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	<title>Chick Corea | 気ままに音楽生活</title>
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	<description>いささか気ままに──ではありますが　素敵な音楽をご紹介してまいりますので　どうぞよろしくお願いいたします</description>
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	<title>Chick Corea | 気ままに音楽生活</title>
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		<title>Chick Corea / The Leprechaun (1976年)</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kimama]]></dc:creator>
		<pubDate>Sun, 15 Feb 2026 06:53:42 +0000</pubDate>
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		<category><![CDATA[Chick Corea]]></category>
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					<description><![CDATA[チック・コリアが描き出すファンタジックかつロマンティックで、あたかもコンセプチュアル・アートのような音世界の嚆矢となったアルバム『妖精』]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<h2><span id="toc1">チック・コリアが描き出すファンタジックかつロマンティックで、あたかもコンセプチュアル・アートのような音世界の嚆矢となったアルバム『妖精』</span></h2>

<div class="wp-block-cocoon-blocks-label-box-1 label-box block-box has-border-color has-ex-a-border-color">
<div class="label-box-label block-box-label box-label"><span class="label-box-label-text block-box-label-text box-label-text">recommendation</span></div>
<div class="label-box-content block-box-content box-content">
<p><img decoding="async" class="wp-image-703 alignleft" style="margin-bottom: 0px;" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png" alt="" width="101" height="92" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-300x274.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records.png 640w" sizes="(max-width: 101px) 100vw, 101px" /><em>Album : Chick Corea / The Leprechaun (1976)</em></p>
<p style="text-align: right;"><em>Today&#8217;s Tune : Lenore</em></p>
</div>
</div>

  <div id="toc" class="toc tnt-disc toc-center tnt-disc border-element"><input type="checkbox" class="toc-checkbox" id="toc-checkbox-2" checked><label class="toc-title" for="toc-checkbox-2">目次</label>
    <div class="toc-content">
    <ol class="toc-list open"><li><a href="#toc1" tabindex="0">チック・コリアが描き出すファンタジックかつロマンティックで、あたかもコンセプチュアル・アートのような音世界の嚆矢となったアルバム『妖精』</a><ol><li><a href="#toc2" tabindex="0">そのピアノ・プレイは正確無比かつ変幻自在</a></li><li><a href="#toc3" tabindex="0">音楽においてもっとも重要視しているのは創造性</a></li><li><a href="#toc4" tabindex="0">アイルランドに伝わる妖精の物語で構成された作品</a></li></ol></li></ol>
    </div>
  </div>

<h3><span id="toc2">そのピアノ・プレイは正確無比かつ変幻自在</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　<strong>チック・コリア</strong>のアルバムを聴いていていつも感心するのは、どんなスタイルの作品であっても、常にそのクオリティが一定の水準に達しているということだ。しかもそのレベルが、ほかのアーティストのそれよりも非常に高いのである。そしてさらに、コリアの音楽作品に触れたときは必ずと云っていいほど、なにがしかの発見がある。だから彼のアルバムをターテーブルに乗せた日といえば、ぼくは身もこころも満ち足りた状態になるのだ。たとえそこに、いささか自分の嗜好とのズレがあったとしても、コリアのアルバムを聴き終わったあとには、この上ない充足感に満たされるものだから、まったく敬服するばかりだ。むろん彼はピアニストとしてもトップクラスのひとだけれど、個人的にはその圧倒的なクリエイティヴィティに強く惹かれる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　思えばぼくがコリアの音楽を聴きはじめてから半世紀近くも経つが、いまもそれは楽しみ尽くすことがないものとなっている。ぼくがコリアのアルバムを手にとるキッカケは、中学２年生のときにクラスメイトのKくんが強力にプッシュしてくれたこと。彼はクラスでいちばんの優等生だったけれど、ちょっとほかの生徒たちよりも大人びていた。Kくんは高校生のお兄さんの影響でジャズを愛好していた。彼にとって共通の趣味をもっているおなじ年ごろの子どもといえば、ぼくがはじめてだったとのこと。あのころの中学生のあいだでは、<strong>ゴダイゴ</strong>、<strong>サザンオールスターズ</strong>、それに<strong>オフコース</strong>などの曲が流行っていた。稀に見る洋楽好きでも愛聴している音楽といえば、<strong>アバ</strong>、<strong>クイーン</strong>、それに<strong>ザ・ビートルズ</strong>と、ロックが中心だった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ジャズやフュージョンを聴いている中学生は、間違いなく少数派だった。そんなわけで、転校生だったこともあってクラスでちょっと浮いた存在だったぼくは、Kくんとふたりでよく音楽の話題で盛り上がっていた。彼とはジャズ以外のハナシはあまりしなかったけれど、会話に興じているときのぼくといえば、なんとなく自分の価値が認められているような気がして、内向的な人間としてはずいぶんと救われたものである。そんなKくんが敬愛していたピアニストが、<strong>ジョー・サンプル</strong>、そして<strong>チック・コリア</strong>だった。それまでぼくは、このふたりについては名前こそ知っていたが、実際にその演奏に触れたことは一度もなかった。Kくんについていこうといういじましさと、未知の音楽への好奇心から、ぼくは慌ててこのふたりのレコードを１枚ずつ購入した。</p>
<p><img fetchpriority="high" decoding="async" class="aligncenter wp-image-8790 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/leprechaun1.png" alt="グランドピアノと３人の妖精(背景色が緑)" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/leprechaun1.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/leprechaun1-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　<strong>ジョー・サンプル</strong>は云うまでもなく、テキサス州ヒューストン生まれのフュージョン・グループ、<strong>ザ・クルセイダーズ</strong>のキーボーディスト。ぼくが最初に手に入れたのは彼の個人名義のリーダー作で、ABCレコードからリリースされた『<em>虹の楽園</em>』(1978年)というアルバム。この作品でサンプルはわりとアーシーに弾きまくっているのだけれど、それに対して彼の書いた曲ははどれもメロディアスかつロマンティックなものばかりで、このレコードはまだビギナーだったぼくにもとても聴きやすいものだった。問題は<strong>チック・コリア</strong>のほう。中学生のお財布にやさしい廉価盤という理由だけで、ぼくがレジカウンターにもっていったのは、ソリッド・ステート・レコードからリリースされた『<em>ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス</em>』(1968年)というアルバムだった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　このアルバム、ピアノ・トリオの歴史を塗りかえるような革命的な作品として、広く受け入れられている。ベーシストを<strong>ミロスラフ・ヴィトウス</strong>、ドラマーを<strong>ロイ・ヘインズ</strong>が務めた伝説的なレコーディング。はじめて聴いたときは正直云って、あまりその良さがわからなかった。ただ、一聴でコリアがスゴいピアニストであるということだけは、ぼくにもハッキリとわかった。それでもコリアの超絶技巧のピアノ・プレイには圧倒されるばかりで、それを純粋に楽しむゆとりなど、未熟なぼくにはまったくなかったのである。いまでは、のちにブルーノート・レコードからリリースされた『<em>サークリング・イン</em>』(1975年)で日の目を見たアウトテイクスも含めてこのときの演奏には、ぼくもすっかり慣れ親しんでいるのだけれど──。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　中学時代にはじめて聴いたサンプルとコリアのピアノ・プレイについて、各々の本来の音楽性や活動状況からすれば、比較する必要はないと思われる。それでも個人的にはふたりの演奏を同時に聴いたものだから、ぼくは自然とふたつのスタイルを並べて違いを見つけるようなことをしてしまった。いまでも敢えてその共通点を挙げることに、価値や重要性はまったくないと思われるのだが、当時のぼくの感想を素直に云っておくと、それはサンプルにしてもコリアにしてもとにかくよく指を動かすピアニストというものだった。サンプルの第一印象は、ときにファンキーときにリリカルなピアニスト。ただフィンガリングは躍動的でタッチも力強いのだけれど、あまり秩序立てて弾くプレイヤーではないと思われた。嫌いではないが概して云えば、彼はぼくの好みのタイプのピアニストではない。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　それでもサンプルのときにリリカル、ときにダイナミックな演奏は、聴いていて胸がすくほど気持ちがいい。その点ではコリアにもおなじことが云えるのだが、彼の場合はそのタッチがもっと繊細で力強く、感情表現の幅が非常に広いと感じられた。なによりもそのプレイで驚かされたのは、コリアの紡ぎ出す一音一音がきわめて正確で、高速のパッセージにおいてもまったく濁るようなことはなく、煌びやかで透明感が際立っているということ。当時のぼくの感覚では、<strong>マッコイ・タイナー</strong>をもっとシャープにしたような感じというか、粒立ちのよさという点ではタイナーよりも秀でているように思われた。とにかくコリアの奏でる音の揃いかたは、ぼくにはまるで機械のように正確と感じられたのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　しかもコリアはリズム感も抜群によく、右手が忙しく動いているのにもかかわらず、左手のコンピングにおいても、絶妙なタイミングでパーカッシヴな捻りやアクセントがつけられているのだ。さらにそれには、不協和音も織り交ぜられた独自のハーモニーが含まれていて、コリアのピアノ・プレイといえば、もはや正確無比かつ変幻自在と云うしかない。まあ当時のぼくは、そんな点にただただ驚嘆するばかりで、コリアという音楽家のほんとうの素晴らしさを理解していなかったと思う。そもそもぼくの聴きかたに問題があった。難易度の高い演奏技術が駆使されて創造される音楽というものは、実はアタマで理解しようとしてはダメなのだ。音楽は理屈で理解するものではなく、こころに響かせるもの。そんな当たりまえのことに、そのころのぼくは少しも気付いていなかったのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc3">音楽においてもっとも重要視しているのは創造性</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　それでもぼくは、クラスメイトのなかで唯一の自分の理解者がすすめてくれたアーティストのレコードだから、わけもわからず『<em>ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス</em>』を繰り返し聴いていた。そしてあるとき、自分がとらわれていたであろう雑念のようなものが、ふと解消された。すなわち、それまでスリリングな演奏のなかに紛れて見えなかった、コリアの映像的とも云える美しい歌ごころを、ぼくの感性はようやくキャッチしたのだった。そもそも彼は、指をどれだけ速く動かせるかを聴衆に見せつけるために、高度なテクニックを用いているのではないのだ。自分のなかに浮かんだ心象風景や空想世界を、思いのままに音楽として表現するのに必要だからこそ、コリアはときに難易度の高い演奏に傾倒するのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そんなことを意識しながらあらためてコリアの音楽に触れてみると、彼は音楽至上主義というよりもしごく透明感に溢れたイマジネーションの独自性が高いミュージシャンと思われる。以降、ぼくにとってコリアの存在はぐっと身近になり、次はどんな音楽の旅に連れていってくれるのだろうと、彼の新譜をこころ待ちにするほどになった。とはいっても、ぼくにとって彼はいつまでも、はじめて聴いたときの印象どおり、クリアなアーティキュレーション、鋭敏なリズム感、そして豊かなクリエイティヴィティに富んだフレージングと、とにかくスゴいテクニックをもったピアニストなのである。ぼくもピアノを弾くけれど、たとえコリアの千倍練習したとしても、彼には及びもつかないだろう。そんなことは、百も承知、二百も合点なのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　それでもぼくがコリアの音楽にシンパシーを感じるのは、彼がどんな音楽作品をクリエイトするときでも、自分の想像力を大事にしているという点。コリアの音楽を聴いていると、どんな場合でも彼が自己の知識を基に新しいイメージを生み出しているように感じられるのだ。たとえ直接見聞きしていない事象や経験したことのない未来、あるいは現実には存在しないものであっても、コリアはそれをアタマのなかで思い描き音楽という形で具現化することができるのだと、ぼくは思う。しかも彼の場合、その創造性はジャンルを超えた多様性、絶え間ない革新への意欲、そしてスパニッシュな感性に特徴づけられている。ジャズであろうがフュージョンであろうが、コリアは常に新しい音楽的探求をしつづけた。そんな彼がミュージック・シーンに与えた影響は大きい。</p>
<p><img decoding="async" class="aligncenter wp-image-8791 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/leprechaun2.png" alt="グランドピアノと３人の妖精(背景色が水色)" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/leprechaun2.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/leprechaun2-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　ぼくは冒頭でコリアの音楽について、どんなスタイルの作品であっても、常にそのクオリティが一定の水準に達していると云ったけれど、その判断に至った根拠はまさにそこにあるのだ。多様性という点では、たとえば『<em>ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス</em>』におけるピアノ・トリオでのアグレッシヴで幾何学的な演奏から、彼の初期のグループ作品『<em>リターン・トゥ・フォーエヴァー</em>』(1972年)におけるフェンダー・ローズをメインに据えたエレクトリック・ジャズへのアプローチ、さらにデジタル時代のフュージョン・グループ作『<em>ザ・チック・コリア・エレクトリック・バンド</em>』(1986年)における多種多様のシンセサイザーが駆使されたサウンドまで、使用する楽器や編成だけに着目しても多岐にわたっていることがわかる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　音楽のスタイルの面でもコリアは、ジャズの帝王ことトランペッターの<strong>マイルス・デイヴィス</strong>のバンドでの実験的な活動を経て、ベーシストの<strong>デイヴ・ホランド</strong>、ドラマーの<strong>バリー・アルトシュル</strong>らと組んだグループ、<strong>サークル</strong>で大胆なフリー・ジャズを展開しているし、その後自身のバンド、<strong>リターン・トゥ・フォーエヴァー</strong>を結成し、フュージョンという新しい音楽ジャンルの確立において中心的役割を果たした。音楽ジャンルで考えてみても、コリアはジャズを基盤としながらも、クラシック、ラテン、スパニッシュなど世界中の音楽文化を融合させて、独自のサウンドを生み出した。いずれにしてもその多様性は、コリアが卓越した演奏技術を身につけていながら、音楽においてもっとも重要視していたのは創造性であると、ぼくは確信する。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さらにもうひとことつけ加えると、次々に音楽的探求と多様性に富んだ作品を発表してきたコリアだが、それらにはスタイルやジャンルは違えども確たる一貫性がある。一部には否定的な意見もあるようだけれど、ぼくはそう確信している。引き合いに出して申し訳ないが、コリアとは何度も共演しているピアニストの<strong>ハービー・ハンコック</strong>と比較すると、ますますそう固く信じて疑わなくなってしまうのだ。ハンコックもまたコリアと同様に、多様性に富んだミュージシャンだ。だがオーソドックスなジャズ作品からエレックトリック・ジャズをはじめとするポップ・アルバムまで、ハンコックの手がけた音楽作品の全体を俯瞰してみると、それらは明らかに一貫性に欠けるている。なかには事前に情報を知らされずに聴かされたら、だれが演奏しているのかわからないような楽曲もあるのだ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そんなわけで、音楽的探求と多様性に富んだ、しかもクオリティの高いコリアの膨大な数の作品群のなかからベストワンを選ぶのは、きわめて困難と云える。ピアノ・トリオによるレコーディングのみに絞り込んでも、彼は作品の方向性によってサイドメンを選ぶのだろう、12種類のトリオが存在する。このこともまた、コリアのコンセプトに応じて柔軟に対応する、飽くまで創造性重視の音楽性をよくあらわしていると、ぼくは思う。多くのジャズ・ピアニストの場合、音楽性を高め合える相性のいいサイドメンとともに、長きにわたり活動するもの。しかしながらコリアの場合は違う。彼はアルバムを制作する際には程度の差こそあれ、必ず一定のテーマに基づいて編成や楽曲を選んでいるのだ。そういう意味で、コリアは単なるジャズ・ピアニストではなく、終始表現の自由にこだわり抜いた偉大な音楽家だった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　さて、長々とコリアの音楽性について自身の思いの丈を述べてきたが、ここからはその珠玉の作品群のなかから、ぼくにとって特に思い入れのあるアルバムをご紹介したいと思う。トリオ、フリー・ジャズ、フュージョン、クラシック、ソロ・ピアノ、デュオと、まあとにかく多彩を極めるコリアの夥しい数の作品のなかでも、ある種のコンセプト・アルバムのようなものに、ぼくは強く惹かれる。特にジャズというひとつのジャンルにとらわれることなく、彼がイメージする心象、あるいは空想する世界が自由に表現され、実にカラフルなサウンドが創出された３作品をお薦めする。それらはどれもファンタジーに満ちたロマンティックなアルバムだが、すべて1970年代後半の作品。幻想的な音世界が描き出されているという点では、<strong>リターン・トゥ・フォーエヴァー</strong>の『<em>浪漫の騎士</em>』(1976年)以降の作品とも共通する。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc4">アイルランドに伝わる妖精の物語で構成された作品</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ときにその３作品とは、アイルランドに伝わる妖精の物語で構成された『<em>妖精</em>』(1976年)、過去の作品からもすでに影響が感じられていたスペインの音楽にディープに傾倒した『<em>マイ・スパニッシュ・ハート</em>』(1976年)、<strong>ルイス・キャロル</strong>の小説『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』にインスパイアされた『<em>マッド・ハッター</em>』(1978年)。以上のアルバムでは、ファンタジックかつドラマティックな展開や、ジャズ/フュージョンのなかにクラシックが盛り込まれた不思議な音世界が特徴となっている。３作はすべてポリドール・レコードからリリースされたが、なかでも『<em>妖精</em>』と『<em>マッド・ハッター</em>』は、特にファンタジーの色彩が強い作品。そのどこか異国情緒が漂う魔法がかったようなサウンドには、何度聴いてもワクワクさせられる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　３作のうち制作順ではまんなかに位置する『<em>マイ・スパニッシュ・ハート</em>』は、ほかの２作と比較すると異世界風というわけではないが、壮大な音楽絵巻という印象を与えるところは共通する。アコースティック・ピアノ、フェンダー・ローズ、そして当時の最先端だった各種のシンセサイザーが巧みに使いわけられ、ジャズ、ラテン、クラシックの境界線が越えられているというのも同様。コリアの音楽的ルーツであるスペイン音楽への憧憬が、全面的に独自の解釈で表現されているという点では、彼のディスコグラフィにおいて重要な作品と云える。コリアはポリドールにおいてひきつづき『<em>シークレット・エージェント</em>』(1978年)『<em>フレンズ</em>』(1978年)といったアルバムを制作するが、ファンタジー色は薄まったものの彼の想像力豊かな世界観はそのまま引き継がれている。この２作もまた、個人的に好きな作品だ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ということで今回は、コリアが描き出すファンタジックかつロマンティックで、あたかもコンセプチュアル・アートのような音世界の嚆矢となったアルバム『<em>妖精</em>』についてお伝えする。レコーディングは、レコードのジャケット等にその記載はないが、おそらく1975年にニューヨークのレコード・プラント・スタジオで行われたのだろう。当時のコリアといえば、<strong>リターン・トゥ・フォーエヴァー</strong>のアルバムを吹き込む際に、毎回このスタジオを利用していたからね──。エンジニアはコリアの作品を多く手がけている<strong>バーニー・カーシュ</strong>が務めている。またコリアの作品において、彼の妻(1972年に結婚)でもと<strong>マハヴィシュヌ・オーケストラ</strong>のメンバーだった、<strong>ゲイル・モラン</strong>のヴォーカルがフィーチュアされるのも、本作がはじめてだった。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-8792 size-full" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/leprechaun3.png" alt="グランドピアノと３人の妖精(背景色が灰色)" width="500" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/leprechaun3.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2026/02/leprechaun3-300x180.png 300w" sizes="(max-width: 500px) 100vw, 500px" /></p>
<p>　モランはその後『<em>マイ・スパニッシュ・ハート</em>』『<em>マッド・ハッター</em>』『<em>シークレット・エージェント</em>』さらに『<em>タップ・ステップ</em>』(1980年)『<em>タッチストーン</em>』(1982年)と、コリアのアルバムでは常連となる。さらに彼女は<strong>リターン・トゥ・フォーエヴァー</strong>のメンバーとなり、アルバムでは『<em>ミュージックマジック</em>』(1977年)『<em>ザ・コンプリート・コンサート</em>』(1978年)の吹き込みに参加している。そのいっぽうで、ワーナー・ブラザース・レコードからリリースされたモランのリーダー作『<em>妖精の舞</em>』(1979年)では、コリアがプロデューサーを務めている。コリアはもちろんのこと、<strong>リターン・トゥ・フォーエヴァー</strong>のベーシスト、<strong>スタンリー・クラーク</strong>も参加しているので、興味のあるかたは手にとってみてはいかがだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ところでレコーディング・メンバーは、<strong>チック・コリア</strong>(key, perc)、<strong>エディ・ゴメス</strong>(b)、<strong>アンソニー・ジャクソン</strong>(b)、<strong>スティーヴ・ガッド</strong>(ds)、<strong>ジョー・ファレル</strong>(ss, fl, ehr)、<strong>ダニー・カーン</strong>(tp)、<strong>ボブ・ミリカン</strong>(tp)、<strong>ジョン・ガッチェル</strong>(tp)、<strong>ビル・ワトラス</strong>(tb)、<strong>ウェイン・アンドレ</strong>(tb)。さらにクラシカルなストリング・クァルテット(vln ×２, Vla ×1, Vc ×1)が加わる。なお云うまでもないが、ゴメスはアコースティック・ベース、ジャクソンはエレクトリック・ベース・ギターを弾いている。すべてのドラムスをガッドが担っているが、相変わらず精緻なリニア・ドラミング、歌うようなタム回し、そしてタイトかつグルーヴィーなタイム感を披露している。彼のキャリアにおいて、代表的なパフォーマンスのひとつと云ってもいいだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　いっぽうコリアが本作で使用している楽器は、アコースティック・ピアノ、フェンダー・ローズ・エレクトリック・ピアノ、ヤマハ・エレクトリック・オルガン、ホーナー・クラヴィネット、アープ・オデッセイ、マイクロモーグ、モーグ・モデル 15 モジュラー・シ​​ンセサイザー。またこのレコーディングには、パーカッショニストは参加しておらず、ボンゴ、ベル、ウッドブロック、ベルツリー、タムタムなどは、コリア自身が演奏している。アルバム・タイトルの原題となっているレプラコーンは、ケルト神話に由来する老人の姿をした靴職人の小妖精。虹のたもとに金貨の入った壺を隠していて、捕まえた者に富をもたらすと云われている。ある意味で、コリアの創造力と音楽的な遊びごころを体現したキャラクターと云ってもいいだろう。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　収録曲は１曲を除いて、すべてコリアが作編曲したもの。アルバムはエキゾティックなムードが漂う「インプス・ウェルカム」からスタート。オーヴァー・ダブによるコリアの独奏。マイクロモーグのソロがリスナーをファンタジーの世界へ誘う。つづく「レノア」は、軽快なフュージョン・ナンバー。ガッドのファンキーかつタイトなドラミングに乗って、コリアがアコースティック・ピアノとモーグとでエナジェティックなアドリブを展開する。内省的な雰囲気の「夢想」では、コリアのリリカルなソロ・ピアノが静謐を湛えた美しい世界を描き出す。モランの透明感に溢れたコーラスも素晴らしい。そのモランが作詞作曲を手がけた「世界を見つめて」は、アコースティックなポップ・ナンバー。ストリング・カルテットの力強い演奏も印象的だ。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　モランのヴォーカル・パートは柔らかで優しい感じだが、後半のインストゥルメンタル・パートではゴスペル・タッチかつプログレッシヴ・ロック風な展開になる。歌詞の意味はよくわからないけれど、個人的にはコリアのことを歌っているようにも思われる。ファンキーなグルーヴが炸裂する「夜の精」は、アルバム中もっともアグレッシヴなナンバー。コリアのシンセ、ファレルのソプラノのソロも然ることながら、ジャクソンとガッドとによる精力的かつ歯切れのいいリズム・キープが素晴らしい。ジャクソンのゴースト・ノートを効果的に採り入れたライン、ガッドのダイナミックな変幻自在のドラミングに胸がすく。<strong>ネヴィル・ポーター</strong>が作詞した「ソフト・アンド・ジェントル」は、歌詞もそうだが詩情豊かなナンバー。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ポーターは<strong>リターン・トゥ・フォーエヴァー</strong>の楽曲の歌詞で、おなじみのひと。ストリング・クァルテットが加わったパフォーマンスは、クラシカルでリリカルな雰囲気を溢れさせながら、やがて重厚感を増すようになる。モランのヴォーカルも滑らかな感じで歌い出し、次第にエモーショナルになっていく。ゴメスによるベースの音色も印象的な、アコースティックな１曲だ。いかにも妖精たちがコミカルに踊っているようなイメージの「ピクシランド・ラグ」では、コリアがラグタイム調の軽やかなソロを披露。短尺ながら、彼の遊びごころが横溢する楽しいナンバーだ。ラストの「妖精の夢」は、２部構成の大作。幻想的なテーマ、複雑なアンサンブル、各ミュージシャンの熱いソロと、実に聴き応えのある１曲。この越境するクリエイティヴィティこそ、まさにコリアの世界そのもの。ぜひ聴いていただきたい。</p>
<p>&nbsp;</p>
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<p>最後まで読んでいただき、ありがとうございました。</p>
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		<title>Chick Corea / The Mad Hatter (1978年)</title>
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		<dc:creator><![CDATA[kimama]]></dc:creator>
		<pubDate>Tue, 28 Feb 2023 06:19:12 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[Fusion]]></category>
		<category><![CDATA[Chick Corea]]></category>
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					<description><![CDATA[無限に広がるイマジネーションが創造するアーティスティックな音世界 目次 無限に広がるイマジネーションが創造するアーティスティックな音世界難易度の高い演奏技術が駆使されて生み出された音楽終始表現の自由にこだわり抜いた偉大な [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[<h2><span id="toc1">無限に広がるイマジネーションが創造するアーティスティックな音世界</span></h2>

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<div class="label-box-label block-box-label box-label"><span class="label-box-label-text block-box-label-text box-label-text">rec</span><span class="label-box-label-text block-box-label-text box-label-text">ommendation</span></div>
<div class="label-box-content block-box-content box-content"> <img loading="lazy" decoding="async" class="wp-image-703 alignleft" style="margin-bottom: 0px;" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png" alt="" width="101" height="92" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-500x456.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records-300x274.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/records.png 640w" sizes="(max-width: 101px) 100vw, 101px" />
<p><em>Album : Chick Corea / The Mad Hatter (1978)</em></p>
<p style="text-align: right;"><em>Today&#8217;s Tune : The Mad Hatter Rhapsody</em></p>


</div>
</div>


  <div id="toc" class="toc tnt-disc toc-center tnt-disc border-element"><input type="checkbox" class="toc-checkbox" id="toc-checkbox-4" checked><label class="toc-title" for="toc-checkbox-4">目次</label>
    <div class="toc-content">
    <ol class="toc-list open"><li><a href="#toc1" tabindex="0">無限に広がるイマジネーションが創造するアーティスティックな音世界</a><ol><li><a href="#toc2" tabindex="0">難易度の高い演奏技術が駆使されて生み出された音楽</a></li><li><a href="#toc3" tabindex="0">終始表現の自由にこだわり抜いた偉大な音楽家</a></li><li><a href="#toc4" tabindex="0">不思議の国のチック・コリア</a></li></ol></li></ol>
    </div>
  </div>

<h3><span id="toc2">難易度の高い演奏技術が駆使されて生み出された音楽</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　<strong>チック・コリア</strong>の突然の訃報を聞いて、驚きと哀しみを禁じ得なかった音楽ファンは、とても多かったと思う。あれから二年──歳月は、まるで何事もなかったかのように過ぎていくものだから、こんなときは、時の神様はなんて無慈悲なのだろうと感じられる。ひとの世ははかない。どんなものでも消滅流転し、永遠不変のものはない。しかしながら、ひとが生きた証しは残る。チックが創造した音楽は、世界に数多存在する音楽を愛するひとたちの胸に、深く刻まれていることだろう。かく云うぼくも、そのひとり。チックの作品を聴いていると、彼がいますぐ近くに居るようにさえ感じられるのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ぼくのチックに関する思い出は、中学二年生のころにさかのぼる。東京生まれのぼくは、その近県とはいえ在郷とも云いたくなるようなところに位置する中学校に転校した。いまでは珍しくもなんともないと思うのだけれど、当時、ピアノを弾いたりジャズを聴いたりしているような十三歳は、自然のなかでゆったり暮らしているクラスメイトたちにとって、まったくの闖入者だった。しかも、ぼくのほうも愚かなことに、クラスのみんなにとって自分は必要のない存在──なんて、いまから思うとずいぶん自分勝手な疎外感を抱いてしまった。いずれにしても、ぼくの内向性はこのころに生まれた。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　そんなまだ青い果実だったぼくに、声をかけてくれたのは、クラスでいちばんの優等生、Kくんだった。実は、彼は高校生のお兄さんの影響で、ジャズを愛好していた。彼にとって、共通の趣味をもっているおなじ年ごろの子は、ぼくがはじめてだったとのこと。彼とはジャズ以外の話はあまりしなかったけれど、いつも会話が弾んで、そんなときは、なんとなく自分の価値が認められているような気がして、ずいぶんと救われたもの。そんなKくんが敬愛していたピアニストが、<strong>ジョー・サンプル</strong>、そして<strong>チック・コリア</strong>だった。当時、ぼくはこのふたりについては、名前こそ聞いたことはあったが、実際にその演奏に触れたことはなかった。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class=" wp-image-1036 aligncenter" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/student-500x1660.png" alt="" width="90" height="299" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/student-500x1660.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/student-300x996.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/student-463x1536.png 463w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/student-617x2048.png 617w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/student.png 625w" sizes="(max-width: 90px) 100vw, 90px" /></p>
<p>　そのときの自分に、Kくんに付いていこうといういじましさがあったことは否定できないけれど、それよりも未知の音楽への好奇心が激しく掻き立てられて、まもなくぼくは、このふたりのレコードを一枚ずつ購入した。<strong>ジョー・サンプル</strong>のほうは『<em>虹の楽園</em>』(1978年)というアルバムで、ここでジョーはわりとアーシーに弾きまくっているのだけれど、それに反して彼の書いた曲はどれもメロディアスでロマンティックだったから、とても聴きやすかった。問題は<strong>チック・コリア</strong>のほう。中学生のお財布にやさしい廉価盤という理由だけで、レジにもっていったのは『<em>ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス</em>』(1968年)という作品だった。このアルバム──正直云って、初めて聴いたときは、あまり良さがわからなかった。一聴で、チックがすごいピアニストであると、確信させられたのにもかかわらず──。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　このアルバムは、ピアノ・トリオの歴史を塗りかえるような革命的な作品と広く受け入れられているが、当時のぼくはまだ、そんなことは知る由もなかった。そしてはじめは、ただただチックの超絶技巧のピアノ演奏に圧倒されるばかりで、純粋にこの作品を楽しむゆとりなど、未熟な自分にはまったくなかったのである。感覚的には、<strong>マッコイ・タイナー</strong>をもっとシャープにしたような感じ──というか、マッコイよりも音の揃いかたが機械のように正確だな──と、そんな点に驚嘆するばかり。でも、その素晴らしさがわからなかったのは、実はぼくの聴きかたに問題があったから。難易度の高い演奏技術が駆使されて生み出された音楽を、アタマで理解しようとしてはダメなのだ──。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc3">終始表現の自由にこだわり抜いた偉大な音楽家</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　それでもぼくは、クラスメイトのなかで唯一の自分の理解者がすすめてくれたアーティストの作品だから、わけもわからず『<em>ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス</em>』を繰り返し聴いていた。そうはいっても、たとえば読書のときにとか、昼寝のときにとかで、あまり真剣には聴いていなかったのだけれど──。ところが、そんないいかげんな聴きかたが、かえって功を奏したのか、ある日、自分がとらわれていたであろう雑念のようなものが、ふと解消された。それまでスリリングな演奏のなかに紛れて見えなかった、映像的とも云える美しい歌ごころを、ぼくの感性はようやくキャッチしたのである。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　音楽は、理屈で理解するものではなく、こころに響かせるもの──そんな、あたりまえのことを、ぼくはすっかり忘れていた。そして、音楽家は、芸術家ではあっても、大道芸人ではない。指をどれだけ速く動かせるかを、聴衆に見せつけるために、高度なテクニックを用いているのではない。自分のなかに浮かんだ心象風景や空想世界を、思いのままに音楽として表現するのに必要だからこそ、ミュージシャンはときに難易度の高い演奏に傾倒するのである。そんなことを意識しながら、あらためてチックの音楽に触れてみると、彼は音楽至上主義というよりも、とても透明感に溢れたイマジネーションの独自性が高く優れたひと──と、思われる。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　その後早々に、ぼくにとって<strong>チック・コリア</strong>の存在はぐっと身近になり、それは、次はどんな世界に連れていってくれるのだろう？──と、彼の新譜をこころ待ちにするほどだった。とはいっても、ぼくにとって彼はいつまでも、はじめて聴いたときの印象どおり、すごいピアニストなのである。彼の才能には、たとえ千倍練習したとしても、ぼくなどは及びもつかない。そんなことは、百も承知、二百も合点だ。それでも、ぼくがシンパシーを感じるのは、彼がどんな音楽作品をクリエイトするときでも、自分の想像力を大事にしているという点。イマジネーションが不在では音楽もまた人生と同様、味気ないものになってしまうものだから──。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="alignnone  wp-image-1030 aligncenter" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/usagigrand-500x333.png" alt="" width="450" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/usagigrand-500x333.png 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/usagigrand-300x200.png 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/usagigrand-768x512.png 768w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/usagigrand-800x533.png 800w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/usagigrand-1536x1024.png 1536w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2023/02/usagigrand.png 1800w" sizes="(max-width: 450px) 100vw, 450px" /></p>
<p>　ところで、進取の気性に富んだチックの膨大な数の作品群のなかからベストワンを選ぶのは、極めて困難である。たとえば、ピアノ・トリオによるレコーディングのみに絞り込んでも十二種類のトリオがある(作品の方向性でメンバーを替えている)。このことは、彼のヴァーサティリティに富んだ音楽性をよくあらわしていると思う。多くのピアノ・トリオは、(音楽性を高め合える)相性のいいメンバーでほぼ固定的に、長きにわたり活動するもの。だが、チックの場合は違う。彼は作品を制作する際には必ず、程度の差こそあれ、一定のテーマに基づいて編成や楽曲を選んでいるのだ。そういった意味で、彼は、単なるジャズ・ピアニストではなく、終始表現の自由にこだわり抜いた偉大な音楽家だった。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　というわけで、これはまったく個人的な好みになってしまうのだが、トリオ、フリー・ジャズ、フュージョン、クラシック、ソロ・ピアノ、デュオ……と、まあとにかく多彩なチックの作品群のなかでも、ある種のコンセプト・アルバムのようなものに、ぼくは強く惹かれる。特にジャズというひとつのジャンルにとらわれることなく、彼がイメージする心象と空想が自由に表現されて、実にカラフルなサウンドとして出来した三作品はおすすめ。それは──アイルランドに伝わる妖精の物語で構成された『<em>妖精</em>』(1976年)、過去の作品からもすでに影響が感じられていたスペイン音楽にディープに傾倒した『<em>マイ・スパニッシュ・ハート</em>』(1976年)、そして、ぼくのいちばんの愛聴盤、<strong>ルイス・キャロル</strong>の小説『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』にインスパイアされた『<em>マッド・ハッター</em>』(1978年)。</p>
<p>&nbsp;</p>
<h3><span id="toc4">不思議の国のチック・コリア</span></h3>
<p>&nbsp;</p>
<p>　なかでも『<em>マッド・ハッター</em>』は、チックの奔放な想像力と芸術的な創造性が、渾然一体となって作り出した音楽世界のなかでも、もっとも傑出した作品と、ぼくは評価する。組曲仕立てのアルバム・コンセプトは極めて明解で、ストーリー性のある楽曲構成もとても理解しやすい。おそらく、たとえジャズに興味がないひとでも、その魅力的な世界に抵抗なく入っていけるだろう。さあ、あなたも、少女アリスとともに、白ウサギを追ってウサギ穴に飛び込もう！そして音楽の異世界に迷い込みながら、めくるめく冒険の旅を体験しよう！</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　オープナーは序曲ともいった風情の「ザ・ウッズ」で、リスナーはこの曲でいきなり現実世界から離脱させられる。ピアノとマリンバがポリメトリックに別々の時間を刻みはじめると、数種のモーグ・シンセサイザー、アープ・オデッセイ、オーバーハイム８ヴォイスなどのシンセサイザーが美しいアンサンブルを奏でる。中盤のクラシカルなピアノの即興演奏は、まるでとれたての果実のように瑞々しく響く。やがてアコースティックとエレクトロニックの、それぞれの異種楽器たちは一気に溶け合う──。ここでの演奏は、オーヴァー・ダブにより、すべてチックひとりによって行われた。この一曲だけとっても、このアルバムを聴く価値があると、ぼくは思う。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　つづいて、ピアノと弦楽四重奏による「トウィードル・ディー」は20世紀の新古典主義からの影響が感じられる。チックのピアノもバルトーク・ベラ風に、パーカッシヴに跳ねる。この曲は「ザ・トライアル」へとつながり、ホーン・セクションが加わる。そして、<strong>ハーヴィー・メイソン</strong>(ds)によるマーチング演奏と<strong>ジェイミー・ファント</strong>(b)のしなやかなフィンガー・ピッキングをバックに、チックの奥さま、<strong>ゲイル・モラン</strong>(vo)が「タルトを盗んだのはだ〜れ？ハートのキング？」という感じに、反復的に歌い上げるのが、ちょっと奇妙でもありユーモラスでもある。</p>
<p><img loading="lazy" decoding="async" class="aligncenter wp-image-1034" src="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/alice-500x375.jpg" alt="不思議の国のアリスとウサギ" width="400" height="300" srcset="https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/alice-500x375.jpg 500w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/alice-800x600.jpg 800w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/alice-300x225.jpg 300w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/alice-768x576.jpg 768w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/alice-1536x1152.jpg 1536w, https://kimama-music.com/wp-content/uploads/2024/05/alice.jpg 1600w" sizes="(max-width: 400px) 100vw, 400px" /></p>
<p>　後年、<strong>チック・コリア・アコースティック・バンド</strong>の『<em>ラウンド・ミッドナイト</em>』(1991年)でセルフ・カヴァーされた「ハンプティ・ダンプティ」は、いまではチックの代表曲のひとつ。アルバム中、唯一の４ビートでもっともジャジーな曲。とはいってもスウィンギーではない。のちにステップスやマンハッタン・ジャズ・クインテットでコンビを組む、<strong>スティーヴ・ガッド</strong>(ds)&amp;<strong>エディ・ゴメス</strong>(b)が、コンテンポラリーでタテ割りな４ビートを刻んでいく。それに乗って、<strong>リターン・トゥ・フォーエヴァー</strong>の元メンバー、<strong>ジョー・ファレル</strong>のテナー・サックスとチックのミニモーグが、軽快にアドリブする。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　やはりミニモーグとテナーのソロがフィーチュアされる「プレリュード・トゥ・フォーリング・アリス」〜「フォーリング・アリス」は、ふたりのソロに呼応したハーヴィーの素晴らしいドラミングに注目。彼が、神様的なガッドとはまるで違うタイプのドラマーであることが、確認できる。ファントのアルコ・ベースがフィーチュアされた短い「トウィードル・ダム」をはさんで、サンバ風のリズムに乗って、今度はゴメスのベース・ソロが大きな特色となる「ディア・アリス」がスタート。中盤のファレルのフルートと後半のガッドのパラディドル(やはり彼は神様だ！)も快調。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>　ラストのフルメンバーで演奏される「マッド・ハッター・ラプソディ」(後半はふたたび「フォーリング・アリス」になる)は名曲。ガッドの気持ちのいいハイハット・ワークに乗って、チックのミニモーグと<strong>ハービー・ハンコック</strong>のフェンダー・ローズが大ソロ合戦を展開！特にハービーのアドリブ・ソロは、これまでの彼の即興演奏のなかでもかなりの名演と云える。以上──異世界では時間の経過があまりにも速い(およそ50分)。しかしながら、チック不在の現世にあっても、ぼくたちはいつでも時間と空間を超越して、不思議の国のチックに出会うことができる。それは本作のように、彼の創造した音楽が、想像力と芸術が一心同体となったものだったから──。その入り口まで、ひとりぼっちのぼくを誘ってくれたKくんのように、もし、この拙文が読者の世界を拡大する一助にでもなれば、ぼくはとても嬉しい！</p>
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<p>最後まで読んでいただき、ありがとうございました。</p>
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