネタとして重宝されているようだけれど、一般的な人気はいまひとつのように思われる。彼はリーダー作を1950年代半ばから1990年代初頭まで吹き込んでいるけれど、内容的には実にヴァラエティに富んでいる。なかには『<em>マンハッタン・ストラット</em>』(1997年)という、ニューヨークのファースト・コール・ミュージシャンたちと吹き込んだ、バリバリのフュージョン作品もある。1974年にレコーディングされていながらお蔵入りとなり、20余年のときを経て日の目を見た、都会的な雰囲気と爽快感のある佳作だ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ボンファの音楽活動は、故郷のリオデジャネイロにおいて、がんにより78歳でこの世を去るまで、とどまるところを知らなかった。おそらく“次世代の<strong>エリゼッチ・カルドーゾ</strong>”の異名を取るブラジルの実力派女性シンガー、<strong>イタマーラ・コーラックス</strong>のブラジリアン・ミュージックからジャズ・スタンダーズまで採り上げたアルバム『<em>ラヴ・ダンス</em>』(2003年)あたりが、最晩年のレコーディングだろう。もともとサンバ・カンサゥン・スタイルのギタリストだったボンファは、ボサノヴァはもちろんのこと、クラシック、ジャズ、フュージョン、ソウル、ポップスなど、生涯にわたって様々なジャンルの音楽をプレイしたが、彼の奏でる音楽からはおしなべてブラジル音楽の風味が香る。そこがいい。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-7250 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2025/05/gentlerain2.png" alt="雨の中に傘を持って佇む赤いレインコートの女性とピアノ" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2025/05/gentlerain2.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2025/05/gentlerain2-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　ただ『黒いオルフェ』の音楽でボンファが残した功績があまりにも偉大過ぎて、彼のことを語るときそればかりが取り沙汰されるものだから、ちょっとお気の毒にも思われる。あまり知られてはいないかもしれないが、実際ボンファは『黒いオルフェ』以外にも20本以上の映画の音楽を手がけているのだ。そこで今回、そのなかから選りすぐりの１枚をご紹介しようと思う。もちろんボンファが作曲と演奏を務めたサウンドトラック・アルバムだから、内容的にはブラジル音楽がベースとなっている。しかしながらこの映画のためにクリエイトされたサウンドは、リオデジャネイロのカルナヴァルをストレートにイメージさせる『黒いオルフェ』のそれとは一線を画すものである。そしてそれは、いま聴きたい涼感を誘う音楽でもある。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　この『<em>ザ・ジェントル・レイン</em>』(1965年)は、1966年に公開されたアメリカとブラジルとの合作映画のサウンドトラック・アルバムだ。映画は『殺人会社』(1960年)『機関銃を捨てろ』(1961年)などのギャング映画で知られる、<strong>バート・バラバン</strong>監督の作品。バラバンにとっては、遺作にあたる。彼はこの映画が公開される３か月まえに、がんでこの世を去った。主演は<strong>クリストファー・ジョージ</strong>と<strong>リンダ・デイ</strong>で、ふたりは本作ではじめて共演したのだけれど、1970年に結婚している。映画は主にブラジルで撮影されたようだが、リオデジャネイロで出会ったアメリカ人の若い男女の恋が静かな語り口で描かれている。自動車事故で恋人を失ったことがショックで<ruby>緘黙<rt>かんもく</rt></ruby>症となった建築家(ジョージ)と、人生への情熱を見つけるために異国の地を踏んだ女(デイ)との恋の行方が切なく綴られる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　利いた風な口をきいてしまったが、実はぼくはこの映画を観たことがない。それもそのはずで、本作は日本ではいまだに未公開のままなのだ。おそらく海の向こうで、すでに失敗作のレッテルを貼られてしまったからだろう。本作はフロリダ州のフォートローダーデールで行われたワールドプレミアでの評判があまり芳しくなく、アメリカでも一部の劇場で限定公開されるのみにとどまった。バラバン監督は、その演出において思慮深く理知的であると評価されるいっぽうで、作品には独自の視点がなく新鮮味がないという批判を浴びた。確かにシノプシスを読んだ限りでは、使い古された表現が頻繁に使われたメロドラマのようにも思われる。しかしながら、首尾一貫、美しさと口当たりのよさが継続するという見解もあるようだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　本編は未見だが、このサウンドトラック・アルバムを聴いていると、たとえストーリーは陳腐であってもこの映画、少なくとも醸し出す雰囲気はスタイリッシュなのではないか──と、ぼくは想像をめぐらしてしまう。それだけアルバム『<em>ザ・ジェントル・レイン</em>』は、素晴らしい出来なのである。正直に告白すると、エヴァーグリーンな名盤とはいえフォルクローレの色彩が強いせいか、ぼくは『<em>黒いオルフェ</em>』を差し置いて、ややもするとソフィスティケーテッドな印象を与える『<em>ザ・ジェントル・レイン</em>』のほうをターンテーブルにのせてしまう。さらに云うと、ボンファのコンポジションにおいても、名曲「オルフェの歌」よりもアクの抜けた感じの「ザ・ジェントル・レイン」(ポルトガル語のタイトルは「シュヴァ・デリカダ」)のほうが好みだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　いやいや、ボンファの作曲家としての手腕が発揮されたという点では、むしろこの『<em>ザ・ジェントル・レイン</em>』のほうが格段に優れているように思われる。その証拠に、このアルバムに収録されている「ザ・ジェントル・レイン」「ノンストップ・トゥ・ブラジル」「オ・ガンソ」は、“ボサノヴァの女王”の異名を取る<strong>アストラッド・ジルベルト</strong>のセカンド・アルバム『<em>いそしぎ</em>』(1965年)で早々とカヴァーされている。もともとインストゥルメンタルだった３曲だが、このとき「ザ・ジェントル・レイン」は<strong>マット・デュベイ</strong>によって、そして「ノンストップ・トゥ・ブラジル」はデュベイと<strong>ノーマン・ギンベル</strong>とによって歌詞が付けられた。ジルベルトのサッパリしたヴォーカルと<strong>ドン・セベスキー</strong>のモダンなアレンジがいい感じだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc4">“デオダート・オーケストラ・フィーチュアリング・ボンファ”</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　残りの「オ・ガンソ」は歌詞は付されておらず、ジルベルトならではのキュートなスキャットで歌われる。こちらはブラジリアン・レアグルーヴのレジェンダリー・キーボーディスト、<strong>ジョアン・ドナート</strong>がアレンジを手がけている。なおこのアルバムにおいてジルベルトは、さらに「オルフェの歌」とボンファの曲に彼の奥さまでシンガーの<strong>マリア・トレード</strong>が歌詞を付けた「トリステーザ(ブラジリアン・ブルース)」も歌っている。結局のところアルバム『<em>いそしぎ</em>』では、全11曲中５曲でボンファの曲がセレクトされているのである。こうなってくると、このアルバムがバラバン監督の映画とタイアップして制作されたのではと、ぼくは想像をたくましくするばかりだ。あいにく映画はヒットしなかったけれど──。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　実はこの映画の楽曲が早い時期に採り上げられたアルバムが、もう１枚存在する。あの<strong>クインシー・ジョーンズ</strong>のポップなビッグ・バンド作品で、ジャズ・スタンダーズから<strong>バート・バカラック</strong>や<strong>ザ・ ローリング・ストーンズ</strong>の楽曲まで選曲された『<em>プレイズ・フォー・プッシーキャッツ</em>』(1965年)である。やはり「ザ・ジェントル・レイン」「ノンストップ・トゥ・ブラジル」の２曲がカヴァーされているのだが、どちらもポップ・スタイルのインストゥルメンタルとして気軽に楽しめる仕様となっている。ジョーンズはそのアレンジにおいて、原曲どおりボサノヴァ・テイストをちゃんと反映させながら、麗々しく捻りをきかせている。まあ、ぼくはどちらかというと、簡素な作りのオリジナル・ヴァージョンのほうが好みなのだけれど──。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ジョーンズの『<em>プレイズ・フォー・プッシーキャッツ</em>』はマーキュリー・レコードからリリースされたアルバムだが、実は『<em>ザ・ジェントル・レイン</em>』もまた同レーベルの１枚。発表のタイミングにも留意すると、ほんとうにこの２枚が商業的な成果を上げるための提携作品だったと思えてくる。いずれにしても『<em>ザ・ジェントル・レイン</em>』は、単なるサントラ盤では終わらないアルバムである。プロデューサーを名曲「蜜の味」の作曲者として知られるピアニスト、<strong>ボビー・スコット</strong>が務めていることも目を引く。そして本作の最大の魅力は、オーケストラのアレンジとコンダクティングをのちにフュージョン・シーンを席巻するキーボーディスト、<strong>エウミール・デオダート</strong>が手がけていることだ(吹き込みはリオデジャネイロで行われた)。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-7251 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2025/05/gentlerain3.png" alt="雨の中に傘を持って佇む赤いレインコートの女性" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2025/05/gentlerain3.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2025/05/gentlerain3-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　デオダートは1942年６月22日、リオデジャネイロの生まれ。郷里はおなじだけれど、ボンファのほうは1922年10月17日生まれ。年齢的には親子ほど離れている。さらには、デオダートが12歳でアコーディオン、14歳でピアノをはじめ、17歳にしてレコーディングを経験するという天才型ミュージシャンであるのに対し、ボンファは11歳からウルグアイ出身のクラシック・ギタリスト、<strong>イサイアス・サビオ</strong>に師事し、演奏技術の向上に粉骨砕身で取り組んだ、どちらかというと努力型のひと。世代も経歴もまったく違うふたりだが、本作では絶妙なコンビネーションを発揮している。デオダートはその後、1967年にリオからニューヨークに移住することになるが、彼をアメリカに呼び寄せたのはボンファだったという。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　デオダートは『<em>ザ・ジェントル・レイン</em>』のレコーディングに参加する直前まで、デビュー・アルバム『<em>無意味な風景</em>』(1964年)をはじめとするリーダー作や、“<strong>オス・ガトス</strong>”、“<strong>オス・カテドラーチコス</strong>”といったグループ名義の作品を立てつづけに制作している。まさにノリに乗っているときで、とにかくそのオーケストレーションは絶品である。ボンファのペンによるサウダージ感覚に溢れたメロディック・ラインも然ることながら、デオダートのオーケストレーションが織りなすアーバンなサウンド・タペストリーが素晴らしい。その点、このアルバムには、“<strong>エウミール・デオダート・オーケストラ・フィーチュアリング・ルイス・ボンファ</strong>”といった趣きがある。まあぼくもそれがお目当てで、本作を手にとったのだけれど──。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　アルバムのオープニングを飾る「ザ・ジェントル・レイン」は、中間でオーケストラが挿入されるが、なんといってもボンファ・スタイルのメランコリックなつま弾きが圧倒的。澄み渡った空のように爽快な「オ・ガンソ」は、モダンなオーケストラル・チューン。エスプリの効いたサンバ「オープン・エア・マーケット」では、賑々しいドラミングが楽しい。グルーヴィーな「テイキング・ジュディ・ホーム」では、ストリングスの小刻みな動きがサッパリとした空気を生んでいる。オーケストラが全面的にフィーチュアされた「ビルズ・レター」では、アルバム中もっともエモーショナルでドラマティックな展開が見られる。寛いだ感じのボサノヴァ「イッツ・テンプティング」では、フルートのそつのないプレイがいい具合だ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　軽快なサンバ「サタデイ・イン・リオ」では、前半のフルートとサックスとによる交互に奏でられるメロディ、中盤からの金管が加わったメトリック・モジュレーション、カルナヴァルの装い、後半のトロンボーンのソロといった、構成の妙が光る。ゆったりしたボサノヴァ「ノンストップ・トゥ・ブラジル」では、<strong>ヘンリー・マンシーニ</strong>風のオーケストレーションがエレガントな雰囲気を醸し出す。レコードでは、ここまでがA面である。２度目の「オ・ガンソ」は、コンボ・スタイルでの演奏。シロフォンとミュート・トロンボーンが茶目っけイッパイに歌う。ケレン味のないサンバ「コパ・ビーチ」では、その小気味いいグルーヴ感を楽しむのみ。つづく「ザ・ジェントル・レイン」と「ノン・ストップ・トゥ・ブラジル」はともに２度目の演奏だが、ボンファのギター演奏をたっぷり楽しむことができる。後者のストリングスにはやはりマンシーニの影がチラつく。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　寂寥感が漂う「プリーズ・ヘルプ・ミー・ワン・モア・タイム」では、ストリングスによるアンサンブルがちょっと<strong>レモ・ジャゾット</strong>の「アダージョ ト短調」を彷彿させる。ジャジーな「ジュディズ・ストーリー」は、<strong>クインシー・ジョーンズ楽団</strong>の演奏を想わせる。フルートのソロもなかなかいい。３度目の「ザ・ジェントル・レイン」もまた、ボンファのソロ演奏。短尺の「アクロス・ア・テーブル」では、ストリングスによるポルタメントを効かせた表現がブルージーなムードを高める。４度目の「ザ・ジェントル・レイン」では、キーがマイナーからメジャーに変更されている。ピアノ・ソロも含めて清涼感のあるアレンジが、ハッピー・エンディングを予感させる。以上17曲、尺はみな短めだが珠玉の名曲揃い。本作は、実に贅沢な味わいのサウンドトラック・アルバムだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
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<p class="wp-block-paragraph">最後まで読んでいただき、ありがとうございました。</p>
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		<title>Eumir Deodato / Very Together (1976年)</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kimama]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 11 Jun 2023 09:00:10 +0000</pubDate>
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		<category><![CDATA[Eumir Deodato]]></category>
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					<description><![CDATA[クロスオーヴァー時代の大スター、エウミール・デオダート]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<h2><span id="toc1">クロスオーヴァー時代の大スター、エウミール・デオダート</span></h2>

<div class="wp-block-cocoon-blocks-label-box-1 label-box block-box has-border-color has-ex-a-border-color">
<div class="label-box-label block-box-label box-label"><span class="label-box-label-text block-box-label-text box-label-text">recommendation</span></div>
<div class="label-box-content block-box-content box-content">
<p class="wp-block-paragraph"><img loading="lazy" decoding="async" class="wp-image-703 alignleft" style="margin-bottom: 0px;" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png" alt="" width="101" height="92" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-300x274.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records.png 640w" sizes="(max-width: 101px) 100vw, 101px" /><em>Album : Eumir Deodato / Very Together (1976)</em></p>
<p style="text-align: right;"><em>Today&#8217;s Tune : Amani</em></p>
</div>
</div>


  <div id="toc" class="toc tnt-disc toc-center tnt-disc border-element"><input type="checkbox" class="toc-checkbox" id="toc-checkbox-8" checked><label class="toc-title" for="toc-checkbox-8">目次</label>
    <div class="toc-content">
    <ol class="toc-list open"><li><a href="#toc1" tabindex="0">クロスオーヴァー時代の大スター、エウミール・デオダート</a><ol><li><a href="#toc2" tabindex="0">クロスオーヴァーとは、なんだろう？</a></li><li><a href="#toc3" tabindex="0">デオダートはどんな音楽家？</a></li><li><a href="#toc4" tabindex="0">MCA時代の作品がオススメ</a></li></ol></li></ol>
    </div>
  </div>

<h3><span id="toc2">クロスオーヴァーとは、なんだろう？</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ご存知のとおり、フュージョンは、音楽のジャンルとして類型化する以前は、クロスオーヴァーと呼ばれていた。1960年代の後半から1970年代の半ばくらいまでのことだったと記憶する。ぼくは、ほぼリアルタイムで、その過程を見聞している。年の離れた従兄からモダン・ジャズを指南されたのも、おなじころだった。ところが、ぼくがクロスオーヴァーに興味をもっていると知るやいなや、従兄はアニキカゼを吹かせて「あれは軟弱でダメだね」と、すげなくはねつけた。そして、まるで不甲斐ないものでも見るように、ぼくに<ruby>一瞥<rt>いちべつ</rt></ruby>を投げたのだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　まあ、そんな状況でも、どちらかといえばコセコセしないコドモだったぼくは、口惜しがったりもせず「へえ、そういうものなのか。でも好きなんだもん」くらいに、軽く流していたな。でもそのいっぽうで、従兄の云うこともなんとなく理解した。モダン・ジャズでも、<strong>マイルス・デイヴィス</strong>が電気楽器を使ったり、ロックのリズムを採り入れたりしていたけれど、行き着くところ、その音楽の根幹をなすのは即興演奏。イージーリスニングでダンサブルな娯楽音楽とは、魂の入りかたが違うということなのだろう。確かにジャズ・スピリッツは素晴らしい！でも、それがすべてではない。このころから、ぼくはそう思っていたのだね。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ぼくは、音楽でいちばん大事なのは、明解であるか難解であるかの違いはあるにしても、ちゃんと心地よさを有する──ということだと思う。聴くにしても演るにしても、やはり気持ちよくならないとね──。そんな信条みたいなものが、小学校高学年のぼくにも、すでに芽生えていた。とはいっても、特別に早熟だったわけではなくて、単純に音楽が好きだったのね。勉強は全然できなかったけれど、ピアノのレッスンに行くのはとても楽しかった。あと、妹がヤマハの音楽教室でエレクトーンを習っていたのが、刺激になった。彼女は幼いころから、ロックやボサノヴァや映画音楽の名曲を弾いていたからね──。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="alignnone  wp-image-1168 aligncenter" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/usa-500x325.png" alt="アメリカの国の形" width="462" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/usa-500x325.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/usa-300x195.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/usa-768x499.png 768w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/usa-800x520.png 800w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/usa.png 1000w" sizes="(max-width: 462px) 100vw, 462px" /></p>
<p>　そんなわけで、本格的にジャズを聴きはじめるまえに、ぼくはクラシックはもちろんのこと、様々なポピュラー・ミュージックに親しんでいた。だから、クロスオーヴァーが流行りはじめたのは、これはもう願ったり叶ったりのことだったわけ。手練れのスタジオ・ミュージシャンたちによってクリエイトされる、ジャズ、ロック、ラテン、クラシックなどなど、あらゆるジャンルを超えた快然たるサウンドに、ぼくはやにわに惹きつけられたもの。そこには、モダン・ジャズほど先鋭的ではないけれど、確たる即興演奏があり、それを引き立たせるための意匠が凝らされたアレンジメントがある。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　実は、ぼくがアレンジというものに興味をもったのは、クロスオーヴァーを聴きはじめたときのこと。特にCTIレコードの作品からは、とても影響を受けた。<span class="marker">CTI</span>とは“<span class="marker">Creed Taylor Incorporated</span>”の略で、音楽プロデューサーの<strong>クリード・テイラー</strong>の名にちなんだジャズ・レーベル。テイラーといえば、ABCパラマウント、インパルス！、ヴァーヴといったレーベルにおいて、ジャズの名作をたくさんプロデュースしてきたひと。百戦錬磨の彼は、まずA&amp;Mレコードの傘下でCTIレーベルを立ち上げ、ほどなくして独立。レーベルのコンセプトは、ジャズをポピュラライズするというものだった。そして、出来した音楽は結果的に、クロスオーヴァーと呼ばれるようになったのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc3">デオダートはどんな音楽家？</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　CTIの作品では、当時のポップスやソウル・ミュージックのカヴァー、それにクラシック曲のパラフレーズ・ナンバーが積極的に採り上げられていた。リズム・セクションのバックにオーケストラを加えるのも、定式化していた。そんな趣向が凝らされるのだから、当然まとめ役が必要になる。さもありなん、現に<strong>クラウス・オガーマン</strong>、<strong>ドン・セベスキー</strong>、<strong>ボブ・ジェームス</strong>、<strong>デヴィッド・マシューズ</strong>といったハウス・アレンジャーや、GRPレーベルを立ち上げるまえの<strong>デイヴ・グルーシン</strong>、アルゼンチ出身の<strong>ラロ・シフリン</strong>といった<ruby>錚々<rt>そうそう</rt></ruby>たる顔ぶれが、ソロイストが繰り出す熱いプレイに、スウィートな響きを加えていたのだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そんななかにもうひとり、ブラジル出身の<strong>エウミール・デオダート</strong>の存在を忘れるわけにはいかない。なんといっても、1973年にリリースされた彼のCTIでの第一作『<em>ツァラトゥストラはかく語りき</em>』(原題は『<em>Prelude</em>』)は、あまりにもインパクトが大きい。しかも、アルバムのA面１曲目の「ツァラトゥストラはかく語りき」は、シングルカットされ500万枚以上のセールスをあげた。当時のアメリカ国内でのレコード販売数としては、驚天動地の天文学的数字！誰もが知る、<strong>リヒャルト・シュトラウス</strong>が作曲した交響詩の「アインライトゥン(序奏)」が、ファンキーでエレクトリックなインストゥルメンタルにアレンジされている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　この曲の人気の背景には、1968年公開の映画『2001年宇宙の旅』のヒットがあることは、否定できないだろう。<strong>スタンリー・キューブリック</strong>が監督した、この叙事詩的SF作品は、賛否が分かれたが、とにかく世界中で大きな話題を呼んだ。キューブリックの記号体系が<ruby>晦渋<rt>かいじゅう</rt></ruby>を極めたこの映画、何度観てもよくわからないのだが、何度でも観たくなる変な作品だ。特にR.シュトラウスの原曲が使用された、ヒトザルが骨を武器にするシーンは、強烈な印象を残した。なお、この演奏はアンクレディテッドだが、<strong>ヘルベルト・フォン・カラヤン</strong>指揮/<strong>ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団</strong>によるものであることは、あまりにも有名。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="alignnone  wp-image-1169 aligncenter" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/brazil-500x375.png" alt="ブラジルの国の形" width="400" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/brazil-500x375.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/brazil-300x225.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/brazil-768x576.png 768w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/brazil-800x600.png 800w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/brazil-1536x1152.png 1536w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/01/brazil.png 1600w" sizes="(max-width: 400px) 100vw, 400px" /></p>
<p>　というわけで「ツァラトゥストラはかく語りき」は、とてもポピュラーな曲になった。この人気曲をジャズ・ファンクの先駆けのようなサウンドで売り出してしまうところに、テイラーのプロデューサーとしてのしたたかさが感じられる。デオダートのほうも、自己のグループに“<strong>2001スペース・バンド</strong>”なんていう名前をつけてしまうのだから、まったく抜け目がない。とはいっても、そういう屈託のない性質が魅力でもある。CTIのハウス・アレンジャーたちはみんな、その音楽的装飾の技法にアートオリエンテッドなところがあるけれど、彼にはそれがない。<ruby>衒<rt>てら</rt></ruby>いのないゴージャスなアレンジと、自由闊達なエレピの演奏が、彼の持ち味。そんな臆することもなくキャッチーなサウンドをクリエイトしてしまうようなところに、ぼくはとても惹かれるのだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　あっという間にスターの座へ駆け上がったデオダートは、同年にCTI第二作『<em>ラプソディー・イン・ブルー</em>』(原題は『<em>Deodato 2</em>』)を発表。このアルバム・リリースの異例のスピード加減からも、彼が時のひとだったことがわかる。日本でもたちまち彼は人気者になり、CTIの当時のディストリビューター、キングレコードなどは『<em>白いピューマ</em>』(原盤はブラジル時代の『<em>Os Catedráticos 73</em>』/1973年)や『<em>アランフェス協奏曲</em>』(原盤はイタリアのシンガー、<strong>マッシモ・ラニエリ</strong>の『<em>Meditazione</em>』/1976年)といった、奇妙奇天烈なレコードまで発売している。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ちなみに、デオダートの「ツァラトゥストラはかく語りき」はその後、<strong>ピーター・セラーズ</strong>主演の映画『チャンス』(1979年)で使用された。主人公がワシントンの中心街に向かうシーンで流れるのだけれど、確かにこの場面では原曲よりもデオダートのプログレッシヴなサウンドがよく似合う。そんな大ヒット作を彼が制作し得たのも、先ごろ他界した<strong>アストラッド・ジルベルト</strong>をはじめ、<strong>ワルター・ワンダレイ</strong>、<strong>アントニオ・カルロス・ジョビン</strong>、<strong>ミルトン・ナシメント</strong>、<strong>ウェス・モンゴメリー</strong>、<strong>ジョージ・ベンソン</strong>、<strong>スタンリー・タレンタイン</strong>などの、初期のCTI作品でのアレンジャーとしての仕事ぶりが認められたからだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc4">MCA時代の作品がオススメ</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ただお断りしておくが、デオダートが全米規模の大スターになったのは、確かにCTI時代だけれど、彼の才能はそれよりもずっと以前に開花していた。彼は1967年にリオからニューヨークに移住したが、ブラジル時代にすでにコンポーザー、アレンジャー、キーボーディストとして大活躍していた。12歳でアコーディオンを手にした彼が、初リーダー作『<em>無意味な風景</em>』(1964年)を発表したのは、22歳のとき。その後1973年まで彼は、ソロ名義のリーダー作や、“<strong>オス・ガトス</strong>”、“<strong>オス・カテドラーチコス</strong>”といったグループ名義の作品、さらに映画のサントラ盤など、たくさんのアルバムをリリースしている。そのサウンドはいかにも、ポップでグルーヴィーなボサノヴァといった風情。そうはいっても、日本でその全貌が知られるようになったのは、1990年代の後半になってから──。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さてさて、前述のように「ツァラトゥストラはかく語りき」の大ヒットで一躍スポットを浴びたデオダートは、その一年後、早々にCTIを去る。大手のMCAレコード(現在のユニバーサルミュージック)に移籍したのだが、このあたりも、なかなかチャッカリしているね。でも、ブラジル時代から大らかで明瞭なサウンドを繰り広げていた彼のことだから、より自由に自分の音楽をクリエイトしたかったのだろう。なにせCTIは、テイラーのプロデュース、<strong>ルディ・ヴァン・ゲルダー</strong>のレコーディングと、レーベル・カラーが濃厚だからね。それなりに制約もあったことだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　確かに、MCAにおける彼の作品は、アルバム・コンセプトにしても、サウンド・プランにしても、それまでより鷹揚さが増している。カヴァー曲においては、クラシック曲のパラフレーズ・ナンバーがぐっと減り、かわりにジャズ・スタンダードや同時代のロックやレゲエのヒット曲が目につく。MCAで制作されたアルバムは『<em>旋風</em>』(1974年)『<em>アーティストゥリー</em>』(1974年)『<em>ファースト・クックー</em>』(1975年)『<em>ヴェリー・トゥゲザー</em>』(1976年)の計４枚で、すべてデオダート自身がプロデュースを手がけた。だから、メロディアスなテーマ、タイトでステーブルなリズム、そしてブラジリアン・テイストと、どこを切っても彼らしさが飛び出してくるのだ。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class=" wp-image-1686 aligncenter" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/brazilatsunset-500x280.jpg" alt="リオデジャネイロの夕暮れ時の風景" width="536" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/brazilatsunset-500x280.jpg 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/brazilatsunset-800x448.jpg 800w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/brazilatsunset-300x168.jpg 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/brazilatsunset-768x430.jpg 768w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/brazilatsunset-120x68.jpg 120w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/brazilatsunset-160x90.jpg 160w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/brazilatsunset-320x180.jpg 320w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/brazilatsunset.jpg 1456w" sizes="(max-width: 536px) 100vw, 536px" /></p>
<p>　実はぼくは、デオダートの作品ではMCA時代のものが、もっともナチュラルにその音楽性が表出していて、好きなのである。その後のワーナー・ブラザースの一連のアルバムも決して悪くはないけれど、徐々にディスコやソウルのカラーが深まり、逆にジャズやブラジル音楽の風味は薄まるという、いささかコマーシャルにはしるキライがあった。そのサウンドには、女性ヴォーカル、フォー・オン・ザ・フロア、ハンド・クラッピングなどが溢れかえっていて、そこに彼らしいフェンダー・ローズのアドリブ・ソロが登場する余地は、もはやなかった。そんなことを、アッケラカンとやってしまうところもまた、彼らしいといえば彼らしいのだけれど──。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ということで、ぼくのオススメは、MCAの最終作『<em>ヴェリー・トゥゲザー</em>』だ。アルバムの完成度は、本作がダントツ。選曲にしてもアレンジにしても、非常にバランスがいい。ニューヨークの名うてのスタジオ・ミュージシャンたちの使いかたも、適材適所だ。A面──<strong>ヘンリー・マンシーニ</strong>の名曲「ピーター・ガン」は、ディスコ・チューンに様変わり。迫力満点のブラス・アンサンブルとソウルフルな女性コーラスがクール。デオダートのオリジナル「スパニッシュ・ブギ」は、躍動感あふれるベースが強力なアップテンポのジャズ・ファンク。やはりオリジナルの「アマニ」は、一転してミッドテンポのブラジリアン・ナンバーで、これぞデオダート！といった感じ。モーグ、トロンボーン、フルートとソロもいい。さらにオリジナルの「ブラック・ウィドウ」は、オフビートなドラムスのパターンが独特な、アーバン・ムードの曲。</p>
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<p>　B面──デオダートのオリジナル「ワニータ」は、ファンク・グルーヴが強調されたダイナミックな曲。テナーのソロが、やたら鳴きまくっていて印象に残る。<strong>ボブ・マーリー</strong>の有名曲「アイ・ショット・ザ・シェリフ」は、見事にクロスオーヴァーに変身。デオダートのローズのソロにもR&amp;Bテイストが横溢。<strong>アレクサンダー・カレッジ</strong>作曲の「宇宙大作戦のテーマ」は、テレビ番組「アメリカ横断ウルトラクイズ」で使用された、<strong>メイナード・ファーガソン</strong>によるカヴァーが有名。ぼくは、どちらかといえばスペーシーなデオダートのヴァージョンのほうが好き。デオダートのオリジナル「ユニヴァク・ラヴズ・ユー」は、サウダージ感覚に富んだエレクトリックなバラード。やはり、原点はブラジル！この独特なコード進行こそ、案外デオダートの音楽性を象徴するもののように、ぼくには思われるのだけれど、いかがだろう。</p>
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